第6話 覚悟
「理由を聞いてもいいですか?」
タラトが聞いてくる。
「こうみえても、もともと冒険者でな。金を稼げる手段があるなら、そっちのほうがいい。それに、今まではリギットの家の厚意に甘えてきたが、さすがにそろそろ悪いなって思い始めたから、な。」
「そんなことないよ!賑やかになるし、農作業はサクサク進むから!なんなら一生いてくれていいんだよ!」
なぜかリギットが否定してくる。
「そういう訳にはいかないだろ。さっきその二人も言ったけど、冒険者としての感覚は鈍らせないようにしたいからな。」
じゃないとうっかり消し飛ばしてしまいそうだ。
「……まあ、レイがいいならあたしはいいけどな。リギットの家の血縁って訳じゃないし。農作業とか手伝って宿代にしてるんなら、本来文句は言えねぇはずだしな。」
「僕も構いませんよ。あ、そうだレイさん。僕らと一緒にパーティー組みましょうよ!知り合いなら争いの種にはなりにくいですし。」
思った以上にリソルとタラトが乗り気だ。
「というかレイって、冒険者やってたことは覚えてるんだな。」
「ああ。俺が分からないのは何故ここにいるか、ってことだからな。冒険者やってたこととかは覚えている。」
「へぇー。そういうもんなんだな。。」
「そういうもんだ。それじゃあ、俺らはこの辺で。すいません、お邪魔しました。」
前半はリソルとタラトに、後半はリソルの両親に向けて言う。
「おう、また明日な。」
「明日からレイさんとともに冒険者として復帰できるとは。楽しみに待っています。」
リソル、タラトからの見送りの言葉を受け、家に戻る道を歩く。その途中で、隣にいるやつがいないことに気づいた。振り返ると道の途中で立ち止まってうつむいている人間がいた。
「リギット。何してるんだ?」
「……っは!あ、ごめんね。すぐ行く。」
様子が変だな?何処か上の空というか……。まぁリギットのことだからすぐもとに戻るだろう。
すでに日は落ち、暗くなった道をゆっくり歩いて帰った。
「……よし。」
◇
そして翌日。
俺はリソルの家の前に来ていた。すぐ横にはすでに出発の準備を終えたリソルとタラトの姿がある。やっぱりこのカップルは冒険者中毒なんじゃ……。
昨日の夜、リギットの両親に出ていくことを伝えると、これでもかというほど泣かれた。なんでも、農作業の効率が桁違いらしく、もう元には戻りたくないんだとか。戻ろうと思えば戻れるんだな。こういう話は現代の地球でも聞く話だ。現代文明の暴力よ似たようなもの。恐ろしい話だ。
そういえば、両親が嘆いている間もリギットは静かなままだった。いつもは5分もあればすぐ立ち直るような性格なのに、珍しいこともあるものだ。
今日中に町に着いて以来を受けたいとの戦闘狂夫婦の希望により、かなり早い時間の出発になる。まだ朝日が昇っておらず、だいたい午前3時ぐらいだ。暗くて道が見えないためタラトが灯りを持っている。町で売られている一般的な魔法具らしい。町までは歩くと距離があるが、途中の村に馬車の乗り合い所があるため、今から行くと昼過ぎには着くらしい。
急な出発のため、子ども達に直接言えなかったことは少し残念だ。リソルの両親が伝えておいてくれるとのこと。
「じゃ、そろそろ出発するか。」
リソルが声をあげる。俺は頷き、進み始める。今回は魔法を見せずに、水や食料を持たなければならないため鞄を持っている。空間に投げ入れてしまいたい。
暗い道をゆったりと進む。昼過ぎの到着というのは歩いていっての時間だ。ゆったり歩いていても問題はない。軽く雑談を交えつつ、村の入り口に差し掛かったそのとき
「待って!!」
寝静まった村に近所迷惑極まりない声が響いた。
振り返ると少し離れたところに、大きなカバンを持ったリギットが立っていた。昨日のようにうつむいておらず、まっすぐこちらを向いている。
「リギット?見送りにでも来たのか?」
リソルが問いかける。怪訝そうにしているが、どこか楽しげでもある。
リギットがこちらに近寄り、決意を込めた言葉を吐き出す。
「私も町に行って冒険者になる。だからお願い、連れて行って。」
「っは。内緒で出てきたのか?」
「ううん。ちゃんと説得してきた。だから問題ないよ。」
「ふ、ふ。いいじゃねぇか!あたしリギットといつか一緒に冒険者やりたいって思ってたんだよ!と言うわけであたしはいいと思う。二人は?」
「僕もいいと思うよ。知り合い固めた上で、人数は多い方がいいだろうし。」
「タラトは賛成っと。あとはレイだけだぜ?」
3人がこちらを見つめてくる。特にリギットは穴が開くほど見つめてくる。
「別に冒険者になることを止めやしない。それは個々の自由だろう。だが、一応先輩として忠告していてやる。今までお前は農家の娘として日々畑作業に勤しんできた。それが日常だった訳だ。その日常が冒険者になった瞬間血にまみれたものになる。魔物を倒すときは血が出るし、解体するときの血の量は比べ物にならない。おまけに肉とか内臓とかを直に見たり触ったりする。自分もそう。切られたり殴られたりしたら血は出るし痛みもあるだろう。それでも、冒険じゃになりたいのか?」
「うん。迷ってたら届かなくなるって分かったから。動かないよりは断然ましだよ。」
「そうか。」
どんな日々になるか予想した上で来ているのだろう。リギットが即答したのを見て、確信する。
そして、俺は剣を素早く抜きリギットでも見えるぐらいのスピードで切りかかった。
「……上等だ。」
俺は剣を振り下ろしリギットの顔面の前で止めた。
リギットは俺の剣を視認できていただろう。それでも瞬き一つせずじっと剣を見つめていた。
「こうやって冒険者同士で戦わなければいけない時もある。無論、訓練や模擬戦ではなく、な。相手が格上だったとき、捕縛が難しければ殺すしかない。できるのか?」
「……分からない。実際にやってみないと。でも、自分で決めた以上やってみせるよ。」
「はぁ。」
俺は溜息をつき剣を仕舞う。
「取り合えず今のお前じゃお話にならない。見えているにも関わらず、迫る剣を避けもしないとは。一、二段ぐらい格上の魔物を倒せるようになれ。やれるなら、いいぞ。」
「うん!よろしく!」
はぁ、やっかいな荷物ふが増えたな……。
固まっている二人に声をかける。
「悪い、待たせたな。改めて、出発しようか。」
「あ、あぁ。そうか。いきなり切りかかるとは。驚いたぞ。」
「アレが一番効率がいい。ちょっと押してるからとっとと行くぞ。案内頼む。」
俺たちは今度こそ一人加えて村の入り口を通った。




