男主人公:主(2)ー物語「ゴミ捨て場の少年」
巨大な機械飛船が、永遠に暗い空を漂い、地上の人々の視線を集めていた。
地上には、さまざまなゴミで積み上げられた小山がいくつもそびえ立ち、その中には穴を掘って住居にしているものもある。
轟音を立てる飛船の音を聞きつけ、ボロボロの衣服をまとった多くの人々が洞窟から出てきて、憧れの眼差しを向けながら飛船の進む先を見上げた。
だが彼らが知らないのは、さらにその上空に、夜空に溶け込むように隠された別の飛船が存在し、その中の人々がまるで天の星のように彼らを見下ろしていたことだ。
「まったく、汚らしい害虫どもだな。」
巨大なフロアウィンドウの前で、一人のスーツ姿の男が嫌悪を隠そうともせず吐き捨てる。
彼の前では、小柄な金髪の少女が窓に張りつくようにして、顔がガラスに触れそうなほど近づきながら、蟻のように動く群衆を好奇心いっぱいに観察していた。
「パパ、あの人たちは何をしてるの?」
「ゴミを拾って食べているのさ、愛しいエロウェイ。」
愛娘に対して、男は微笑みを浮かべた。
「どうしてゴミなんかを食べるの? 普通の食べ物はないの?」
「ここは連邦専用の星間廃棄場だよ、エロウェイ。商人なんて来やしない。」
「じゃあどうして作物を育てないの? 私とおばあさまがやってるみたいに。」
「この星には陽光が届かず、土壌も痩せていて、作物は育たないんだよ。愛しい子よ。星自体のエネルギー磁場がなければ、彼らは生きていけない。二十一世紀の宇宙飛行士みたいに、あっけなく死んでしまうんだ。」
「それなら、どうしてあの人たちをこんな場所に置いておくの? つまり、どうして太陽や水や草のある星に連れていってあげないの?」
「彼らは囚人の子孫だ。これは罰なんだ。彼らにはそれがふさわしい。」
男はそれ以上答える気を失ったように、リモコンを取り出してフロアウィンドウを閉じた。それは本物の窓ではなく、外界を投射するスクリーンだったのだ。彼はしゃがみ込み、少女の手を取った。
「愛しいエロウェイ、今夜はパパとママが大事なお客様をお迎えするんだ。綺麗に着飾っておいで。」
金髪の少女は父に手を引かれ、ゆっくりとその部屋を後にした。振り返ると、さっきまであったフロアウィンドウは真っ暗で、まるで彼女が見た光景が最初から存在しなかったかのようだった。
一方その頃、彼女の目には届かない場所で、廃棄場の人々は機械飛船の行き先を目指して我先にと殺到していた。そこは開けた空地であり、飛船はその真上に静かに浮かんで停止する。群衆は一斉に足を止め、一定の距離を保った。ここではゴミに押し潰されて死んでも誰も気にかけない。だが、それでもじりじりと近づき、誰もが一歩でも遅れるまいと必死だった。
群衆が急停止するその瞬間、必ず何人かの不運な者が足元に巻き込まれる。悲鳴が上がっても、人々は歩みを止めない。踏みつけ事故など、この場ではいつものことだった。
やがて人々の熱い視線を浴びながら、機械飛船の腹部が開く。二枚の巨大な扉が昆虫の羽のように広がり、ゴミが滝のように降り注いで、空地に巨大な穴を穿ち、その後は生地のように広がっていった。
飛船が腹部の扉を閉じると、人々は歓声を上げ、飛船は旋回して去っていった。そして群衆は争うようにゴミの山へと駆け出した。
その最中にもまた踏みつけ事故が起きたが、先ほどと同じく、誰一人として気に留める者はいなかった。
だが、すべての人が群れに加わったわけではない。湖のように広がったゴミの周囲には、早くから駆けつけていながらも、すぐには飛び込まない者たちが大勢いた。彼らは皆、女や子供、そして老人だった。
よく観察すると、最初に駆け込んでいったのは若くて屈強な男たちばかりで、ときおり頭を剃り上げた、同じく屈強な女が混ざっている程度だった。彼らは貪欲にゴミの中の資源を探り、もし身なりの貧弱な者が先に踏み込もうものなら、容赦なく叩きのめされた。
