第42話 決着
アルミリネが何か気づいたみたいだ。すぐにシドと小声で共有し始めた。
魔力障壁で防ぎながら、2人が出す結論を待つ。盗み聞きはしない。やっぱりこういうのは実行に移されたものを見てこそだ。
そのまま少しして2人が立ち上がった。
俺は2人に確認する。
「準備は終わったか?」
2人が答えた。
「うん」「はい」
「そうか。ならさっさとやれ。ある程度なら手伝ってやる。」
「了解!」
シドが大きな声で返事をして魔王のほうへ駆け出した。先程までの疲れはどこにいったのか、動きにも表情にもその痕は見られない。
シドは聖剣を右寄りに構えて、いつでも迎撃できるようにしながら突っ込んでいく。ちょうど俺達と魔王との中間あたりで、魔王が光弾をシドに放った。それを冷静に対処していく。気力はともかく、本当に体力を回復させる何かを使ったのか?でなければ、体力が尽きて受け身すらとれなかった時との変わりようの説明ができない。
光弾を弾き続け、ついに魔王へ肉迫した。そこで魔王は攻撃を止める。知性があるのかは知らないが、自分に対して攻撃は通じないと考えているのだろう。
防御どころか動こうともしない魔王を見て、シドが上段に大きく振りかぶった。そして、何もしない素の状態の聖剣を振り下ろした。
結果は予想通り。魔王の肉体には通用せず、高い金属音を上げ始める。魔王にも聖剣にも傷はつかない。
……何をしている?あれではただ金属に聖剣をぶつけただけだ。ヤツは魔族特攻が付いている聖属性を使っていない。時間稼ぎか?と思ってアルミリネを見ても、ただ佇んでいるだけ。魔法の準備をしている様子を魔力を集めている様子も見られない。
そう不思議に思っていると、シドが奇妙な動きをしだした。剣で物体を受け流すように、魔王の体を滑らせた。そしてちょうど魔王の体の側面に達した時、バットを振り抜くかのごとく、反動を乗せわざと弾かれにいった。当然、魔王は不動。その姿勢が揺らぐことはなく、シドが大きく飛ばされていった。
シドは部屋の壁の数メートル手前まで飛ばされ、着地するもその勢いのまま壁に激突した。
魔王がその様子を見ていると、光り輝く魔法が魔王に直撃した。シドが激突したと同時に、アルミリネが魔法を放ち始めたのだ。
しかし、聖属性魔法を以ってしても魔王にダメージを与えることはできていない。現に、魔王は何事もなかったかのように立っている。
すると、アルミリネが鋭い声を出した。
「レイさん!聖属性がなくても構いません!魔法で魔王の注意をこちらに引き付けてください!」
「……了解した」
アルミリネの指示を聞き、俺は指を鳴らした。同時に俺の頭上に無数の魔法が展開した。それを見た魔王も同じく多くの魔法を展開する。
すぐに乱打戦が始まった。空中で衝突するもの、互いまで辿り着くも魔王の肉体に、俺の魔力障壁に阻まれるものなど様々だ。
魔王に、着弾したものの中には、他と比べて一際輝くものがある。アルミリネの聖属性魔法だ。俺と魔王の魔法の間を縫って、狙撃のように魔王にらあてている。これが聖女がスナイパーをこなす時代か。
それにしても……俺の魔法を通じないか。辺りを消し飛ばすような威力の魔法は使っていないとはいえ、無傷だと流石にくるものがある。この道に関しては一枚噛んでいるつもりだったが……まだまだということか。
感慨に耽っていると、アルミリネの次の一発が飛んでいった。そこだけ道が空いているように魔法が飛んでいく。しかしどれだけ綺麗に撃ち抜いたとしても、魔王にダメージは入らない。ある種の傍観として魔法の軌跡を眺め、着弾し—————
魔王が仰け反った。
……!?
何が!?
