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12『夏の風物詩』

 気温の上がるピークを過ぎたにも関わらず、辺りの温度は下がる気配を微塵もさせない。これほど暑くなるなら、来る途中にあった靴屋でサンダルでも買えばよかった。


 格好こそ涼しげだが、足元はオシャレとは程遠いスニーカー。履き慣れてはいるが、直射日光で温まった靴の中はこれでもかと熱がこもっている。けれど裸足で帰るわけにもいかず、私は渋々靴に足を入れた。


 空になったエコバッグに使用済みの衣類を入れ、私たちは姉妹のように手を繋いで更衣室を後にした。ほのかに香る潮風を肺いっぱいに吸い込んで、繋いだ手を大きく前後に揺らす。帽子の広いつばが風によってカサカサと音を鳴らし、ザザーンという心地よい音が耳に届く。


「楽しかったね!」


 桜色のスカートが風に揺れ、綺麗な黒髪がふわっと舞い上がる。


「楽しかったぁぁ! やっぱり海っていいね!」


 私の前髪も僅かに揺れ、砂浜に敷かれたレジャーシートが浮き上がる。魔法の絨毯のように飛び上がりそうになったレジャーシートは、上に置かれた荷物によってその動きを止める。アニメのように愉快な世界は訪れず、魔法使いが誕生することもない。


「帰りにどっか寄ってく?」


「私は海に来れて満足したから……。空ちゃんの行きたいところ行こうよ」


「それならゲームセンター行こうかなぁ」


 コンクリートでできた防波堤。その両側には上に上るための階段が造られ、人が横断できるのと同時に万が一のときに波の進行を抑える役目を担っている。誰からも褒められることはないけれど、彼は自分の役目を今この瞬間も全うしている。


「久しく行ったことないかも」


「じゃあ決まりね。樹雨くんのところまで競争!」


 私は合図を出すことなく、最後の段を下りるのと同時に走り出した。背後で「ずるいよー!」と笑い混じりに言う声がする。私は麦わら帽子が飛ばされないように、片手で頭を押さえながら走った。空いた手には衣服の入ったエコバッグ。腕を振るたびに手に持ったエコバックが揺れ、思った以上に走りにくかった。


 コンクリートをスニーカーが蹴り、自分の足音が体の中を伝って耳に届く。それとは別の足音が背後から近づいているのを感じ、私はチラッと後方を見た。私の方がワンテンポ早く走り出したはずなのに、少女はもうすぐそこまで迫っていた。


「早くない!?」


「リレーは毎回アンカーだったから!」


「それはズルじゃん!」


 学年で足の速い人がなるであろうリレーのアンカー。毎回中盤辺りを任される私との勝負は、始まる前に決まっていたのかもしれない。私の歩幅が小さいのか、少女の歩幅が大きいのか。正解は定かではないが、ついに少女は私のことを追い越していった。足の速さに身長は関係ないのかもしれない。私と少女の身長はほぼ同じ。陸上の短距離選手だって、小柄な人から高身長な人まで様々だ。


「春夏ちゃん待ってー!」


 どんどん小さくなっていく背中を眺めながら、私は駆ける足をゆっくりと止めていった。ドッドッと心臓の脈打つ音が聞こえ、呼吸をするたびに肩が上下する。顔の周りの酸素が無くなってしまったかのように、呼吸を繰り返しても苦しさから解放される気配はない。名前を呼んだはずの少女が止まることもなく、私は筋肉痛になりそうな足でゆっくりと歩いていった。車を停めた駐車場にやっとのことで辿り着くと、出入り口には涼し気に立つ少女が一人。手の甲で汗を拭う私とは裏腹に、少女の額には汗と呼べるものが浮かんではいなかった。


