第16話 発想
複雑に絡み合う木々の間を二人の冒険者が駆けていく。
冒険者として戦ってきて数年。ほぼ毎日前衛として、近距離で戦い続けてきた二人は平坦な道を行くように複雑な地面を抜ける。
落下点は近い。数秒走れば獲物はすぐそこだ。
狩らなければならない相手を視界にいれた二人は、それぞれガントレットと大剣を構える。パワータイプとして、敵の盾ドラゴンの鱗に己の攻撃が通じるか。二人は格下だろうと格上だろうと、どんな相手だろうとこのことを考えるようにしていた。自分に余裕があると錯覚するために。
ドラゴンが起き上がる前に肉薄した二人は、力いっぱい攻撃する。だが、その攻撃は高い音をたててはじかれた。鱗にはキズ1つついていない。
それでも二人は攻撃を続ける。鱗の一点を集中的に、次は鱗がなく軟らかそうなところを、瞼の下の目を、ツノを。
ドラゴンが体勢を建て直すのと、リギットとレイが追いつくのは同時だった。
ここまでに前衛二人が与えたダメージは、鱗に目立たないキズ一つのみ。Aランク二人の攻撃をもってしてもこの程度ということだ。いかにドラゴンの守りが強固かよく分かる。
二人は追いつくとすぐさま魔法を放つ。リギットは土の槍、レイは土、風、水の三種類の槍を。
効かないことは重々承知。だから、狙いはつけず数を、とにかく数を放つ。威力なんて一切ださなくていい。ただの目くらましだ。ドラゴンの注意を後衛に引き付ければいい。あとは前衛二人が決める。
リギットはそう思っていた。薄々、それでも通じないと感じながら。
その意思はリソルとタラトにも伝わっている。魔法を撃ち始めたときからその考えに気づいた二人は、回り込み奇襲を仕掛ける。
狙う場所は二人が来る前に探っていた。自分たちが攻撃をかけ続けたなかで、唯一キズがついた部分だ。何らかの理由で、あの部分だけは他と比べて若干脆い。
だが、次の攻撃は奇襲だ。魔法で気を引いている今、チャンスは一回限り。ただ攻撃するのは、ここまでの策を無に帰すことと同義。
故に、リソルとタラトは切り札を切ることを躊躇わない。
幼いと言われる齢にそれぞれの村をでて数年。冒険者として長くコンビを組んできた二人は、いざという時どうするか予め話し合っていた。
命は懸けない。この取り決め自体、彼女たちからしたら十分古い。当時も今も、彼女たちには命を懸けられるほどの覚悟は、ない。
死の可能性を排除し、なおかつ敵を葬り去ることのできる攻撃手段。
リソルとタラトが互いに発動することで初めて効果を得る、必殺技。
「「貫けピアース!」」
それは、リソルとタラトの魔力を使った必殺技。リソルのストレートのように真っ直ぐに、タラトの大剣の鋭利さを持つ刃が生成される。名前のとおり、ただただ貫くだけの技。
二人は魔法が使えない。だが、魔力は使える。せっかく自身にあるのだから、どうにか使えるようにしよう。そういった考えからこの技は生まれた。二人は数年かけてこの技を身に付けた。魔法を使えないため、魔力の感覚すら分からない段階から独学で。
リソルとタラトは分かっている。この技が魔法と呼べるほどのものではないと。ただの付け焼刃に過ぎないのだ。同じことをレイがやろうとすれば、比べ物にならないぐらい効率化されるだろう。魔力の仕組みもそう。レイのそれをきれいに整備された水路だとするなら、二人のそれは、バケツいっぱいに魔力を溜め、一気にひっくり返したもの。独学であるがゆえに、魔力の流し方からして違うのだから。
魔法使いと前衛の魔力の違いは顕著で当たり前だと思われる。しかし、この4人だからこその違いもでている。
それが名前だ。
レイは形を持たせないことで自由度を高めている。形を定めるものの代表が名前だ。リギットもこの方針で魔法を扱っている。
対して二人は名前をつける。魔力の扱いが下手くそだと分かっているからだ。名前をつけることで自身に印象付け、無意識にでも発動できるようにしてある。
レイに出会い説明される前から、二人はこれを意図せず認識していた。
そんな魔法と呼べない技。ただの偽物。リソルとタラトはそう思ってきた。
だが、魔法使いであるリギットの目には。
その技は立派な魔法と遜色なかった。どころか、
「すごい……。」
二人で使用するということに感動さえしていた。二人で使うには回路を合わせる必要がある。その難易度は驚くほど高い。2本の電気回路を電気をながした状態で切ってつなぎ合わせるようなものだ。魔力が漏れれば、勢いのまま体内を駆け巡り、どうなるか分からない。
一方、レイはその魔法に驚きながらも、冷静に気づいていた。
(あの魔法、二人の魔力が混ざっている?あんなことをすれば最悪死ぬ。なのに……。まさか、単独で使えないのか?それぞれが独立して同じ魔法を使っているのなら、同じ魔法が二つできるはず。……ああ、なるほど。二人から流れ込む魔力、その勢いが半端ない。制御できていないな。一人で使おうとしても魔力が速すぎて処理が追いつかない。だから二人で抑制しあうことで、初めて使えるのか。)
あの魔法が歪な理由に。
二人がほぼゼロ距離で放った魔法はドラゴンの脆い鱗へ突き刺さり、そのまま入り込んでいった。刺さった鱗の先には、心臓。
Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
獲物を目にしても、羽をもがれようと声をださなかったドラゴンが悲鳴をあげ、
二人の魔法が、ドラゴンに届いた何よりの証拠だった。




