第36話 知りながらも
いやー、満足満足。
王都にはなかった斬新な料理がたくさんあった。これぞ屋台、的な。
特に……いや、あれは思い出してはいけないものだ。食べて美味しかった、とだけ。詳細は語るまい。
俺は今、屋台で買った果物100%ジュースを片手に大通りを歩いている。この辺りの屋台はあらかた制覇したはずだ。はず、というのは空間魔法を使って精査していないため。
こういう屋台巡りは自分の足で巡ってなんぼだ。マップで把握するなど無粋な真似ましない。風情は大切に、だ。
さて、腹を満たしたところでどうしようか。あの二人はいつ合流できるか分からない、というか連絡手段が無い。
まぁ、いずれ会うだろ。
うーん……宿にいって寝るにはまだ早い時間だし、冒険者ギルドに行って適当に時間潰すか。ギルドにはたいてい暇つぶし代わりになる依頼がある。よし、決まり。
ジュースを飲み干して、ギルドへ向かう。途中、寄り道も忘れずに。
程よく奥に進んだところで俺は立ち止まった。
「……俺はいろんな食を求めてはいるけど、人肉は食べない。」
「あ!いた!」
汚れが付かないように片付けて、大通りに出た俺を指さし、大声をだしたバカがいた。
「レイ!君、町に入った瞬間逃げて……え?ちょなんで」
「ひどい目に合った」「ひどい目に合いました」
バカ二人がなにかほざいている。俺の気分を害したのだから当然だと思ってもらいたい。
「く、理不尽すぎる。」
俺たちは今度こそ冒険者ギルドに向かっている。
「まったく。お前たちのせいで時間喰っただろうが。今からだと依頼受ける時間がない。」
「いやいや、あなたのせいですよね。レイさんが理不尽の極みたる制裁を加えなければこんな時間にはならなかったのでは?」
「IQが30以上離れていると会話が成立しないという説は本当らしい。」
「あいきゅーという言葉の意味は図りかねますが、ものすごくバカにされたということは分かります。しかも私達ではなくレイさんに当てはまるものな気が。というか、この時間から依頼を受けるつもりだったのですか?」
「いや、遅れてしまったからそんなつもりはないが?」
「そうじゃなくて。今は夕方に近いけど、僕たちと合流した時お昼過ぎてたよね?冒険者は普通、朝から町を出て夕方に帰ってくるんだよ。依頼をこなす時間が必要な分、お昼からだと帰ってこれずに締め出されることになるから。」
ああ、つまり合流した時点で依頼を始めるつもりだったのか、ということか。
「別に問題ないだろう。依頼を、特に討伐依頼なんかはサクッと終わらせればいいんだからな。」
「それができるのは少数派だよ……。」
そうこう話しているとギルドに着いた。
扉を押し開け、飽きるくらい経験した好奇の視線を味わう。
受付に歩いている途中で、ふと思ったことを口にした。
「そういえば、お前らどうするんだ?俺はお前らの仕事が終わるまで冒険者するつもりだったが。」
「ああ。もちろんレイについていくよ。勇者の仕事はいろいろあるけど、どれも大本は人々の救済だよ。冒険者として困っている人のため依頼を受けるのもその一つだね。」
「チッ。人々の救済、ねぇ。ずいぶんとお偉い言い方じゃないか。お前はそういうの嫌いだと思ってたが。」
「そうだね。嫌いだよ。でも、こういう言い方も勇者の仕事なんだ。世界を救う勇者一行の標語が『市民の皆様のため誠心誠意行動いたします』じゃ締まらないでしょ?僕らは乗り気になれないし、みんなからしても応援したり任せたりしようとは思わない。」
「確かに、な。」
うん、やっぱり面倒だ。勇者ってのは。
だが、分からなくはない。広範囲に影響がある状況で大事を為そうとすれば、この
人なら大丈夫という、信用を勝ち取らなければならない。勇者で考えると、失敗すれば次の勇者が育つまで魔族に苦しめられるし、魔王や魔族が激怒して攻められる原因にもなる。そうなれば存続問題だ。世界規模であるならなおさら。
それに、勇者や聖女本人に次は無い。
「面倒な役割であるだけでなく、最悪のリスクまで背負わされるのか。勇者だとか聖女だとかいうやつは。背負い損だな。」
「仰る通りだと思います。ですが、やりがいや心休まる瞬間が無いわけではないのです。例えば、魔族の脅威を退けた町のほとんどからは多くの感謝をいただきます。その時の一体感はたまらないものです。まぁ、生活場所がなくなったとかで非難されることもありますが。それに、さっきシドが言ったようにある程度の地位も得られます。私たちは興味ありませんが。」
「それでもまだイーブンには届かない気がするが。」
「そこは、選ばれてしまった者の責務ということで。実際、勇者と聖女の教育に使われる教本にはそのようなことが書かれているのですよ。『生まれながらにして』、『勇者として』、『聖女として』、『人々のため』、『善行』、『救済』などは頻出です。」
「こう振り返ると僕ら滅茶苦茶な教育されてるんだね。それでも、勇者や聖女としての誇りが消えないのは、幼いころからのみんなの憧れっていうのが強いのかな。」
「そうですね。絵本などによく描かれるからでしょう。ほとんどの子ども達は勇者好きです。その憧れを途絶えさせないためにも、当代である私達は頑張る必要があるのです。」
「そうだね!それじゃあさっそく、冒険者として人々のためになることをしに行こう!」
「アホか。お前らが来るんじゃ時間が足りねぇよ。」
あとになって思い返してみれば。
勇者と聖女。
自らの境遇がおかしなものと知りながらも、その信念に従い続ける少年と少女。
そんな二人との結末を、この時の俺が予想できるはずもなかった。




