第20話 後日
「S……ランク……。」
予想通り一番最初に戻ってきたのはリソルだ。こういったところにもその人の気質がよくでる。
「なんだ、そんなに驚くか?俺は前のことを何一つ話していないのだから、こういった予想はできてしかるべきだろう。」
「いや、だとしたら普段の戦闘は?あたしたちは魔法に詳しくないが、熟練の魔法使いっていう魔法じゃなかったぞ。」
「当たり前だ。ちゃんと制限していたからな。とは言え、魔力をリギットに慣れさせる為にあまり押さえてはいなかった。それこそドラゴンの戦闘時ぐらいな。つまり、これぐらいは感知できるようになれば、まぁいいだろうというレベルだ。どういうことか分かるだろ?」
俺の言葉にリソルは押し黙る。パーティーメンバーの実力を見抜けなかったうえ、正面から『お前は実力不足だ。ドラゴンを狩ろうなんてもってのほか。』と言われたも同然。
もっとも、それこそ当然なのだが。
「……。」
もうリソルは何も言えない。リギットとタラトも同じ。この件の落ち度がどちらにあるか。俺か?3人か?もちろん3人のほうだ。
「ま、こういうことが津々浦々に存在するのが世の中ってことだ。お前たちのような存在も、例の貴族のような存在もな。こういった存在が跋扈する世界の基本、万象の根底は弱肉強食。暴力、権力、策略、人望、等々。持てるすべての力や手段を足し算、ときに掛け算した結果の強者が生き残る。俺の場合、権力や人望は皆無に等しいが、他のすべてを上回る暴力がある。ああ、当然生き残るはそのままもあるし、比喩でもある。人間の国が成り立つのがいい例だ。そう考えると、お前たちは貴族やドラゴンに劣るわけだから、むざむざと喰われるしかない。だが、」
俺は3人も見つめ傲岸不遜に言い放つ。
「運がよかったな。安心しろ。そこに俺という化け物が足される。それだけでパワーバランスは上下逆さまにひっくり返る。一宿一飯の恩と言うしな。何回も飯を食った俺がこれぐらいするのは義務に近い。農作業と合わせてちょうどか。村や貴族は俺がどうにかしてやろう。その代わり、ドラゴンから助けてやったお前たちには宿題を出そう。」
そう言って俺は指を鳴らす。
周りの景色は荒れた元森林から、町の人気のない裏路地へ切り替わった。3人が唖然としている。これ以上言うと3人の脳がオーバーヒートしそうだが、構わず言わなければならない。私の流儀通りに。
「このとき、この瞬間、この一連の出来事について。真相を、意味を、行動を、思考を、その結果さえも検証し考え悩み続けろ。解は無限。故に、死ぬまで。」
◇
一連の後始末について話そう。
まず例の貴族は死んだ、もとい殺した。ノベ村の件に関わったであろう騎士、家臣も皆殺しにして、関係書類も全て破棄しておいた。体はきれいで外傷が無いのに、何故か死んでいるという大量死事件が巷を騒がせている。過去の呪いだとか、領主の性癖だとか、元から死んでいて今までが偽物だったとか、さまざまである。その中から、殺人を疑う声はほとんど聞こえてこない。
町から離れたノベ村は、領主が自分たちを虐殺しようとしていたことを知らない。物騒な噂が届くだけで、変わらない平和な日々が続いている。
さて、3人のことも話さなければならない。
俺たちはパーティーを解散した。
あのあと、放心からなんとか戻ってきた3人は、ドラゴンの依頼は失敗し、死にかけたが、運よく見逃され、ドラゴンは遠くへ飛び去った、と言うことにした。この決定に俺が異を唱えることはない。
その結果、俺たちはペナルティ、具体的にはランク降格処分を受けることになった。リソル、タラトはAからCに。俺たちも2段階降格なのだが、降格処理中にリギットが大きな決断をした。
冒険者を辞めたのだ。
これにはリソルとタラトも驚いていた。何せ急に言われたのだから。リギット曰く、
『冒険者には向いてなかったし、故郷でのんびり畑仕事をするほうが楽しい』
とのこと。あの顔を見る限り、それより深い理由があるように思える。
2人も引退して故郷に帰るか迷ったみたいだが、結局冒険者を続けることを選んだ。
「これにて一件落着、とするか。」
俺は筆記帳を閉じ、軽く息を吐く。
実は、村から町に移動する馬車の中でふと思いつき、『創造』で創ったものに、日記のようにつけているのだ。
今回のことだけではない。俺がこの世界に来てから今に至るまでのことを、覚えている限り。
「どうしたの?何か悩み事?疲れてる?」
顔を覗き込みながら言ってきたのはリギットだ。その声はガタゴトという音とかぶり、聞こえにくい。
俺たちはノベ村行の馬車に乗っている。リギットは故郷に帰るために、俺はリギットを送り届けるために。
もうリギットは冒険者ではない。農家として生きていくことを決めた以上、この先自分から戦闘に携わることはないだろう。
リソル、タラト。
2人と別れの挨拶は、もう済ませた。




