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超想/一字/002ー004:聖(1)ー物語「水晶の物語」

  彼女はいつから始まったことなのか、もう忘れていた……。

  長い間、長い間、この白と青の大地を見つめていた。

  正確に言えば、この大地の下に潜む邪悪を見つめていたのだ。

  底の見えない深淵、濃霧のような暗黒。恐ろしい悲鳴と咆哮が常に響き渡り、まるで世界中の最も汚く穢れたものがすべてそこに閉じ込められているかのようだった。

  それを封じることこそが、彼女の使命だった。

  いつから始まったのか、いつから意識があったのかも覚えていない。

  だが、彼女はそれをやり続けなければならないと知っていた。そしてそうしているとき——

  不吉な予感が胸をよぎった。

  暗黒が深淵を突き破り、白と青の大地を引き裂き、この万年氷河の地をことごとく黒に染め上げるのを見た。黒雲が天空を覆い、海水が絶え間なく底の見えない穴に流れ込み、大海はやがて干上がり、天地は荒涼たる姿へと変わる。一つの紫電を纏った巨大な手がその中から突き出され、蒼穹を貫き、世界をガラスのように易々と打ち砕く……。

  それらはまだ起きてはいなかった。だが、水晶族の天賦の異能のおかげで、彼女はその未来を先に見てしまった。それは必ず訪れる未来だった。

  彼女は、それを阻止しなければならなかった。

  誰も足を踏み入れない万年の永久凍土。吹き荒れる寒風しか存在しなかった。だが次の瞬間、その状況は破られた。白い霧のような足が大地に下ろされる。一歩、二歩。顔の見えない人型の白霧が吹雪の中から現れ、呆然と世界を見渡した。

  彼女は成功した。邪悪を封じ続けた万年氷河の意識が魂となり、形を成し、自由に動けるようになったのだ。

  彼女はこの地を離れ、世界の生き物に警告を伝えなければならない——魔王が復活しようとしている。万物は備えねばならない、と。

  「うぅ〜」

  一曲の悠揚たる笛の音が冷風を切り裂き、彼女の耳に忍び込む。大地全体の音が誰かに音量を下げられたかのように沈黙し、ただその旋律を際立たせる。雪を貫く笛音は、まるで赤い絨毯のように地に伏して響き渡った。

  彼女が振り向くと、白雪の中にぼんやりと影が浮かぶ。近づくにつれて姿は鮮明になった。白衣をまとった少女。手には碧玉の笛。唇にあて、軽やかに吹き鳴らす。心を打つ音色は刃のように、雪幕、風幕を切り裂き、彼女のもとへと届く。その音に導かれるように、少女自身も現れた。

  彼女の心は震えた。ただ、その少女の顔を見てしまったからだ。これほど美しい存在を彼女は見たことがなかった。不思議なことに、彼女は氷河の精霊であり、意識を持って以来、人間を一度も見たことがなかった。ただ世界のぼんやりとした認識の中で、人間という種族の存在を知っているだけだった。だが比較対象も何もない彼女でさえ、この少女が「最も美しい存在」であると直感した。その美は天地の彩りすら色褪せさせる、純粋極まりないものだった。ただ一瞥するだけで、視覚が崩壊しそうなほどに。

  だが、次第に心は安らいでいった。その美しさは、受け入れられるものへと変わり、自身が水へと融け、少女に包まれていくような温もりと安らぎを覚えた。笛音の力だと気づいた。

  「おはよう。」

  少女は笛を下ろし、彼女の心を安らぎで満たすように、微笑を浮かべた。

  「おはよう。」

  時間はわからなかったが、礼儀正しく返すことが、どうしてもしたかった。

  「ぷっ——」

  白霧の身体が突然、膝をついた。少女の正体は知らない。だが、星辰さえ触れぬ場所があり、この外の世界には、容姿の美だけで日月を沈め、時空をも舞わせるほどの強き生命が存在するという。彼女は直感した。この少女は外の存在だ、と。ならばきっと、この世界を救える、と。

  しかし膝が地に触れる前に、見えざる力に支えられ、少女は首を横に振った。

  「この世界は、あなたたち自身で救わなければならない。」

  「暗黒は強大です。」彼女は言った。

  「でも、必ず希望はある。」少女は言った。

  少女は手を差し出し、五指を開いた。掌の上には、透き通る青水晶のような種子が静かに横たわっていた。

  「これは?」白霧の身体が震えた。

  「希望。」

  「どう使えばいいの?」

  「それは原点であり、起源であり、魂。あなたが出発すべき、始めるべきと信じる場所に置くだけでいい。」

  彼女は宝を得たように受け取り、去りゆく少女に問いかけた。

  「あなたの名前を、教えてくれますか?」

  少女は振り返る。

  「仙菜。私の名は——天野 仙菜。」

  「天野、仙菜……」

  彼女は呟き、その名を繰り返した。

  天地を震わせるほどの美貌に、ふと少女は茶目っ気を浮かべる。

  「もし覚えにくかったら、『仙』と呼んでもいいよ。」

  仙は去った。彼女は水晶の種子を握りしめ、白銀の大地に立ち尽くした。

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