第15話 緊迫
おいおい冗談だろ?
大切な人たちを盾にされて、勝てるはずのない相手に挑みにいかなければならなくなったリソル達。
無理な前進を続け体力は限界に近いが、それでも折れることなく進み続ける不屈の心。
何が何でも目的を達成しようとする確固たる信念。
俺はその心に賞賛を送り、ここまで手伝ってきた。
だが、その勇敢な少女たちの精神をバッキバキに折りにきている一匹の魔物。
最強と称され、敗れた数は数えられるほどにい少ない魔物。
そんな存在が、少女たちが狩らんとする存在がこちらに向かってきている。
何故こちらに向かってきているのかは知らないが、リソル達を狙ってというのは考えずらい。偶然のはずだ。たとえ偶然だったとしても、いやだからこそリソル達ならチャンスと見て狩ろうとするだろう。探す手間が省けるのだから。自分たちの状態を顧みず、文字通り必死の戦いを挑むだろう。
ああ――――――――――
最高だ。
こんなおもしろい状況を逃すわけにはいかない。
「ヤバめのお知らせがある。」
俺は休憩中の3人にできるだけ深刻な声色で告げる。表情が無いと定評のある俺だ。ニヤついたりはしないから、俺の心情は声色が判断基準になっている。
「どした?」
リソルが聞いてくる。まだ、チャンスに気づいておらず、休憩中だからか声も纏う雰囲気も気が抜けている。二人も同じようだ。
だがそれがピリつくのは一瞬だった。
「ドラゴンがこっちに飛んできている。一匹。おそらく討伐目標。」
言葉を聞いた瞬間3人は立ち上がり戦闘へと意識を切り替えた。ここで討ち取らんと言わんばかりに。一度見逃して体力を戻す気はなさそうだ。俺の心配は杞憂だった訳か。
3人は悩むそぶりが無い、それどころか戦略などの相談も一切なし。分かっているのだろう。自分たちにできる最高のパフォーマンスがいつもどおりという一択であることを。
せっかくだ。俺もいつもの攻略通りに立ち回るとしよう。
さぁ。その覚悟、しかと見せてもらうぞ?
◇三人称視点◇
僅かな時間を使い各々が最後の覚悟を決めた時。
ソレは空中から見下ろすように滞空し始めた。
ソレから見ればゴマ粒程度の大きさの、自身の縄張りに入ってきた不躾な存在。そんな存在は死と信念への覚悟を持つ。
その覚悟が、強大な魔物に獲物と確信させるとは知らずに。
(やはり俺たちを見つけて飛んできたのか。どうやったのかは分からないが、広い領域を感知できる目やら魔法やらを持っているのは確実だな。その強さは言うまでもないだろう。あの3人じゃ勝てやしない。どこまで足掻けるか。)
レイはドラゴンのだいたいの強さを一目で見抜く。人間に限らず生き物は慣れやすいものだが、レイは特に慣れやすい性格をしている。
本人は無自覚だが、それまで日本というかなり治安の良い場所から異世界にきて、たった数ヶ月で敵の強さを見抜くことなどできる訳がない。一瞬見ただけならなおさらだ。
やがてドラゴンがゆっくりと降下してくる。戦う気がないように見えるが、爛々と輝く瞳は狩りをする獣そのものだ。
ドラゴンが木と接触する前にリギットが攻撃を始める。土属性魔法の槍。彼女が魔法を教わり始めてからずっと磨き続けてきた魔法だ。磨かれた槍は鋭く、土とは思えないほどの貫通力を誇る。
だが、ドラゴンは最強の魔物と言われている。魔物のいない地球でも代表格に数えられているのは伊達ではない。当然、その鱗は最強と言われるに相応しい固さを誇る。
魔法を覚えて一月前後の冒険者が誇る矛と、長く最強と言われ狩られることはまずない魔物が誇る盾。衝突した結果は分かり切っていた。
リギットは分かっていた。自分の魔法が負けることを。だから、数を撃つ。とにかくドラゴンの体のあちこちへ。一本たりとも刺さることはないが、そんなことは重々承知だ。
勝負は一本のみ。他は囮だ。狙うのは、鱗のない羽。
リギットは、隣で同じように魔法を準備するレイの教えを覚えている。
‘‘自分より格上の相手を倒したいなら、弱点を見極め気を逃さないことだ’’
そのことを教えた・教えられたからなのだろうか、二人が魔法を放ったのは同時だった。放たれた槍はまっすぐ飛んでいき、左右の羽のほぼ同じ場所を打ち抜く。
レイは驚いた。
(リギットに魔法や敵との戦い方の一部を教えたのは俺だ。リギットが隙を狙い一本で決めようとすることは予想できた。だが、殺しにかかるのではなく羽を撃ち空から墜とそうとすることは予想できなかった。ここまで成長していたのは嬉しい誤算だな。)
無論、その嬉しさが面にでることはない。
羽を穿たれたドラゴンは地面に落下してくる。ドラゴンはレイのように魔法で飛行しているのではない。飛ぶための器官を失えば、空を飛ぶ魔物ではなくなる。ドラゴンの強みは鱗で守りつつ、空から必死の一撃を叩き込めることだ。それを奪われた今、あのドラゴンは最強のレッテルを剝ぎ取られたも同然だ。
もちろん、それはドラゴンが簡単に狩れるほど弱体化したことを意味しない。
位置の優位性がなくなっただけで、必死の攻撃と強固な鱗は健在だ。
そして、このパーティーがドラゴンを墜としたぐらいで慢心することもまた、ない。
ドラゴンが墜ちた瞬間、それまで手持無沙汰だった二人が駆けだしていた。
ここからは自分たちの番だというように。




