バレッタを君に 2
家に帰って吉川さんが、風呂上がりに、脱衣所の洗面台の前で、バレッタをつけた。
その様子を見ていた松本さんが聞く。
「アレ、バレッタが変わったね」
地の色がオレンジ色で、ゴールドの縁取りがされた、キラキラしたビーズがついた、綺麗なバレッタだった。
吉川さんが説明した。
「今朝、バレッタが壊れてね。それで買おうと思ったら、駅で丁度売っていたの」
吉川さんが、松本さんがバレッタを、よく見えるようにと、頭の角度を変えた。
そして聞く。
「派手じゃない?」
マジマジとバレッタを見て、松本さんが答えた。
「すごく、似合っているよ」
「良かった。派手じゃなかって思ったから」
ただ、松本さんは違和感がした。
吉川さんの趣味と違うデザインの、バレッタだと思ったのだ。
「それ、自分で選んだの?」
「ううん。選んでもらったんだよ。そしたらこれが似合うって言われて」
確かに似合うと、松本さんも思った。
吉川さんが嬉しげに言う。
「その友達が新しいの買ってくれたの」
松本さんは、その友だちの名が気にかかる。
「その友だちって、山岡ちゃん? 平川くん?」
「違うよぉ」
松本さんは更に聞いた。
「じゃぁ、山本くん?」
「そうだよ。たまには女の子に買ってあげたいんだって」
松本さんの表情が曇る。
「今日会っていた友達って、山本くんだったんだ……」
「そうだよ、あと……」
吉川さんは、平川くんもいたと、言おうとしたが。
松本さんが、吉川さんの言葉を遮って聞いた。
「山本くんと会ってきて、僕との約束に遅れたんだぁ」
吉川さんが遅れた事を謝った。
「あ、ごめん」
松本さんが吉川さんのバレッタを外した。
吉川さんが、外す理由を聞いた。
「え? 何で外すの?」
松本さんが、自分の手に持たれたバレッタを見て、唸る。
「うーん」
松本さんが吉川さんのバレッタを、ゴミ箱に捨てた。
つい吉川さんが言う。
「あ、勿体無い……」
松本さんが吉川さんに抱きつく。
「買ってあげる。僕が似合うのを、選んで買ってあげる」
吉川さんが、目でバレッタを追う。
「でもぉ、せっかく山本くんがぁ。好意で買ってくれたのにぃ」
松本さんが言う。
「そのバレッタだけはやめて。つけないで」
鈍感な吉川さんには、松本さんの気持ちがわからない。
でもつけて欲しくないのはわかった。
「うん、そうする」
松本さんが吉川さんをギュっと抱きしめた。
吉川さんが文句を言った。
「ちょっとぉ、少し痛いよ」
松本さんの声色は切ない。
「僕はもっと痛かったんだ」
吉川さんが、つい謝った。
「ごめん……」
松本さんの語気は強めだった。
「もう、気安く男から物を買ってもらうなよ」
「友だちでも、駄目なの?」
松本さんは小さな声で言う。
「……駄目だよ。特に……山本くんはさ……」
吉川さんは、松本さんの、気弱な声が可愛くて。
それで、甘えた様に言う。
「ねぇ。本当にバレッタ、私に似合うの選んで買ってくれるの?」
松本さんがひときわ小さな声で……。
「……うん」て言った。




