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華ちゃんと熊さん


 熊さんの到着から10分もしないで、分娩室から「おぎゃー」と赤ちゃんの声がした。

 そして、程なくして分娩室から、ベテランの看護師さんが、赤ちゃんを連れて出てきた。

 熊さんが、思わず駆け寄って、赤ちゃんを見る。

 「俺の子かぁ」

 看護師さんが言う。

 「元気な赤ちゃんですよ」

 

 それから、看護師さんが、熊さんの顔をまじまじ見て言う。

 「あら、お父さんにそっくりですね」

 「そうですか?」

 吉川さんが言う。

 「似ていて、可哀想――!」

 

 熊さんが怒る。

 「おい、吉川、言って良い冗談と悪い冗談があるぞ」

 吉川さんが言う。

 「ごめん、ごめん。熊さんに似ているけど、可愛いよ」

 松本さんも言う。

 「メチャクチャ、可愛いですよ」

 熊さん頷き言う。

 「そうだよなぁ。可愛いよなぁ」


 熊さんが、看護師さんに聞いた。

 「華は、元気ですか?」

 看護師さんが思い出し笑いをした。

 「若いから。元気ですよぉ。もうお腹空いたって言ってます。可愛いママよね」


 熊さんが言う。

「こんな大きいのを、あんな場所から出したのか……」

 吉川さんが注意した。

「熊さん、なんかその言い方露骨だよ」

「すまん。つい……。いや、大変だなって思って……」



 話を聞いていた看護師さんが、大笑いして言う。

「そりゃ大変ですよ。赤ちゃんを産むのはね。私だって、産んだときは、どうやってこんな大きな赤ちゃんが、産道から出てこれたのか不思議でしたよ」

 吉川さんがその話におののく。

 「私は、産めるかな?」

 

 看護師さんがいう。

 「大丈夫ですよ。案ずるより産むがやすしって、昔から言うんですからね。さて、お父さんと赤ちゃんの写真撮りますか?」

 熊さんが、吉川さんに携帯を渡した。

「吉川、撮ってくれよ」


 吉川さんが、熊さんと赤ちゃんの写真を撮った。

 撮られた写真を熊さんが、その場で確かめた。

「ありがとう」

 吉川さんが微笑む。

「うん、おめでとう」

「ありがとう」

 

 熊さんが看護師さんに聞いた。

「華に会っても良いですか?」

「ええ、まだ病室の準備に15分くらい掛かるので。その間、お父さんは、中に入っても大丈夫ですよ」


 熊さんが吉川さんと松本さんを見る。

「吉川、松本さん。ありがとう。でも今日はもう帰ってくれないか?」

 松本さんが、何か感づいて答えた。

「ああ、わかった」

「華ちゃんと2人にして欲しいんだ」

 吉川さんが言う。

「うん、華ちゃんにおめでとうって伝えて」

「ああ、伝えとく」


 廊下の2人に見送られて、熊さんは分娩室に入って行く。


 そして、熊さんは華ちゃんの顔を見るなり言った。

「頑張ったな」

 華ちゃんは久々に熊さんを見て驚く。

 でも「うん」しか言えない。

 

 熊さんが華ちゃんのベッドの脇に立った。

「腹減ったって聞いた。何食べたい? 買って来るよ」

「熊ちゃんを食べたい」


 熊さんが微笑む。

「バカだなぁ。何言っているんだよ」

 華ちゃんに笑顔はない。

「私、熊ちゃんに会いたかった」

 熊さんが噛みしめるように言う。

「うん」


 華ちゃんは思い詰めたように言う。

「私、我儘だったと思う」

 熊さんの表情は優しい。

「もう良いよ。可愛い子が産まれて来てくれた。頑張って産んでくれて、ありがとう」

「うん」


 熊さんが華ちゃんの頭を撫でた。

「産むの、大変だっただろ?」

「うん」

「俺も悪かった」

「うん」

「俺、華ちゃんところに、戻るよ」

「うん」

 華ちゃんが、立っている熊さんのウエスト部分に抱きついた。

「もう消えたりしないで……」

「子供も産まれたんだ。もう消えたり出来ないよ。もう俺も父親になったんだ」

「私も……、我儘を我慢する。ママになったんだもん」

 熊さんが華ちゃんの背中を労るように撫でた。


 華ちゃんが言う。

「お帰りなさい」

 熊さんが答えた。

「ただいま」

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