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とりあえず寝てみた 1

 「ねぇ。キスしても良い?」

 松本さんは身の危険を感じて、身構える。

 「急になんですか?」

 「なんかさぁ。キスしたんだ。寂しいからさ」

 「寂しいと、吉川さんは、まだ知り合って日が浅い男と、キスするんですか?」

 「そう言うわけじゃないんだけど。松本さんの顔がと身体が好みなんだ」

 

 「え? 僕が好みなんですか? でもぉ、だからって、そのぉ」

 

 松本さんは、背後から熊さんが現れて、ボコされやしないか不安になる。

 松本さんは、もしやこれは、新手の美人局ではないかと思えてきた。

 なんせ、美女の吉川さんが、松本さんを好みだなんて、松本さんは信じられなかった。

 

 「好みだよ。でも大丈夫、キスしたからとか、エッチしたからって、責任取ってとか言わないから。相澤さんを好きな松本さんが、私を好きになるはずがないの、分かっているから」


 松本さんはなんとか穏便に回避したかった。

  「じゃ、そんな短絡的なキスやセックスは止めておきましょう。良くないですよ。特に女性には……」

 「もう私も29歳だから。その辺は、大人だから、割り切れると思うんだ」

 そう言うと、吉川さんが立ち上がる。

 「行こう」

 「何処にです?」

 「熊さんの部屋だよ」

 そして引きつられる様に、吉川さんの後を付いて、松本さんが行く。


 2階に上がって、一番手前の部屋に、吉川さんが入っていく。

 その後に松本さんが続く。

 松本さんが、部屋を見回して聞いた。

 「ここが熊さんの部屋ですか?」

 吉川さんが、勝手に箪笥の引き出しを開けながら言う。

 「そうだよ」

 「勝手に引き出しを開けて良いんですか?」

 「いいよ。大丈夫。大丈夫」

 

 吉川さんは、箪笥の引き出しの中を、物色した。

 「あった」

 吉川さんがそう言って、引き出しから出したのは、コンドームだった。

 「なんで……、コンドーム……」

 「今から私達が使うからさぁ」

 「僕たちが使うって、つまり僕たち今からするってこと? キスだけじゃなかったんですか?」

 

 「私たち、もうすぐ30歳だよ。キスですむわけないじゃん」

 「ちょとお、そんなぁ。僕、あの、帰ります」

 「もう、いいじゃん。女に恥をかかせないで」

 「恥って……」

 

 吉川さんが悲痛な顔をする。

 「やっぱり、私がオバさんだから、私とはしたくないの? それとも女に見えない?」

 泣きそうな目をした吉川さんに、松本さんはたじろぐ。

 「そんな事は言ってないですよ」

 「じゃぁ、しよう」

 吉川さんが、松本さんの手を引いて、熊さんの隣の部屋に、松本さんを連れて行く。


 そこは、女の部屋だった。

 ぬいぐるみが置いてあって、色とりどりの色の洋服が、ラックに下がっていた。

 ベッドカバーは、淡いピンクがかった紫色で。

 枕カーバーは、動物のキャラクターが印刷されていた。

 抱きまくらには、うさぎの耳がついている。

 

 「私の部屋だよ」

 松本さんが頷く。

 それから、松本さんが言う。

 「いい匂いがする」

 吉川さんがベッドに腰掛けた。

 「化粧品とか、そう言う匂いじゃないの?」

 松本さんも、吉川さんの隣に腰掛けた。

 「さぁ、どうなんだろう? 化粧品の匂いとか、知らないし」


 吉川さんが、松本さんに寄り添った。

 吉川さんの髪から、フローラルの匂いがする。

 それを何気に、松本さんは嗅いだ。

 「吉川さんの髪からも、いい匂いがする」

 吉川さんがクスッと笑う。

 「松本さんは、なんか、爽やかな香りがするけど。シトラスミントかなぁ」

 「ああ、そう言えば、ボディソープにそんな事が書いてあったような……」


 吉川さんが、松本さんの唇に、吉川さんの唇を近づけた。

 そして、吉川さんが、松本さんの唇を、吉川さんの唇で包んだ。

 「あっ」と、松本さんが言う。

 吉川さんが、松本さんの唇と唇の間を、舌でなぞった。



 松本さんが、真っ赤になっていう。

 「そんな、ことされると、僕……」

 吉川さんが言う。

 「松本さんは、私に悪いなんて思うことないんだ。私はその場限りの、セックスがしたいだけだから。でも嫌なら、今すぐ出て行って。それで私たちは終わり。今度会ったらお客様としてでしか、私に声をかけないでくれたら良いよ」


 松本さんが言う。

「いや、忘れるのは無理です」

 松本さんが、吉川さんの首筋にキスをした。

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