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魔に愛された大魔女【連載版】  作者: なぽれおん
3/3

使い魔契約『3体』目

ベルの言葉に被さるように言葉を発した美女の登場で生徒だけでなく、カムリオも反応を示した。


「ウインカー学園長先生!」

「カムリオ先生に生徒の皆さん、お邪魔いたします。イーア・ウインカーです。懐かしい気配がしましたので来ましたが、本日はカムリオ先生のクラスの召喚の義だったのですね」


突然現れたのは、ここエレメンタルアカデミーの学園長である、イーア・ウインカーだった。

そして、イーアの登場に反応を示したのは人間だけではなかった。


「学園長…そうですか、貴女が」


小さく呟いたベルの言葉は誰かの耳に入ることもなく、周囲の音に掻き消えた。

シュービックは自身の疑問をイーアに尋ねた。


「それで学園長、『リンカーネーション』とはなんのことでしょうか?」

「まだ世に出していない私の研究の話です」


シュービックの問いにイーアは続けて答えた。


「そもそも『リンカーネーション』とは転生を意味する言葉です。とある宗教に今を生きとし生ける私たちは誰かの生まれ変わりだと考えるものがあります。その考えから、魂魄召喚時の魂の抽出に転生した魂がなんらかの影響を及ぼすのではないか、と仮説を立てたのです」