「お疲れ様!」


「春奈ちゃん、めっちゃ早いね」


「ふふ。ありがとう!」


 照れ笑いをした少女に、私も釣られてニーッと笑った。そして私たちは男性の待つ車のドアを開け、後部座席に仲良く座った。車内は男性のおかげでひんやりと冷たく、火照った体をしっかりと冷やしていった。


「どこか寄ってく?」


「帰りにゲームセンターあったっけ?」


 シートベルトを締めながら、私は前方の男性に問うた。男性は「どうだったかなぁ」と言いながら遠くの景色を眺め、腕を軽く組んだ。


「来る途中にショッピングセンターがあったから、その中にあるかも」


「行ってみよ!」


「了解!」


 男性がそう言うのと同時に、車はゆっくりと前進していく。白い車体の普通車は、男性に操られるがまま駐車場を後にした。防波堤の脇を走り、海はあっという間に背後に消え去っていく。


「ばいばい、海」


 私はリアガラスの向こう側に見える景色を眺めながら、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。お世話になったもの。楽しませてもらったもの。思い入れのあるもの。そういったものに、私はひとつひとつお礼を言っていく。


 普段から全てのものに感謝を伝えているわけではない。立つ鳥跡を濁さずという言葉通り、私は感情も生きた痕跡も残さずこの世を去りたい。それこそ最初からいなかったみたいに。健常者の中から私の記憶が消えるように。どうせ消失するなら、いっそのこと跡形もなく去っていきたい。その方がカッコいいと思うんだ。






 ゲームセンターに着き、私たちが最初にやったのはUFOキャッチャーだった。大きなぬいぐるみやクッション、フィギュアに癖のあるリュックなど、目に入るもの全てが魅力的だった。お金があるのをいいことに、私は少女とともに手当たり次第プレイしてみることにした。


 けれど私の腕が良くないのか、何ひとつゲットできないまま一万円近くを溶かしてしまった。UFOキャッチャー自体は苦手ではないはずなのに、今回ばかりは上手くいかない。どちらかと言えば少女の方が上手かったけれど、それでも景品が下に落ちることはなかった。そんな中、男性は一人たくさんのお菓子を抱えて私たちの前に登場した。腕にかかった袋の中には様々なお菓子が入っており、男性はその一つを美味しそうに頬張っている。


「すごい量……全部樹雨さんが取ったんですか?」


「うん。なんか調子良くて」


 頭の後ろを掻きながら言う男性に、私は少しばかり悔しくなった。お金をかけても成果がない私とは違い、男性はしっかりと目に見える成功を示している。そしておそらく、私よりも少ない金額で成し遂げていることだろう。私は自身の頬をプクッと膨らませ、男性に右の掌を見せた。


「一個ちょうだい」


「好きなのをどうぞ」


 袋ごと渡された私は、その中から小袋のクッキーを手に取った。お菓子だらけの袋は想像以上の重量で、クッキーをひとつ抜いただけでは変わらなかった。機械の大きな音が響く店内にはそれなりに人がおり、皆楽しげに笑っている。その様子を見ながら口に運んだクッキーは、サクッという軽い音とともに優しい甘さを広げていく。悔しいと感じたこと自体なかったように、私の心は穏やかだった。やはり甘味というものは心に平和をもたらすのだろう。


「あの……私あれやってみたい」


 少女が控えめに指を指したのは、車のシミュレーションゲームだった。


「春夏ちゃんああいうの好きなの?」


「いや、やったことなくて……。やってみたいなぁって。ダメ?」


「ううん、やろう! せっかくだから三人でやろうよ、ちょうど三つあるし」


「よっしゃ! 勝つぞー」


 男性は指をポキポキと鳴らし、私たちは顔を見合わせて笑い合った。シミュレーションゲームは、本物の運転席のような作りだった。違うのはシートベルトがないことと、PやRの書かれたシフトレバーがないことだ。その代わり、数字の書かれたレバーがハンドルの横に設置されている。


