第4話 才能の有無
気絶した女を木にもたれるように座らせ、その近くで火を焚き、女が目を覚ますのを待った。
それから10分ほどで目を覚ました。やはり実力のある人間ほど自発的な気絶……つまり睡眠以外の気絶から戻る時間が短い傾向にあるような気がする。
しかもその女は優秀で、目を開けると同時に跳ね上がるように立って左腰に手をやって重心を落とした。もともと刀を差していたところだ。起きてすぐ反射的に抜刀できる体制になるとは。女がどんな人間なのかが垣間見えるな。
女は目だけを動かし、すぐに火を焚き倒れた木の上に座っているこちらに気付いた。そこで刀がないことにも気付いたようだ。多少動揺したことを隠せていない。
女に声をかける。
「落ち着けよ。戦闘はもう終わり。お前の負け、俺の勝ちだ。」
女は沈黙している。刀はないが構えを解かず、思案顔、というより納得いってないような顔をした。
「殺し合った仲ってことで、ちょっと話そうぜ。俺のことが信用ならないと言うなら……」
そう言ってあるものを掲げて見せた。女から回収した刀だ。それを見て女が目を丸くした。
「こいつが人質ってことで。まぁとりあえず座れよ。」
そう言って火を挟んだ対面の木を勧める。女が寝ている間に倒しておいたものだ。
女はしばらく考え込んでいたが、ゆっくりと対面に座った。刀を強引に取り返してこないとなると、話ができないタイプではないだろう。
「じゃあまず初めに。なぜいきなり攻撃して来た?」
「……あなたが、実力者に見えたから。」
女は細々とした、しかしはっきり聞こえる不思議な声で返した。
「実力者に見えた?俺は自分でも弱そうな見た目をしている自覚はあるぞ。」
「確かに、見た目はそうかもしれない。けれど、なんとなく、私の直感があなたは凄まじいと告げた。」
「勘か。そういった第六感とかが優れているものがいると言う話は聞いたことがあるな。だが、だからといってなぜ?」
「……私は、あなたのような強い人と戦いたい。そして、強くなりたい。ただそれだけ。」
「ほう……?理由を聞いてもいいか?」
「……私は今、家出している。理由は、家に居たくなかったから。私の家は剣術で名の知れた、
よく言う名家で、国でそこそこの権力を持っている。私はそんな家で、才能に恵まれなかった。刀の才能はなく、かと言って文や書などの他のことに秀でてもいない。家の教育で毎日剣の修練はやらされてた。兄弟姉妹が多くいて、毎日比べられる。両親からは落胆され、兄弟姉妹からは見下され、使用人には陰口を叩かれる。そんな環境が嫌になって家出した。私は才能はないけど刀は好きだから、旅をしながら強者を斃してる。あなたに攻撃したのは、こういうこと。」
「……なるほど、な。お前、今歳は?」
「16。」
「剣を習い始めたのは?」
「10。」
「……ん?」
ちょっと待て。
「お前、自分に才能がないって言ったよな?なぜそう思った?」
「私は幾ら修練を積んでも兄弟姉妹に勝てなかった。歳上である兄姉はともかく、歳の離れた弟妹にも。だから、私には才能がない。」
つまり、剣術で周りのものに勝てたことがないから、武者修行の旅をしていると。だが、さっきのは……
「……くくっ。面白いな。」
「?何が可笑しい?」
「いやだってな、明らかに事実と違う思い込みをしていることが、な。いろいろ言いたいことはあるが、取り敢えずお前、家出の理由はそれだけじゃないだろ。」
女が眉にシワを寄せた。多少の変化だったが、核を突いた証拠だ。
「お前は刀が好きだと言った。でも勝てない。修練はしている。つまりおおかた、その兄弟姉妹はほとんど修練をしていないんだろう。にも関わらず、そいつらに負けるから才能がないと思っている。」
女は沈黙している。否定しないのは図星だからだろう。
「次に、お前に才能がない?そんなバカな。剣を握ってたった6年で俺にある程度くらいつける奴が非才な訳あるか。」
「あなたはどれくらいの強さなの?」
「俺は最強だ。誰も俺に勝てない。人々に讃えられ、偉業と呼ばれることを成し遂げ、俺に影響を与えた人間はいたが、そいつらですら手も足もでなかった。それが俺だ。お前はどうだ?違うだろ。なんども俺の予想を上回り、あり得ないはずの現象を起こしてみせた。」
女はなお沈黙している。対応を図りかねているのだろう。
そんなことはお構いなしに話を続ける。
「最後に、お前、俺が何について面白いと言ったと思っている?」
「……私の話ではないの?」
「違う。俺が面白いと言ったのはお前自身だ。理由は、直感だな。」
女が沈黙している。しかし今度は、絶句している面があるように見える。
よし、決めた。
「お前、俺と取引をしよう。と言っても要求のようなものだ。いきなり仕掛けて来た賠償だ。なんなら、これを承諾する対価として刀を返してもいい。」
「……なに?」
「俺とともに旅をしよう。行き先はお前に任せる。何をするかもある程度は任せよう。……お前が抱える目的のために行動するといい。そこに、俺が加わるだけだ。」
女が顔を俯かせ火を見つめている。俺に言われたことが刺さっているのだろう。
やがて女は顔を上げて言った。
「分かった。それでいい。これから私とあなたは旅の仲間。」
「ああ。そうだ、自己紹介がまだだったな。俺は令。歳は、16だ。」
「私は時雨咲穂。よろしく。」
こうして、謎に包まれた星での旅が幕を開けた。