シュービックはイーアの言葉を聞き、少し考えて、リンの魂魄召喚との繋がりを理解した。


「では学園長は今回のリン・ツキギシの一件は、その仮説に基づくものだとお考えで?」

「いえ、この仮説はまだ机上の空論にすら及ばない、私の考えた夢物語の話です。今まで検証をする手段もありませんでしたし、あくまで可能性の話とお考えください」

「なるほど、そういうことですか。しかし有意義な仮説にも思えますね」


その二人の会話にベルが横槍を入れてきたのだった。


「実に素晴らしいお話ですね。ワタクシも学園長先生のその夢物語は使い魔として推挙させていただきたい」

「あなたがツキギシさんの使い魔かしら?はじめまして、イーア・ウインカーです。このエレメンタルアカデミーの学園長をしています」


イーアは使い魔特有の魔力の波長から、話しかけてきたベルがリンの召喚した使い魔だということを把握していたため、ベルとにこやかに挨拶を交わした。


「はじめまして、学園長先生。この度リンちゃんの使い魔になりました、ワタクシ…」


対するベルは胸元に手を当て、お辞儀をする、ボウアンドスクレープと呼ばれる、貴族社会における男性のお辞儀をしながら言葉をつむいだ。

イーアは突然見目麗しい、美少女と言っても足りない少女から男性貴族のお辞儀をされ、面を食らった。


「ベルと申します」


一呼吸空け、顔を上げながら、名前を告げるベルからは少量の魔力放出に殺気や侮蔑、憎悪といった負の感情が込められていた。

その少しの情報から、イーアはベルの正体を看破した。

看破したあとのイーアの行動は早かった。


「え?…」


イーアが突然行なった超高速の魔術展開にリンだけが反応すると、イーアとベルだけが外部から分断された。


「使い魔一体に対し、時空間完全閉鎖とは…何をなさるのですか」


イーアが発動したのは、時間と空間の理を歪め、一時的に理外の亜空間を作り出す高等魔法だった。

この亜空間の中は時間軸すら超越するため、外での一秒が最長一時間まで引き伸ばすことが可能で、イーアの魔力と技量で外界との完全遮断を成していた。

そこまでの魔法を発動した理由はひとつで、イーアがベルのことを警戒したからこそだったのだ。


「…この魔力…まさかとは思うが魔王ベルゼブブか?」

「…試したとはいえ、やはり貴様は気づいたか」


さっきまでの明るくおちゃらけた雰囲気はどこかへ行き、そこには黒髪美少女の姿をした慇懃無礼な物言いをするナニカがいた。

ベルが言い終えると、ベルの体は輪郭が歪み、塵のようなものが舞い始めた。

だが、その塵の正体に眼のいいものは気づくこととなる。

それは蠢きながら別の形を取ろうとする、ハエの集合体だった。

変化が落ち着くと、そこにいたのは壮年の美丈夫だった。


「久しぶりとでも言うべきかな?イーア・ウインカー。この練度の時空間完全閉鎖を瞬時に行なうとは、例え老いてもさすがは賢者と呼ばれた女か」


ベル…ベルゼブブは昔馴染みの旧友に出会ったかのような気さくさすら感じさせる反応をしてみせたが、イーアからの反応は薄かった。


「あなたのような大物に気づかないほど老いてはいないつもりよ。それに過去の遺物が、今さら何用?それも一介の使い魔としてなんて」

「それは貴様も薄々感じてるんじゃないか?」


イーアからの何故の問いかけに、ベルゼブブはなんてことはないような口調で問いを投げ返した。

イーアはそれを一瞬頭で考え、自分でも元から考えていたことを答えた。


「…リン・ツキギシが、『あの子』の生まれ変わりだからか」

「フッフッフッ…ご名答」


自らの問いかけに百点満点の回答をよこしたイーアに対して、邪悪さをにじませつつ、満足気に笑いかけた。

イーアは再度問いかけた。


「ツキギシさんと契約して、今度は何をしでかすつもり?まさか世界征服のリベンジ?」

「ハッ…そのようなことをしても、あの方が喜ぶことはありえない」

「だったらいったい」

「我らの目的はただひとつ」


ベルゼブブは呆れたかのように返したかと思えば、食い気味に答えた。


「…我らが主『リン・ツキギシ』に面白おかしく、そして楽しく、今世を往生していただく。それだけだ」


リンに付き従い、主の幸せを願う使い魔の理想のような考えを至極当然だと言わんばかりに、ベルゼブブはそう言いきった。

それに対し、イーアは、以前人間の生き血をすすり、悪逆非道の限りを尽くした大悪魔の言葉にふざけたものを感じてしまった


「…ふざけているの?」

「ふざけてなどいないさ。あの方の最期を思えば当然であろう」

「…なに?」


ベルゼブブが言い始めた言葉に、イーアは面食らったように感じた。


「貴様ら人間どもが、あの方を死に追いやったこと…我らは忘れてはおらぬぞ?」

「それは違う!」


イーアはベルゼブブの言葉をとっさに否定した。

だが、その否定の理由すらも知っているかのように意に返さず、ベルゼブブは続けた。


「あの方は、貴様らの知る通り、愚かなほど優しい方だった。ただただ害悪であった我らなんぞを救うほどの愚か者、今は亡き心優しきあの方に、貴様ら人間どもにやられたのかと真実を問うたとしても、自分が悪かったと、必ず違うと言うことだろう。だが…我らはそう考えているということだ」

「!?」


ただただ静かに、ベルゼブブはそう言いながら、目に見えるほどの色濃さを持つ魔力がふつふつと湧き上がり、言い終わった瞬間に、怒りの感情を感じる濃度の高い魔力が吹き出た。

その魔力は現在イーアが展開していた亜空間の壁にヒビを入れるほどの圧があり、イーアは亜空間の維持に集中することを余儀なくされた。


「我らが主と我ら使い魔に干渉するなとは言わん。我らが主の属する学園の長たる貴様にも立場があることは、王の末席であった我も理解している。だが我らが主の笑顔を曇らせるようなことがあれば…何人たりとも容赦はせん」

「…」


ベルゼブブが言い終えると、体から吹きでていた魔力が徐々にベルゼブブの体に戻っていった。

ベルゼブブは続けた。


「それと我が主はあの方の魂を継ぐ者。貴様の知る通り、あの方同様、様々な偉業を成し遂げることだろう。楽しみにしているがよい」


ベルゼブブはきびすを返した瞬間、黒髪美少女たるベルの姿に戻っていた。


「…それではこれからよろしくお願いいたします。学園長先生」

「…」


その鈴の音のような魅惑の声とともに、ベルはそのまますたすたと歩み始め、イーアの作り出した壁に触れた。

ベルが触れた途端、まるで何事も無かったかのように、瞬時に壁を消し去った。

懸命に留めていた壁をベルに苦もなく消されたイーアは、歯噛みするばかりで、何も言うことは出来なかった。


「ねぇねぇベルちゃん。学園長先生となに話してたの?姿まで変えて」

「え!?リンちゃんそこまで見えてたの?」

「うん。会話は聞こえなかったけどね」


リンの下へ平然と戻ってきたベルに、リンはそう声をかけてきた。

声をかけられたベルは、賢者と呼ばれた大魔法使いの完全遮断されていた異空間の内部のやりとりをリンが視認できていたことに心底驚かされた。

リンの持つ力が徐々にではあるが、強まりつつあることにベルは喜びも感じたものの、今回のことはとりあえずごまかすことにした。


「…学園長先生にはどんなことができるのかって話をしてたんだよ。変身能力と魔術の適正の話とか」

「ふーん。そうなんだ。あとで私にもベルがどんなことをできるのか教えてね」


そう言われたベルが嬉しそうにうなずくと、ようやく全員の無事を確認できたのか、テオが締め始めた。


「では、いろいろありましたが、召喚の儀は全員成功でした!みんな優秀!」


パチパチと拍手をしながら、とても嬉しそうに生徒たちを賛美するテオの姿に生徒たちは皆、恥ずかしそうに、または自信満々に、はたまた照れたような、各々の反応を見せるのだった。