 私たちは左から男性、私、少女の順に座り、百円玉を機械に入れた。目の前の画面は真っ白になり、画面上で走っていた二台の車は一瞬で消え失せた。そして画面には代わりに車体の選択画面が現れる。私は車に詳しくなかったので、好きな色である黄色の車体を選んだ。隣の画面をチラ見すると、少女も私と同じ選び方をしているようだった。


 反対側を見ると、男性はイカつい車体を選んでいた。車に詳しい人なら、どれが良くてどれがイマイチか分かるのだろう。例えそれがゲームの中の車であっても、見分けるのは容易いのかもしれない。私たち三人が全ての項目を選択し終えると、広い道に三台が仲良く並ぶ画面に切り替わる。


「アクセルって右だよね?」


「多分」


 私と少女はお互いに操作方法を確認し合い、黒いハンドルを両手でぎゅっと握った。自分の車の後ろ姿が画面中央に表示され、その上にカウントが現れる。三、二、と数字が減っていき、甲高い開始の合図が発せられた。その合図と同時にアクセルを踏み込むと、黄色の車は前方へと動き出す。画面右下に表示された時速を表すメーターは、止まることなく数字を大きくしていく。私の前方を走るのは男性の黒い車。私と少女の車は横並びに走行し、拮抗したままカーブへと侵入した。


「ねぇ、私三〇〇キロ出てるんだけど……」


 車という乗り物は、これほどのスピードが出るものなのだろうか。高速道路でさえ一〇〇キロを超えて走る車はそうそういない。不安になった私は、隣でプレイする男性の画面を見た。すると、その画面の右下にも私と同じ速度が表示されていた。ゲームだからその辺の心配はいらないのだろう。そう安堵した瞬間、私の車は道路の壁に正面から激突した。


 ガシャンという衝撃音は本物の鉄と鉄をぶつけたような、低く鈍い音だった。「わ!」と声を上げた私に、男性はハハッと笑いながら「よそ見はダメだよ」と言った。これが本物の車だったら大事故どころでは済まなかったかもしれない。こればっかりはゲーム内の出来事で良かったと、ハンドルを握り直しながら息を吐き出した。結果として、三人で行ったレースで私は最下位だった。一位は勿論男性だ。


「やっぱり実際に運転してる人は上手ですね」


「あの事故さえなかったら、きっと私が一位だった!」


「じゃあもう一回やる?」


「…………やらない」


 本物の車の操縦をしている人に、滅多にゲームをしない私が勝てるはずもなく……。それは再戦をせずとも分かっている事実だ。負けると分かっている試合に自ら挑むなんて、仮に負けず嫌いだったとしてもしない。他に勝てる試合を提示する方がよっぽど利口だ。けれど、時間はそろそろ午後七時になろうとしている。私の腹は空腹を訴え、賑やかな店内でも聞こえるほどの大音量を奏でた。


「夜ご飯食べよっか」


 男性の声は優しく、それ故に恥ずかしさが増していく。向けられた笑顔を直視することはできず、私は地面を見つめたまま「うん」と頷いた。


「どこ行きたい?」


 面白そうに私の顔を覗き込む男性。私はその顔から逃げるように、少女の方を向いて言った。


「春夏ちゃんの行きたいところ行こ」


 一連の流れを傍で見ていた少女は、考えるようにい「そうだなぁ」と呟いた。こういうとき、『死ぬ前に食べておきたい料理ベスト五』を決めておくと便利かもしれない。そうすれば不意に聞かれたときも即座に返事ができる。何より、何が食べたいか悩む必要がなくなる。


「焼肉行きたい」


「焼肉だって」


「近くのところでいい?」


「はい!」


 イタリアン系のお店が出てくるとばかり思っていた私は、少女の提案に少しだけ驚いた。やはりどんな人も焼肉という食べ物が好きなのかもしれない。私たちは空腹になった胃袋を抱えながら、楽しかったゲームセンターを後にする。