「やはり、そういうことでしたか。」
驚いていると、静かなアルミリネの声が響いた。
振り返ると、アルミリネはやってやったと言わんばかりのしたり顔をしていた。
ふと、その視線が魔王に向いていないことに気づいた。その視線の先には———
光り輝く剣を振り下ろした勇者の姿があった。
魔王ではなく壁に向かって。
聖属性を纏わせた聖剣を持ち上げ、魔王を見たシドとアルミリネと同じような表情になる。するとすぐに、こちらまで走ってきた。
「どうやら、正しかったみたいだね。」
「ええ。これで糸口が見えました。」
シドとアルミリネが横に並んだ。それは正しく、勇者と聖女の様相だった。
「で、どういうことだ?なぜ魔王に攻撃が通った?原因はアルミリネではなくシドのようだが。」
「お?あのレイですら分かってなかったのかい?やったね。僕らの勝ちだ。」
「黙れ。そもそも思いついたのはお前ではないだろう。その瞬間はバッチリみていたぞ。」
「ヴッ。じゃあ、その思いついた本人に説明してらおうか。」
「ええ。もう分かっているかもしれませんが、アレは魔王ではありません。」
アルミリネはそう断言し、魔王について結論づけた。
「魔王とは—————この城そのものです。」
静寂の空間に凛とした声が響き渡った。その声は反響し、しばらく静寂を招く。
「……つまり、俺たちは今魔王の体内にいるようなものか。」
「はい。今私たちの前にいるのはただの黒い金属でしょう。私たちの攻撃が意味をなさなかったのは当然でした。先程はシドが聖属性で魔王城の壁……すなわち魔王本体を攻撃したため、連動してダメージを受けたのかと。」
「なるほどな。よく気づけたな。そんなこと。」
「私たちの聖属性が全く効いていなかったのは不自然でしたので。それに、外壁をよく思い出してみれば魔族の肉体とほぼ同じでした。だから、もしかしたらと思い、シドに壁を攻撃してもらいました。」
「普通に壁に向かって走っていったらこっちが気づいたと思って、総攻撃されるだろうからね。吹き飛ばされたように見せかけて、壁にぶつかる直前に両手に魔法を出してぶつけたんだ。そうしたら、爆風で目眩しになるだろう?まぁ、その勢いでちょっと寝ちゃったんだけど。結果的に間に合ったから大丈夫だね。」
「まったくもう……。」
……すごいな。これが子供の成長力か?
俺と会った時とは全く違う。思わず笑ってしまいそうだ。
だが、まだだ。
「それで?敵の正体を見破ったお二人さんはどうするつもりだ?無策というわけではないだろう?まさか、城中切って回るつもりか?」
俺の問いを受けて2人は顔を見合わせた。
そしてこちらを向いた2人の顔は、希望に満ち溢れていた。
「それはね——」
「——こうするのです!」
そうやって言い切ると————
——180度回転して走り始めた。
……?は?
……もうある意味疲れてきたな。この短時間で何回驚いたか。
「ああ、くそ!」
悪態をつきつつ、2人を追いかける。まぁ俺の方が圧倒的に速いためすぐに追いついた。
「おい!どういうつもりだ!」
「あははは!いいね!今日はいい日だ!レイを何回も出し抜けた日!」
「やかましい!」
言い争いながら俺たちは走っていく。すると、背後から魔法が飛んできた。今俺たちは魔王に背を向けて走っている。つまり格好の的だ。
素早く魔力障壁を展開し魔法を防ぐ。そのまま、部屋の入り口に辿り着いた。扉は開け放たれていた。俺たちが入ったときから閉まっていなかった。
部屋を出ると魔王は攻撃してこなくなった。それでも俺たちは何となく走り続ける。
「レイさん!この先にあった罠はどうなっていますか!?」
アルミリネが言った。俺はすぐに魔力を感じ取ろうとする。しかし、何も感じ取れない。つまり
「この先で解除した罠はそのままだ!機能していない!」
「分かった!」
そう返事したのは何故かシドだった。
俺たちはそのまま、魔王城の入り口に向かっていく。
そしてとあるフロアに着いたとき、シドが叫んだだ。
「レイってさ、いつか言ってたよね?!気が変わらないうちは手を貸すって!まぁ気は変わってない!?」
「確かに言ったが……まて、何をするつもりだ?」
「言ったんだね!じゃあ……よろしく頼むよ?」
「ごめんなさい。レイさん。」
そう言ってシドはスピードを上げ、アルミリネが謝罪の言葉を口にした。
いったい何を?そう思った瞬間思い出した。
……そうだ。このフロアには。
気づいた瞬間魔力障壁の準備をする。それも、魔王と戦ったときと比べて何倍もの強度で。
……解除していない罠がある!
俺が魔力障壁の準備を終えると同時に、シドがその罠を、踏んだ。瞬間、
辺りが熱に包まれた