続きを聞くまでは。


「それではこのあとは教室に戻ったら、使い魔たちの特徴などをまとめて、レポート作成と提出の用意を進めてもらいます!」

「えーっ」

「えーじゃありません!」


体験の最後には付きものであるレポートの提出課題に、生徒たちは一様に楽しげな非難の声を上げたのだった。

そんな中、ベルとのやりとりのまま、その場で立ち尽くしていたイーアにシュービックが声をかけた。


「学園長。顔色が優れませんが、いかがなさいました?」

「…いえ、なんでもありません」


声をかけられたイーアは何事もなかったように微笑を浮かべながら返答した。

その反応に少しだけ心配しつつも、シュービックはイーアのことをレポート作成会に誘った。


「そうですか?…ではいい機会ですし、リフレッシュもかねて、このまま私共も彼らのレポート作成に参加しませんか?今回の魂魄召喚の結果も皆優秀でしたし、とても稀有な使い魔を召喚している生徒も居ますから」

「それはいいですね。ですが、私はこのあとまだやることがありますので、このまま学園長室に戻ります。講義のサポートは、ぜひシュービック先生が執ってあげてください」

「…わかりました。学園長の知識を見られないのは私も残念ですが、仕方ありません。では私もここで失礼させていただきます」


シュービックはまるでスキップでもし始めそうなほど、足取り軽く、生徒たちの集まる場所に合流したのだった。


「…魔王ベルゼブブ…」


そう一人でつふやきながら、イーアは険しい表情のまま、リンとベルと子猫の三人を見つめるのだった。


時は過ぎ、その日の夜。

リンは使い魔たちを伴って、自室へと帰ってきた。


「あ〜!今日も疲れたぁ〜!」


リンはそう叫びながら、ベッドへと倒れこんだ。

そのあとに続いて、ベルは子猫を抱えながら同じベッドの縁に座り込んだ。


「人間のやるレポート作成って思ったよりめんどいんだね…ワタクシも疲れちゃった」


実際に自分がレポートを書いたわけではないが、自分に関するレポートだったからか根掘り葉掘りいろいろと聞かれたため、ベルも疲労困憊といった様相だった。


「それにしても今日だけでいろいろあったね。使い魔召喚で二体も使い魔ができちゃうし」

「…迷惑だった?」


ベルは少しだけ不安そうに、リンにたずねた。

リンは首を横に振って、笑顔で答えた。


「ううん。そんなことないよ。最初は珍しい猫ちゃんとハエで驚いたけど、賑やかになるのは好きだしね」

「リンちゃん…ありがとう」


ベルは照れ隠しか腕に抱えた子猫をかかげながら、話を強引に逸らした。


「そ、そういえばこの子の名前ってどうしようか?まだ決めてなかったよね?」

「ふふーん!それならもう決めてるんだよね!」

「ほんとに!なになに!」


リンは子猫をベルからあずかり、抱えつつ立ち上がるともったいぶるように続けた。


「この子の名前はねぇ…」

「うんうん!」


そしてリンは意気揚々と子猫の名前を発表した。


「この子の名前はリンカ!」

「…え…」


その名前を聞いた瞬間、ベルは思考が止まった。

リンがその名前を付けるなんて、と。


「学園長先生の言ってたリンカーネーションって言葉を聞いて、ビビッと来たんだよね。それに私のリンって名前大好きだから、この子の名前にも入れたくて…どうかした?」


つらつらと名づけの理由を語っていたリンだったが、いつの間にか泣きそうな顔をしているベルに気づいたのだった。

気づかれたベルは、慌ててごまかした。


「ううん!?なんでもないよ!」


ベルは噛み締めるように、大事に大事にその名前を呼んだ。


「すごく…すっごくいい名前だと思うよ、りんかちゃん」

「でしょ〜!あなたもリンカって名前気に入った?」

「にゃ〜」


リンカと呼ばれた子猫は満足気に返事をした。


「うんうん!よし!リンカの名前も決まったことだし、ご飯食べて今日は寝ちゃおう!」


そう宣言したリンに感動的な雰囲気を出していたベルは一瞬にして冷静さを取り戻した。


「ご飯食べて寝るってお風呂はどうするの?」

「…面倒だから今日はいいかな〜…って」


リンは可愛らしくごまかした。

その可愛らしさにベルは一瞬だけほだされかけたが、頭を振って突っ込んだ。


「…いやだめだよ!食事の前に入浴しないと!女子生徒の入浴の時間割も決まってるんだから!」

「え〜…じゃあ代わりにベルが入ってきてよ〜」

「それじゃダメ!ほら行くよ!」

「や〜…めんどくさい〜…」

「…にゃ〜」


こうして、いずれ億万の使い魔に愛されることになる大魔女「リン・ツキギシ」と使い魔たちのドタバタ劇が幕を開けたのだった。

ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。

「魔に愛された大魔女」いかがでしたでしょうか?

今作品はVTuber「月岸りん」様をイメージしたファン小説として投稿させていただきました。

本物のりんちゃんはもっと魅力的で可愛らしい方です。

自分の文才がもっとあれば、もっと本物の魅力に近づけられたのかなと、自分の腕を呪う限りではございますが、読んでいただけた方々に少しでも楽しんでいただけたのなら、使い魔冥利に尽きます。

それでは今後の「月岸りん」様のご活躍を心から願いつつ、この場は〆させていただきます。

また筆がノリましたらまた続きを書こうかな?

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