「皇」ー物語の一節の鑑賞ー1「煌めく皇」
空の上には、巨大な火の玉が存在していた。
その炎球の真下に、その大きさからすれば微塵にも及ばないひとつの王国が横たわっている。
たとえその国土が無数の無限大の宇宙世を包含していようとも、この火球の前では塵芥にも等しい。
なぜならこの火球は、あらゆる角度から見て無限に巨大な「全集合」から誕生した存在だからだ。その集合は既知・未知・可知・不可知の全てを含み、あらゆる無限集合を超越する絶対的な完全体であり、いかなる無限集合概念も本質的にこの集合に包含される。
集合内部は無限の階層を持つ宇宙ハニカムで構成され、各ハニカムは多元宇宙と同等の属性を持つ。全概念・全方向に無限に広がり、下位ハニカムを無限に包含する。階層間には無限の次元差と物語層差が存在し、各次元にはさらに無限のハニカムと物語層が嵌套する。物語層に登場するあらゆる空想世界は、たとえ「上位ハニカムを包含する」と描写されようとも、実際にはその物語層を包含する同じハニカム内に存在する。
最下層のハニカムから無限に指数関数的に遡行すると、ついに「頂層単体宇宙」と呼ばれる最大の宇宙単位に到達する。これは多元宇宙的属性を持ち、無限の次元と物語層を包含する。この構造が更に無限に遡ると、最小の単体宇宙に至る。
かくしてこの火球は、まさにその全集合を破壊しようとしている。
故に、もはや語る必要などない。
哀れな王国もまた消滅すべき運命だ。
しかし火球の真下で、赤衣の女帝が両手で炎球を支えている。汗が滝のように流れ、白磁の肌に亀裂が走り、その身は今にも溶けそうだ。
「朕が国民を守る」
赤い警察服に黄金のマントを翻した彼女の影が、王国全体を優しく包み込んでいた。
「陛下、どうか我々を捨ててお逃げください!陛下が犠牲になられたら、本当に希望が消えてしまいます」
下方に黒い集団が広がっている。よく見れば、彼女たちは女帝と同じ赤い警察服を着ているが、王位を象徴する黄金のマントだけが欠けていた。
「心配無用。我が民よ、朕は無策で戦うほど愚かではない」
女帝品桐は微笑み、厳かな声で続けた。「星動が教えてくれた。この戦いに勝機あり、だからこそ朕はここに立つ」
「星動閣下!?」
赤衣の女兵たちが顔を見合わせる。帝国将軍にして女帝の夫である彼が危険を看過するはずがない。では最後の希望はどこに?
「分かった!『戦意』だわ!」
女帝の副官である赤衣警察局長の少女が真っ先に手を挙げた。「皆の戦意を国家の気運と合わせて陛下へ!」
国民が一斉に手を差し伸べ、兵士たちが敬礼する。金色の光の奔流が、空に浮かぶ赤衣の女帝へと注がれていく。
「キーン!」
光を集めた女帝の体内から清冽な音色が響く。次の瞬間、力強い叫びが虚空を裂いた。
「はああ──っ!!」
天の火球が炸裂した。
「ドォオオーン!!!」
炎の海に、黄金の太陽のような存在が現れた。
金色の制服は彫金の如く輝き、白銀のマントが眩い光を放つ。身長と同じ長さの金髪が翻り、淡金色の肌から紅い蒸気が立ち上っている。
「煌めく皇...」
誰ともなく呟いた言葉に呼応するように、品桐が瞼を開いた。金色の瞳から放たれる光の中に、白い炎が渦巻いていた。