やがて最初の探索者たちが収穫を抱えて戻ってくる。食べ残しのカップ麺の半分や、飲みかけのペットボトルを手にして、ゴミの湖を出ていくのだ。すると周囲でひたすら待っていた女や子供の中から、数人が衣服の裾で顔を拭い、媚びるような笑みを浮かべて歩み寄り、「特別なサービスはいかがですか」と声をかけ、生活に必要な資源を得ようとする。
そう、女や子供――中にはわずか六歳の少女さえいた。その少女は、屈強な男に向かって手慣れた様子である種の卑猥な仕草を見せ、「口で悩みを解決してあげる」と暗に示した。男は少女を一瞥した後、指先で彼女の下半身を指し示す。少女の顔色が一瞬変わったが、何も言わずに笑みを浮かべ、男と共に歩き去った。
しばらくして、片隅から悲鳴が上がった。しかしそれも、先に聞こえた幾多の悲鳴と同じように、誰ひとり気に留めなかった。
なぜなら常識として、屈強な男たちと一部の女が収穫を終えてから、やっと小柄な男や女たちに順番が回り、最後に子供たち、という暗黙の了解――いや、このゴミ場における「法則」があったからだ。
そのため、女や子供は常に食べ物を手にできない側に回る。だからこそ彼女たちは、生き延びる権利を得るために、特殊な技能を駆使せざるを得なかった。
だが、その中にも例外があった。
屈強な者しか立ち入れないその時間帯、巨大なゴミの湖の縁に、一つの影が忍び寄っていた。天体の光が届かないこの廃棄場では、人々は設置された照明に頼って周囲を見ている。だが、その影の主――大きなコートを羽織った小さな少年は、驚くほど熟練した隠密の技術を見せつけ、衆目の中にいながらも誰にも気づかれなかった。
もちろん、同じことを試みた者はこれまでもいたが、その多くは見つかって屈強な連中に殴り殺されてきた。
少年が今しているのは、まさに生死の綱渡りだった。
彼は一歩一歩、細心の注意を払い、音を立てないように動いた。ときには大きなゴミの影に身を隠しながら、忘れてはならない自分の目的――食べ物を探し出すこと――を胸に刻んでいた。
手がある物体に触れたとき、かすかな音が響いた。少年の体は緊張で硬直し、十数秒ほど身動きひとつしなかったが、やがてほっと息を吐いて再び動き出す。遅れて、その音の意味に気づいた。それは油紙の擦れる音だった。そして油紙に包まれているものといえば、たいてい食べ物である。
こうした知識を、ゴミ場で育つ子供が知っているはずはなかった。彼自身もなぜ知っているのかわからない。だが、脳裏に突如として浮かんでくる奇妙な知識のおかげで、彼は大人たちの掟を破り、このような行動を取ることができていた。
彼はゆっくりと手を伸ばし、油紙に包まれたそれに触れた。指先で形を慎重に確かめ、そして握りしめる。握った瞬間、興奮の電流が全身を走った。柔らかく、厚みのあるもの――握り心地は心地よく、食べ物である確率は大きく跳ね上がった。少なくとも硬いものが食料である可能性は低いのだから。
彼は手を引き、息を殺した。そして開く準備をする。無駄な苦労で終わるのだけは嫌だった。
油紙を開いた瞬間、彼は思わず息を呑みそうになった。ゴミ場にいる多くの人々よりも彼の視力は優れており、それが答えを告げていた。
それは――ハンバーガーだった。野菜も肉も挟まれていて、一口もかじられていない、新品のハンバーガー。
彼は慌てて油紙を包み直し、香りが余計な視線を引き寄せぬようにした。
そして影は再び動き出し、ひたすら逃げ続ける。
三つ目のゴミ山の裏に回り込み、探索者たちの群れが見えなくなったところで、ようやく大きく息を吐き出し、興奮を爆発させるように駆け出した。