 外はすっかり日が暮れて、世界のあらゆるものが闇の中に溶けていた。人も建物も見えづらい中、車のヘッドライトだけが周囲の輪郭をハッキリとさせる。それはまるで闇を暴く勇者のようで、カッコ良くさえあった。


 大きな道の左右には、所狭しと店が立ち並んでいる。ファミレスにラーメン屋、服屋、和食店、それにコンビニ。生きていくのに必要なものは、ここら一体で全て完結するだろう。便利な反面、冒険心を擽るものはなかった。私たちの乗る車は、暖色のライトが歩道を照らす焼肉屋の駐車場に停車した。外からでも分かる肉の香ばしい香りに、少女の腹も同じようにぐーっと鳴る。


「お腹空いたね!」


「うん。早くお肉食べたい」


「肉食だったんだ」


「そうだよ? お肉さえあれば十分かな!」


 人は見かけによらないと言うけれど、ここまで外見と食にギャップのある人には初めて会った。そしてそれには食べっぷりも含まれている。少女は座席に座るのと同時にものすごい量の肉を注文し、焼いては食べをひたすらに繰り返していた。細い体の、一体どこに入る余地があるというのか。


 少食にすら見える少女は、大食い選手に負けないほどの量を次々に平らげていく。少女の美味しそうに食べる姿を見ているだけで、私の腹はゆっくりと満腹になっていった。私と男性が食後のソフトクリームを食べていようとも、少女の肉を焼く手は止まらない。それどころか追加の肉を注文し、あろうことか二杯目のビビンバを完食した。


「まだ食べるの?」


「え? 全然食べれるけど……」


 胃袋ブラックホールとは、まさにこの子のことを言うのだろう。好きなものは無限に食べれると言う人も多いだろうが、さすがにここまで来ると軽く引いてしまう。私たちが帰る頃には、この店の肉は大方なくなっているのではなかろうか。そんな心配をしてしまうほど、少女の食べっぷりは気持ちのいいものだった。


「ふぅー。満足です」


 備え付けの紙ナプキンで口元を拭いながら、少女は幸せそうな声を上げた。


「結構食べたねぇ」


「食べちゃった!」


 そう言って笑った少女は、まだ食べれると言わんばかりの表情を浮かべていた。体感では牛一頭は軽く超えているように思うけれど、無限胃袋を持っている少女にかかればあと二頭は余裕そうだ。この際、大食い選手として名を馳せるのもいいかもしれない。


「そろそろ帰らないとね。気づいたら時間過ぎちゃってたし」


「え、嘘⁉」


「あ、ほんとだ」


 横に座っていた少女はポケットから取り出した携帯画面を見て言った。携帯のロック画面には二十時三十分を意味する数字が表示されている。門限の八時から三十分もオーバーし、おそらく病院に着く頃には九時近くになっていることだろう。


 門限を過ぎたら、私たちは一体どうなるのだろう。怒られるのか、そもそも院内に入れないのか。帰ってみなければ分からないけれど、謝ったら済むような気がしていた。未成年を野宿させるような病院ではないはずだ。


「門限過ぎたらなんか言われるの?」


「さぁ、私も初めてで……。まぁ、なるようになるさ!」


 お気楽すぎるかもしれないが、分からないことをいくら考えても本当の正解には辿り着けない。それに、私たちの帰る場所はあの病院なのだ。他に行くあてもなく、帰りたくないからと他の場所に行くわけにもいかない。現在の私たちの親は病院の看護師で、それ故に叱られることも覚悟しなければいけなかった。


「さ、帰ろう。千葉さんたちが待ってるよ」


 男性はそう言って、椅子の上に置いていたショルダーバッグを背負った。その手で伝票の挟まった小さなボードを持ち、男性は一足先に会計に向かった。男性の後を、私たちも揃ってついていく。レジでは店員が伝票のバーコードを機械で読み取っていた。私はエコバッグの中から財布を取り出し、一万円札を手に取った。けれど男性はそんな私を制し、ふるふると首を横に振った。


