第5話 旅の仲間
「それじゃ、行くか。」
昨夜の自己紹介が終わった後すぐ眠りについたので、現在朝。
ひとまず薪などを片付けて出発の準備を終えたところだ。
昨夜は軽く自己紹介をして、すぐ眠りについた。と言うのも、だいぶ遅い時間だっらしく、かつ激しめの戦闘だったため、目の前の人物の疲労は相当なものだったらしい。名前を告げた後船を漕ぎ出したからお開きにしたのだ。
そして今朝、ついさっき起きて出発の準備を整えたところだ。そんな荷物はないが。
声をかけた相手は昨夜、文字通り殺し合った女———時雨咲穂だ。和服を身に纏い、刀を差した所謂侍や武士と呼ばれる装いの女だ。
「分かった。問題ない。」
咲穂が答えた。
そしていざ出発……とはならない。
「それで?俺はお前の行き先に共に向かうことにした訳だが。どこへいくんだ?最終的な目的地でもあるのか?」
「そもそも私は明確な目的地は定めてない。だいたいは歩いて着いた街によるか、前の街で聞いた場所に向かうことにしてる。目的地はない、けれど旅の目的はある。昨日言った通り、強者……武具を使っても魔法を使ってもなんでもいい。とにかく、人と戦って、斃して、私が強くなる。それが目的。」
「ふむ。それは聞いた通りだな。それで?今回はどっちだ?行き先は気の向くままか?それとも当てがあるのか?」
「後者。前にいたところで聞いた街に向かう。大きめの街らしい。」
「方向は分かるのか?」
「自分が歩いてきた方向の木の特徴を覚えてる。そこから真っ直ぐ反対に歩けばいいだけ。」
ほう。見たところ、周りは似たような木ばかりだが。昨日の戦闘でもそうだったか、こいつは感覚が優れているようだ。感知出来ていないはずの魔法を読み取ったり、なんとなくだとは思うが僅かな違いすら怪しい木を判別できたりと。
そして俺たちは歩き出した。
……ふと、思ったが、昨日という表現すら正確ではないかもしれない。この星から見て俺は月が出ている時間帯に初めて降り立った訳だ。さらにこの星の暦や時間の流れ、周期がもといた星と同じとは限らない。その概念が認知されているかも分からない。移動中にいろいろ聞くか。
そう考えていると、先導する女が言った。
「ねぇ。」
「なんだ?」
「あなたは昨日、私に同行すると言った。その後私は、あなたが旅の仲間だと言った。」
「言ってたな。」
「それに文句を言わないということは、あなたは私の旅の仲間であると承認したことと同義。」
「……まぁ、そうだな。で?」
「旅の仲間をお前呼びはおかしいと思う。」
……感覚が鋭い人間は、天然になりがちとは真実だったようだ。いつか聞いた覚えがある。
「……そうか。なら時雨と呼ぼう。」
「咲穂でいい。」
「……しぐ」
「咲穂」
「…………咲穂。」
「ん。行こう、令」
そうして咲穂は前を向いて歩き出した。
◇
咲穂の案内の下しばらく。
森をぬけ、広々とした空が見えるところまでやってきた。
辺りは草原が広がっているが、よく見ると一部整備され、土の道となっている。街道だろう。
ふと、思った。俺は草原と因縁があるのだろうか。未知の場所に赴く時、はじめはだいたい草原に出るし、あれも草原だったはずだ。
「この先。この道に沿って進めば町。」
咲穂が振り返って言った。そしてすぐに歩き始めた。
無言の時間が過ぎていく。こうして誰かと歩くのは新しくないが、会話無しというのは新鮮だ。自分の好奇心故だろうが、こうした些細なことに感慨を憶える自分を不思議に思う。
感傷に浸っていると咲穂が言った。
「聞きたいことがある。」
「なんだ?」
咲穂が自分の腰に……刀に手を添えて言った。
「昨夜、話をした時にあなたはこの剣を対価にとった。その時あなたは、これのことを刀と呼んだ。」
「そうだな。……それが?」
咲穂は歩きながら首だけをこっちに向けて、器用に傾げて言った。
「刀って、なに?」
「……ん?」
刀は刀だろ。当然、お前が腰に下げている……待った。
「刀はお前の武器種のことだ。」
「?……これは剣。」
あー。やっぱり。
「確かに間違ってはいない。それも剣だ。だが、その剣のような湾曲した剣を刀と呼ぶんだよ。曲刀とかとの違いは厳密には知らんが。」
俺が答えると、咲穂は首を振って言った。
「違う。これは剣。そう呼ばれてた。」
「おそらく、刀という概念……と言うより考え方がないんだろうな。剣の中でも、そんな形状でより殺傷力に長けたのが刀だ。覚えておくといい。」
「そう。」
咲穂ばちょっと考え込んで、納得したように頷いた。さっきから気になっていたが、なんで首だけ振り向いたままいろいろ動かせるんだ?柔らか過ぎだろ。




