第7話 時雨式
「早速、時雨式教える。」
咲穂が言った。移動は一旦止め、提案に乗って実行することにしたらしい。俺も異存はない。というより願ったりだったりする。咲穂の太刀筋を見ていて気を惹かれたのだ。
「昨夜も言ったけど時雨式はその名の通り、私の実家……時雨家の祖先が編み出した剣術。刀術って言うんだっけ。当時、大規模な戦乱が頻繁に起こっていた時代で、ただの兵である祖先は逃げて生き延びることがやっとだったらしい。でも限界を感じていた。そこで生まれたのが時雨式。成立までの詳細は不明。ただ、公歴として残っているから、その戦火は相当のものだった。だから、時雨式に演舞はない。完全な実践剣術、それも多種多様な場面に対応すべく、技の範囲は多岐にわたる。仕掛け技や応じ技は勿論、抜刀技とか投げ技もある。」
ふむ。歴史と成立におかしな点はない。咲穂はこうした説明も苦手なのかと思っていたが、案外そうでもないようだ。
それにしても、聞いてみると俺の戦闘スタイルにピッタリな気がしてきたな。俺は状況に合わせて使う武器や戦い方を変えるタイプだ。その点、時雨式はお誂え向きで、基本技以外をも持つことで手札が増える。それこそ抜刀技や……
「……投げ技?時雨式には体術もあるのか?」
「ある。ただ、さっき挙げた投げ技は体術じゃなくて、剣を投げる。」
そう言って咲穂は構えて見せた。刀を逆手に持ち、剣先を目線の延長線上に据えて引く。
「……的当て?」
「そうともいう。」
咲穂が納刀しながら言った。
「兎も角。時雨式は幅が広い。多くの技を持っても使い分られないと、それはただ悩む原因になるだけ。」
「そうだな。俺やお前は常に手を変えて戦闘している。武器は変わらずとも、技巧を凝らしたり力押しをしてみたり、時には偽ることもある。それを秒単位、またはそれ以下で行うのだから迷いは命取りだ。」
「そう。だから、使う技の術理は全部理解しないといけない。……令に言われた通り、私は誰かに教えたことがない。」
咲穂が刀に手を添える。その様子は悲しげのように、しかし前向きに見えた。
「けれど時雨式には誰よりも詳しいと思ってる。……あなたは私の旅の仲間。必ず扱えるようにする。」
そう言い切った咲穂に悲しげな様子はなかった。俺も煽るように言い返す。
「それは楽しみだな。頼んだぞ、自称才能に恵まれなかった人さん。あれだけ詳しく分かりやすく説明しておいて、とんでもない嘘つきだな。」
「嘘はついてない。あの説明は教本を少し修正しただけ。」
「それがどうなんだという話だ。まぁいい。それだけの理解力があるのなら、俺も魔力の扱いを教えてみるか。」
すると咲穂が目を輝かせながら(実際は何も変わっていないが)言った。
「本当に?よろしく。」
「気が向いたらな。」
「ん。」




