第43話 掴んだ平和
熱を帯びたドス黒い煙が漂い、だんだんと晴れていく。今は煙で自分のすぐ近くしか見えないが、周囲には何かの破片のようなものが飛び散り、その破片や隙間から見える地面には黒色の液体がかかっている。
やがて完全に煙が晴れ、辺りが見回せるようになった。
自分の周囲にあった光景は裸眼で届かないほど遠くまで広がっており、一部は山のように積み重なっている。
「やってくれたな。」
そんな光景を眺めながら、俺はこの光景をつくりだした元凶に声をかけた。
その人物は悪びれもせず明るい声を出した。
「いやぁ、仕方ないだろう?魔王の正体に気づいてから、ミーネと話し合って見つけた唯一の方法だったんだ。それに、どんな方法に転んだとしても君は守ってくれるだろう?僕の信頼の証と思ってくれよ。」
膝を叩きながら立ち上がった人物———シドはそう言った。確かに俺は自分の術に絶対の自信があるが、こいつはそんな保証を持てない筈だ。
「全くです。」
その場にいるもう1人———アルミリネが声を出した。
「私も魔王のいた部屋で作戦を聞かされた時は愕然としました。そんな博打のような方法で、と。しかし、」
アルミリネは一度言葉を区切るとニヤリと笑った。それは旅の初めのような聖女らしいものではない、素を曝け出したような意地悪いような笑いだった。
「私もレイさんのことは信用しておりますので。あなたは、最強なのでしょう?」
「……アホか。」
俺の言葉に2人が笑う。
これだからやってられないんだ。俺とは違う、他をただ用いるだけでない、可能性の応用ができる人物。
特に何が腹立たしいかって、俺自身がそんなものに影響されていることだ。そのせいで、悪い気がしない。深い理性の部分には影響がないため感覚的には、自分の思考の中に温度差が生まれている感じだ。まぁ、今はいい。コイツらに付き合ってやろう。
やがて笑い終わったシドが、清々しくやり切った声を出した。
「さぁ、行こうか。みんなが待っているよ。」
そうして俺たちは歩き出した。
◇
魔王討伐から1週間かけて俺たちは聖都へやって来た。行きは各地を巡りながらだったため長かったが、真っ直ぐ早めに進むとこんなものだ。
聖都で2人は魔王討伐をなんとか教の教皇に報告した。ただ面会して伝えるだけでなく、公式の場で型通りに報告しなければならないらしく、かなりめんどくさそうだった。
俺?当然、逃げたとも。そんなことに付き合っている暇はない。だが、報告会はそれで免れたものの、今度はお披露目パレードをするらしく、それも逃げようとしたのだが勇者と聖女、教会が結託して正式な声明を出して追ってこようとしたため流石に譲歩した。決して見返りに屈し訳ではない。
パレードは想像通りくだらないものだった。集まって眺めて何がおもしろいのやら。
その後の食事は美味かったとだけ。
◇
終結を迎えて5年、ようやくヘタレ勇者がプロポーズしたらしい。シドが告白したのが当時から2年後の時点でヘタレなのは疑いようがない。
今日はその結婚式だ。2人は魔王討伐の旅の途中で多くの人間と知り合い、良き仲を築いている。そのためどこからか結婚の話を聞きつけた輩がわんさかやって来たため、結婚式を数日延長し、急遽通常のものに加えて聖都でパレードを行うことになった。順番としてはパレードの後に挙式と披露宴を行うらしい。挙式と披露宴については、新郎新婦が数を厳選したらしい。一応、俺も招待を受けた。無論、本番のほうだ。挙式は地球でいうところのキリスト教式に近い。挙式で新郎新婦が参列者と話す時間があったのだが、その時に2人がやたらキョロキョロしているのがおもしろかった。見ている限り、参列者全員と話していた。こっそり招待者一覧を覗いたので間違いない。それでもキョロキョロしていたのは、参加している筈の人物を探しているからだろう。見つかるわけない。建物の中にいる時は天井近く、外にいる時は空から見ていたのだから。
その後の披露宴ではおとなしく座っていた。こうしないと料理が出てこないからな。その披露宴でも新郎新婦は各席をまわるらしい。ご苦労なことだ。席はどちら招待したかで分けられており、2人がまわりやすくなっているようだ。つまるところ、呆気なく見つかる訳で
「!?!!」
「ようヘタレ勇者。結婚おめ。あ、これ結婚祝い」
出会い頭に美味かったワインを一本投げた。結婚式中ということで、大声をあげるのは頑張ったらしい。だが、シドは近くにいたスタッフに一言声をかけた。するとすぐにアルミリネがやって来た。
「シド、どうし……!?!!」
「よ、聖女。結婚おめ」
◇
さらに一年。今度は子供が産まれたらしい。
らしい、というのは勇者と聖女のことであるため、どうしても巷で噂になるのだ。別に空間魔法で覗いたという事実はない。ヤツらが結婚した時は。
という訳で出産祝いを持ってヤツらの家に襲撃した。2人は今ナスプレトに住んでいる。俺と2人が初めて会ったイルミア王国王都だ。
家の扉を叩き、出てきたのはシドだった。そして中に入れてもらった。2人とも俺が来たと分かったとき、驚いてすぐ苦笑していた。俺の自由行動にはもう慣れたらしい。
2人の子供も見た。髪と目はアルミリネ譲り、顔立ちはシド譲りの男の子だった。その子を愛でながら、そこがナスプレトだったこともあり、昔話に花が咲いた。昔といっても5年前後だが。
それから、この先長く訪れることは無いだろう、ということも話した。俺が空間魔法というものを使うことを知らない2人は遠出するとでも思ったのだろう。寂しくなると言った。
その日は夕暮れまで2人の家にいた。そして、2人と別れた。