「でも、使い切らないといけないから」


「さすがにご飯代まで甘えるわけにはいかないでしょ。これは大人のプライドだよ」


 男性は私の代わりに自身の財布から一万円を抜き取り、銀のトレーの上に置いた。今回のご飯代を払えば、私の財布には残すところ一万円と小銭だけ。けれど男性が払ったことで、明日が終わるまでに二万円を使い切らなければいけなくなった。本来ならば喜ばしいことだけれど、何度考えてもそんな気分にはなれなかった。貯金があって嬉しいのは、明日が約束されているからこそだ。


「樹雨さん、ご馳走様でした!」


 少女は軽く会釈をすると、レジ奥の店員にも同じように頭を下げた。私は財布から抜き出した紙幣を元の場所に戻し、少女と同じように会釈をした。満腹になった体は、来たときよりも僅かに重くなったような気がした。


 ジーンズの腰回りは少しだけキツく、短時間で太ったように錯覚する。けれど、ぽっこりと膨らんだ腹は数時間もすれば元に戻る。翌朝は同じように腹が空き、きっと食堂で朝ごはんを食べるのだろう。腹が空くことも、眠気に襲われることも、今しかできない貴重なものだと思うと有難味が増した。


 車のドアを開けると、天井に取り付けられたライトがパッと明るく車内を照らす。暗がりの駐車場に暖色の明かりが灯り、ドアを閉めればゆっくりと消えていく。再び訪れる暗闇に目が慣れてしまうと、街灯すらも眩しく感じてしまう。そう思うと、両脇に立ち並んだ住居や商業施設は驚くほど明るい。


 昼間みたいとは言わないけれど、物質の形が鮮明に見て取れる。黒の濃淡を辿れる場所は少なく、街中は夜でも色を保っていた。これが千年ほど前であったなら、夜に火以外の灯りが灯るなんてあり得なかったことだろう。日中は目の前に見える景色を楽しみ、夜は月明かりに照らされる暗闇を楽しむ。現代でもそれができたらいいと、車窓の外を流れる世界を見ながら思った。


「ねぇ、これなんの音かな?」


 少女が腕をツンツンと突き、小さな声で言った。耳を澄ますと、ドーンという低めの破裂音が微かに反響していた。


「花火じゃない?」


「どこでやってるんだろう……」


 少女は窓の外を眺めているけれど、音以外に花火を感じることはできなかった。きっとここではない街の外れでやっているのだろう。火事を防ぐために、ここらでは大きな川の近くで打ち上げることが殆どだった。花火の上がる日には、よくマンションの上層階に住む友達の家に集合した。そしてベランダから遠くに見える火の花を眺め、皆で棒付きアイスを齧る。毎年行っていた恒例行事が、おそらく今年も行われていることだろう。


「花火見たかったなぁ」


 少女の残念そうな声に、「明日行ってみようか」と前方に座る男性が言う。少女は嬉しそうに「いいの⁉」と言い、助手席のヘッドレストを抱きしめた。私は響き渡る音に耳を澄ませながら、夜空に浮かぶ光の花を想像した。


 美しく輝く花火は、瞬きをする間に一瞬で消えてしまう。その儚さを言い表す言葉はなく、それがかえって人の心を鷲掴むのだろう。見た人の目線を釘付けにし、魅了された者は目を離すことなく最後の最後まで見届ける。輝かしい儚さは、種族を超えて好まれるものの一つだ。


「花火の音って意外と好き」


 目を閉じて全身で打ち上がる音を感じる。するとすぐそこで聞こえているかのように、音は雑音を消して鮮明になった。


「もうすぐ着くよ」


 男性の声に、私は電源を入れた携帯を見た。時刻は午後八時五十五分。門限から一時間ほど過ぎた、四日目の夜だ。


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