第9話 実習
風が吹き砂埃が舞う。緑がまばらな生命の活力が少ない茶色い地面の上に少女が立つ。
少女は一度目を閉じており、暗闇の世界のまままっすぐ手を伸ばす。
少女は指先と腕を一瞬平行にし、指先の代わりに手のひらを向けた。
すると少女の手のひらから数センチ先に色が灯る。少女が立つ地面よりも濃い茶色。
その色はやがて形を持ち始める。少女にとって色が灯ってから形となるまでの時間は悠久に感じられたが、実際はわずかな時間しか経過していないのかもしれない。
手のひらの色を保ち続ける少女が目を開く。視線の先には、動物というには狂暴な瞳をした大きすぎる獣。
少女は意を決し思考を解き放つ。色は少女から離れ、獣へ飛来する。
獣が避けるよりも早く―――――。
「よし、及第点だ。」
魔法で狼っぽい魔物を倒し終わったリギットに言う。リギットはホッと息を吐きこちらに近づきてきた。
ヘルメスに来る途中に調べたとおり、リギットには土属性魔法の才能があった。農家の娘として土を扱ってきたリギットの適正が土属性だったことにちょっとした趣を感じる。全く関係ないだろうが。
俺が教えたとおり、リギットは土の塊を槍のように尖った棒にして放った。土でできた槍は、魔物の額に突き刺さっている。改善点はまだまだあるが、状況を考えれば上出来だろう。
リギットが褒められ待ちの犬みたいに聞いてくる。リギットは人間のはずだが、左右に揺れるしっぽが見えるような?
「ねぇねぇ、どうだった?」
「ここに来るまで全く練習できなかったことを考えると、正直驚いてる。座学で聞いただけで、形成だけでなく射出もできるとはな。」
「ふふん。そうでしょ?私には魔法の才能が、天才である才能があったんだよ。」
「とはいえ、早さも標準もまだまだだな。さっきはあの魔物が弱かっただけで、もっと上の魔物には通用しない。人間ならなおさらな。あんなガバガバ標準じゃ、かすりもしない。」
「む、何でそんなこと分かるの?ちゃんと当たってるでしょ!」
「もっと敵をよく見ろ。あの魔物よりお前の魔法のほうが少しだけ速かった。それで、魔物が避けようと横にずれたところにお前の魔法が刺さった。それだけだ。もっと速いスピードで、敵に動く暇を与えずしっかり仕留めれるようにしろ。そもそも、魔法を構築してから放つまでが遅い。」
「む~。」
リギットの顔が何とも言えない表情に歪む。どういう顔なんだそれ。
「そんなに言うんだったら、レイがお手本見せてよ。」
「ああ。いいぞ。」
俺はリギットが撃った魔法と全く同じ形状の、土属性魔法の槍を出す。この生成スピードの差は一目瞭然。リギットが数秒要するのに対し、俺のは発動からのタイムラグがほぼゼロ。リギットもそれが分かっているのか、目を見開いている。俺が魔法を撃つと、リギットは口をこれでもかと大きく開けた。実際の速度とは関係のないたとえだが、MAXの戦闘機と自転車ぐらい違う。命中した場所でスコアをつけるならリギットが10点、俺が10000点ぐらい。リギットの魔法とは段違いに速く正確だったが、その顔は女子がしていい顔じゃない。
「うっそ。」
「現実だ。ここまでできるようになったら、まぁ文句なしだな。」
「いやいや無理無理。」
リギットが目に見えて落ち込んだ。別にここまでできるようになれ、とは言ってないんだが。
「ハハハッ!まぁいいじゃん。あたしたちからしたら魔法がちょっとでも使えるってことが羨ましいんだからさ。」
「そうですよ。前衛の僕たちからしたら、一度は使ってみたい憧れのものです。それに、魔法には詳しくないですが、魔法を習い始めて初日であそこまでできるのはすごいことなのではないでしょうか?」
「にしてもだ。レイ、ヤベェな。仲間にできたのが如何に幸運だったか身に染みたよ。」
「ほんとですよ。いままで会った冒険者の方にも魔法使いの方はいましたが、ここまで凄腕の魔法使いは見たことがありません。」
完全脳筋ウーマンと見た目理知的中身脳筋マンが言う。二人の視線の先は槍が着弾したところで、大きなクレーターができていた。サネルのときより少し小さい。
まぁ、タラトが言うこともそのとおりではある。まず魔力を知覚して、魔力の使い方を覚えて、次に……ってしていると、どうしても時間はかかる(クレア談)。リギットも普通枠で、特別な能力等はないはずだ。故に、ここはリギットの才能を認めなければならない。
だからと言って調子に乗って良い訳ではない。調子に乗って探求をやめれば、そこまでだ。
俺はドヤ顔の素人魔法使いに強めのデコピンを撃ち、きつく言っておく。リギットの性格は理解しているが、念のため。この才能を潰すのはもったいない。
きっちりリギットに説き終えたぐらいに、リソルとタラトが魔物の死骸を運んできた。
「お説教の時間は終わった?なら今度は楽しい楽しい解体のお時間だぜ!」
「全く楽しくないんだけど!?うわぁ、これやらなきゃだめ?」
「必要なことだ」「ダメだぜ~」「頑張ってください」
「ウギャァーーー!」
この叫び声が、近くにいた他の冒険者に聞かれていて、リギットが羞恥で転げまわり、しばらく俺たちの笑いの種になるのはもう少し先の話だ。




