第22話 暗闇に溶けないように
「え……。」
虚を突かれたような顔になるリギット。それもそうだろう。肯定してくれたと思った人物がいきなり刺してきたのだから。俺が来訪を予想していたことは分かっていた様子だったのに、この指摘は分からなかったのか。
「お前が今語った内容は本心を隠す、いや、直視したくないがために言い聞かせ、俺を利用して間違ってないことを確信したかっただけの言い訳に過ぎない。確かにそれは嘘ではないが、上澄みすぎる。俺は言ったよな。死ぬまで考え続けろって。お前のその考えは、考えることから逃げ、無理矢理終わりに持っていこうとするものだ。」
俺の言葉にリギットは押し黙る。黙ることしかできない。反論した瞬間、彼女は本音を漏らしてしまうだろう。
まぁ、自分から喋るか俺が喋らすかの違いがあるだけで、吐き出すことは確定だがな。
「言えよ。ほんとはドラゴンが、死にかけたことが怖くなって逃げだしたって。」
目の前の圧倒的な脅威がトラウマとなり、逃げだしてしまう。別に不思議なことではない。寧ろ、逃げださずにいられるほうが少数派だ。これだけなら、俺だって責めはしない。戦闘経験ゼロの農家の娘が冒険者始めて1月という状況を加味すればなおさらだ。
だが、これら全てを含んだとしても、責めなければならない事実がそこにある。
「お前、俺が何て言ったか忘れたのか?大まかにもう一回言うぞ。『弱者が生き残るためには考え続けろ』。だいたいの場合、暴力による強者はその力を存分に振るい弱者は知恵を働かせ相手を翻弄する。そうしなければ死ぬからな。自分は農家として生きるから関係ない?甘ったれるな。それはお前のくだらない言い訳にもあったみたいに、送り出した両親とサポートした2人を裏切る行為だ。分かるか?お前はその行動で、全てを裏切った。」
言い終えた俺がリギットを見ると、リギットは何かを堪えるような表情で座っていた。
「……でも」
「でもじゃない。いい加減事実を吞みこめ。」
リギットは歯を食いしばる。が、もう決壊した。
「だって、仕方ないじゃん!ドラゴンに殴られて、全身痛くて。1か月以上頑張ったのに、何もできずにやられて!体は動かなくて血がいっぱい出て!そんな私を守るためにリソルとタラトが庇ってくれて。怖かったよ!私が、みんなが死ぬんじゃないかって。怖くて何もできないくせに、頑張ろうとして、足引っ張って。頭真っ白で……なのに考え続けろ、逃げるなって。全部私が悪いから。魔物が怖い仲間が死ぬことが怖いあの時のことを考えるのが怖い自分のことを考えることが怖い死ぬのが怖い。だから、それっぽいことで考えないようにしたのに……どうして。」
目に涙を浮かべて鋭い視線を向けてくる。本人にとってよっぽどだったようだな。
「はぁ。あのなリギット。お前は勘違いをしている。」
「え……?」
だから、キチンとケリをつけなければならない。一応、買って出た役だからな。
「だれもそのトラウマから逃げるななんて言ってない。まっすぐ向き合えとも言っていない。俺が言いたかったのは、自分の考え、経験を虚飾で飾るなってことだ。恐怖から逃げたくなる、大いに結構。一時目を離し、時間をおいて向き合うことをしたほうがいい人間は山ほどいる。いつまでも逃げ続けるのはどうかと思うがな。ともかく、永遠に逃げ続けたり嘘で固めて目を逸らすことは、自分を苦しめるだけだ。弱者は一直線の成長はできやしないだろう。何度も曲がって、遠回りして進んだ先に、自分はある。農家だから、とかは関係ない。農家として生きていたって、いづれ壁にぶつかることはあるだろう。後ろを顧みる必要だって出てくるだろう。逃げた先で対策を考え突破すればなんの問題もない。そこで嘘で蓋をすれば、そこで終わり。こういうことが、これから生きていくということだと思うがな。」
これを聞いてどう思うかはリギット次第だ。俺も真意は分からない。この分野は言葉にすることが難しい。故に俺も全てを思うがまま伝えることはできない。今のは、俺がかけることのできる、最大限の気づかいだ。
少し気がかりだったが、それでもリギットのなかでは整理できたようだ。
「ごめんねレイ。私バカだから。あんまり分かんないや。」
「気にするな。俺の方も伝え方に難ありと見ている。難しいんだよ。こんなこと。」
「そっか。でも、大事な部分は伝わったよ。ありがとう。」
「ならよし。」
どちらからと言わずに笑い始める。俺の顔はそのままだろうがな。
数秒の後、不意にリギットが問いかけてくる。
「ねぇ。レイはこのあとどうするの?」
「明日にはここを出ていく。いろんなところを旅するつもりだ。だから、今日でお別れだな。」
「……レイ。ここでずっと暮らさない?」
「無理だ。」
「……そう。なら」
手を握り締めて座っていたリギットが立ち上がりこちらに来て――――――――――
俺の手を引き、ベッドに倒れこんだ。
「なら、今夜くらいは―――――――」
その願いは星光が差し込む小さな部屋に響き
俺たちの影は重なった。
◇
まだ日の光が上がらない頃。
俺は村の入り口に立っていた。
「さて、行くか。」
世話になった村に背を向けて歩き出した瞬間。
「レイ!」
俺を呼ぶ声が聞こえた。
聞こえるはずがない声。当然だ。何も言わず、簡単な書置きだけ残して家を出てきたのだ。誰も起きていなかったはず。
それでも現実として声がする。
僅かに振り返ると、村の中から大きく手を振る彼女の姿が。
「またね!」
俺は再び前を向き歩き始めた。後ろに向かって手を振りながら。
思えば、あの3人との始まりもこんな状況だった。
俺たちに別れの言葉は、必要ない。
これにて第二章……の前半が終了しました。
当初、15話程度で終わらせるつもりだったのですが、ちょっと長引いてしまいました(やっべー書きすぎた)。
良いんですよラノベは厨二心をイメージして勢いで書くぐらいがちょうどいいんです。
次回から第二章後半に入ります。
第二章後半では、ラノベおなじみの『アレ』が登場します!
そして……!




