バレッタを君に 1
平川くんのアパート出て、山本くんが駅につくと。
アパートを先に出た吉川さんが、駅の改札前に、まだ、いた。
駅の改札前に、特設でアクセサリー屋さんが出店していて、そこに引っ掛かっていたのだ。
山本くんが吉川さんを見つけて、近寄って行った。
「アレ、まだいたの?」
「うん、バレッタが欲しくて。今朝、壊れてさぁ」
「ふーん」
吉川さんは真剣にバレッタを見ている。
「どれが良いかな?」
「これは?」
地の色がオレンジ色で、ゴールドの縁取りがされた、キラキラしたビーズがついた、綺麗なバレッタだった。
吉川さんも悪くはないと思ったけど。
「派手じゃない?」と、山本くんに言った。
山本くんが、バレッタを吉川さんの髪に当てながら言う。
「吉川ちゃんは、オレンジが似合うよ」
「そうぉ? まぁ良いかぁ。山本くんはセンスいいから。従うかぁ」
山本くんが、はにかむ。
「俺って、センス良いかな?」
吉川さんが大きく頷く。
「うん。私の知り合いの男子では1番いいと思うよ」
「そうかな」
「そうだよ。なかなかセンスいい男っていないんだよ」
「センスを褒められて嬉しいから、それ買ってやるよ」
吉川さんが、バレッタの値札を見て言う。
「え? 良いの。これ妙に高いよ」
山本くんがバレッタを手に、レジに行く。
「いいよそれくらい。俺もたまには、女の子に何か買って上げたいんだ」
「へー。私を女の子のカテゴリに入れてくれるんだァ」
「ああ、平川はどうか知らないけど。俺は吉川が女の子だって思っているよ」
“それは山本くんのギリギリの告白の言葉”
レジの前に、仲良く並ぶ二人。
「ありがとう。いつも無口で、あんまり喋らないけど。たまに喋ると良い事言うねェ」
「たまにかァ」
「うふふ」
つられて山本くんも笑う。
「フフフ」
バレッタを買ってもらって、2人改札を潜る。
吉川さんが昔話をする。
「なんか、二人で駅の中にいると、懐かしいね」
「そうだな」
「高校に時、時々電車で一緒になったじゃん」
「ああ、2駅だけだったけどなぁ」
「ね。あの時さぁ、満員電車だと、山本くんは私を守るように立ってくれたよね。他の乗客が私に触れないようにさ」
「そうだな。そんな事あったな」
「山本くんは、あの頃から優しかったなぁ」
山本くんはキッパリと言う。
「俺は、誰にでも優しいわけじゃない」
「へぇ――。そうか、私達友だちだもんね」
“山本くんの伝わる事のないメッセージ”
山本くんが優しく、にっこり笑った。
その笑顔に、吉川さんは、ちょっとだけ心が持っていかれそうになる。
それから、山本くんが言う。
「じゃ俺は南武線使うから」
「ああ、私は中央線。じゃあね」
2人は構内で別れた。
山本くんは電車に乗る。
高校生の時を思い出す。
山本くんは、高校帰り、吉川さんと時々一緒になった。電車は満員で。
山本くんは吉川さんを、電車の壁と山本くんの体で囲んで、吉川さんにスペースを作ってあげた。
多分周りから見たら、山本くんは、吉川さんの彼氏に見えた。
綺麗な吉川さんが、一時、山本くんの、彼女みたいになる数分間だった。
綺麗な吉川さんは、チラチラと男の視線を集めていて。
山本くんは、そんな吉川さんのそばで彼氏を気取って立っていた。
山本くんは、彼氏になれない事は知っていた。吉川さんは山本くんに、男としての興味がないことを、山本くんは気付いていた。
だから告白する事など考えた事もなかった。
それでも、と山本くんは思う。
――あの時きちんと告白していたら、何か変わったのかもしれないな――
山本くんのイヤフォンから音楽が流れる。
”It's too late”
山本くんに出来るのは、バレッタを買ってあげる事くらい。
山本くんのイヤフォンから、次の音楽が流れた。
”You've got a friend"
車窓の景色が、山本くんの思い出と一緒に、バラバラとめくれていく。




