第21話 安心
空が茜色に染まり始めたころ。
俺とリギットを乗せた馬車は日没前にノベ村に着いた。
特にやることも無いので、そのままリギットの家に直行。この時間は作業を終えているので道中の村人は少ないが、その全員が声をかけてきた。
『リギット!?』『大丈夫だった?』『おかえり』
どの言葉も温かいものだった。この村の団結力とリギットの人望の厚さがよく分かる一幕だった。あ、もちろん俺はその間だけバレないようにしていた。
そしてリギットの実家。突然帰ってきた娘に二人は驚いていたが、リギットが事情を話すと柔らかい笑みを浮かべて娘を褒めていた。流石にこの二人には事実を話した。
俺のこと以外の全てを。
リギットの両親のご厚意で晩御飯を出してもらった上に一拍させてもらうことになった。最初は遠慮しようとしたのだが、結局押し切られてしまった。
その日の夕食は以前と変わりのないラインナップだったが、心なしか豪華なものに見えた。その影響か、親子の会話ははずんでいた。地球で言うところの理想の家族とやらにぴったりな光景だったと思う。
無論、これは主観だ。巷で言われている理想の家族の解釈も勝手な思い込みに過ぎない。
パタン。
最後の一文を書き記したところで手に持った紙を折った。
今は用意してもらった一室、晩餐と談笑を終え家の住人が寝静まったころ。日付が変わりそうな時間に、俺は星空の見える窓の前で筆記帳に書いていた。
ふと思いつき、一度閉じた筆記帳を再度開け順に遡っていく。
親子の再開、ある人間の決断、ドラゴンとと戦闘、冒険者4人組での活動……。
日記、というより細かな日付は無く思うがままに書いてあるため体験を記したメモに近いが、付け始める以前のことも思い出せる範囲で書いており、今ではかなりの文字数となっている。
ページをめくり終えると最初の一文が目を引いた。
それは俺がここで目を覚ましたこと。起きたら知らない天井だったこと。
その部屋と同じ部屋に今泊っている。まさかまたこの部屋に泊まることになるとは。
始まりと終わりが同じ場所。なかなかおもしろい話だ。
コンコン。
思わずフッと笑うと、見計らったかのようにドアがノックされた。
「レイ、私だけど、入ってもいい?」
聞こえた声はこの家の一人娘のもの。
「どうぞ。」
そう答えるとドアが開く。声に違わず寝間着姿のリギットだ。
おいおい、いいのか?年ごろの少女がこんな時間に男の部屋に来て。
ま、もしかしたらのレベルで予想はしてたんだがな。
「こんばんはリギット。誰かに話したい気分にでもなったか?」
俺の問いを、問うことを分かっていたかのようにリギットは困り顔の笑みを浮かべて。
「うん。ちょっと聞いてもらっていい?」
「で、何を喋りたくなったんだ?」
リギットがベッドに、俺はイスに陣取って早速聞く。
「うーん、そうだなー。ごめんね、レイ。聞いてもらいに来た筈なんだけど、いざこうなると何から話したいかわからなくなっちゃった。」
乾いた笑い方をしながらも楽しんでいる様子のリギット。人生相談なんて自分からそうそうできるものじゃない。一宿一飯の恩とも言うし、ここは積極的に相談に乗ってやろう。
「は、そんなまじめな話をしに来たのか。あのリギットがド緊張するなんてな。」
「緊張してないし!というかあのって何!」
そんな流れでしばらくしょーもない会話が続く。
5分程度だろうか。一息ついたリギットが話し始める。
「何というかね……。私はアレで良かったのかな。」
リギットの独白が続く。
「だって前もってなんにも相談せずに冒険者になる!って言って家を飛び出してさ、3人に無理矢理付いて行って。それで今日いきなり帰ってきて。あ、レイが冒険者って聞いてすっごく驚いたんだよ?しかもSランクって。それってさ、私以外は3人とも冒険者で、それが仕事だったんでしょ?そこに何も知らない技術もない農家の娘がわがままで入ってさ。無茶苦茶だよね、私。1か月以上も私のために時間貰ったよね?あの期間中、3人だけならもっとすごいところまで行けてたんでしょ?ごめんね。だから、これ以上邪魔にならないように冒険者辞めちゃったんだけど……これも中途半端だって怒られると思ってた。でも3人もお父さんもお母さんも優しくて……私は、子どもだね。」
自嘲ぎみに言うリギット。俺は人生相談役として言葉を返す。
「そうか。リギットなりに悩んだんだな。あの二人もお前の両親もお前はよく頑張ったって思ってくれているはずだぞ。」
俺の言葉を聞いて安心したような顔になるリギット。
「で、言い訳はそれだけか?」
もっとも、俺は違うが。