辿り着いたのは小さな山――もちろん、ゴミでできた山だ。そこは人の集まる生活圏から外れ、ほとんど誰も来ない場所。山の上には壊れた便器の半分が置かれており、それが彼の休憩場所だった。彼はよく、それを自分の王座だと妄想し、退屈なゴミ場の暮らしの慰めにしていた。
今、彼はゆっくりとその便器に腰を下ろし、震える手で油紙を開いた。中にある清潔なハンバーガーを見つめると、それはまるで彼の王冠のように輝いて見えた。本当に自分は王になったのだ、と錯覚するほどに。汚れた手でパンに触れることさえ恐れた。
逡巡の末、彼はパンをひとかけらちぎり、口に入れた。穀物の香ばしさが口内で弾け、涙が出そうになるほどの刺激に、彼は目を閉じ、深く深く味わった。
だが目を開いた瞬間、全身が凍りついた。
目の前に――黒いレインコートを着た小さな少女が、ただじっと立っていた。
彼は愕然とした。どうしてこんな初歩的なミスを? きっと夢中になりすぎて、少女がゴミの上を歩く音に気づかなかったのだ。
いや、それだけではない。こんな目立つ場所で宝物を食べてはいけなかったのだ。けれど、あまりに興奮していた。王としての戴冠式が必要だと、本気で思ってしまった。その結果が今だ。
見つかってしまった。どうする――?
彼は即座に、胸元から鋭い石片を取り出した。
少女には二つの選択肢がある。奪うか、人を呼ぶか。
そして彼には一つしかない。少女を殺すこと。
殺人――それは、このゴミ場においては、あの幾度もの悲鳴と同じように、誰も気にかけない出来事だ。
だが彼の緊張した視線の中で、黒衣の少女はただじっと、彼の膝の上にあるハンバーガーを見つめ、何の行動も起こさなかった。
時間が止まったかのように、汗が頬を伝って落ちた。少女の黒い瞳は一切動かず、彼女はまるで彫像のようだった。
彼は迷いながら、極めてゆっくりと手を伸ばし――自分の王冠、ハンバーガーを半分に割った。
そして、その半分を空中越しに少女へ差し出した。
少女の瞳がわずかに見開かれ、その視線が初めて彼自身に向けられた。
その時になってようやく、彼は気づいた。少女の瞳は驚くほど美しかった。まるで黒曜石のように輝き、壊れかけの雑誌の表紙を飾るにふさわしい。
少女はゆっくりと歩み寄り、彼の目の前に立った。
思わず彼も立ち上がる。その瞬間、彼は知った。この少女は驚くほど美しいと。年の頃は自分と同じ、五歳か六歳ほど。だがその顔立ちは、すでに雑誌のモデルに匹敵する――いや、それ以上かもしれない。初めて目にしただけで、彼にとって今日二つ目の美しい存在となった。
その美しさに見惚れながら、同時に胸に深い同情が湧いた。こんな少女も、きっと幾度も侵されてきたのだろう、と。
そう思いながら、彼はハンバーガーの半分を差し出す手をさらに伸ばした。
少女はそのパンを凝視し、小さな口を少し開け、整った白い歯をのぞかせた。
白い小さな手が伸び、ハンバーガーを受け取る。
――違う。彼はその瞬間に悟った。
どうして、彼女はこんなにも“清潔”なんだ?
考えが終わる前に、激痛と熱が腹部を貫いた。彼は思わず体を折り、手を腹に伸ばす。同時に、もう半分のハンバーガーも少女に奪われた。
少女は二口、三口で、その大きさゆえ大人でも苦労するハンバーガーを、まるで手品のように食べきった。
食べ終わると、少女は右手に血のついたナイフを握り、背を向けて歩き去った。彼に一瞥すら与えずに。
彼はもう立っていられず、崩れ落ちた。手を持ち上げると、そこには鮮血が広がっていた。
暗闇と疲労が、長く張り詰めていた彼の脳を飲み込み、瞼が閉じられていく。
押さえきれぬ傷口から血が溢れ出し、誰からも顧みられることのないゴミ山の頂を、真っ赤に染め上げた。
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