お持ち帰りされる
朝、目が覚めると。
そこは平川くんの、知らない部屋の中だった。
平川くんはベッドの上に寝ていた。
「重い。腕が痺れている」
平川くんの腕が麻痺していた。
それで、自分の腕に乗っている、何かを見た。
スネ子の頭だった。
平川くんの背筋に、電気が走る。
平川くんは、危険を察知して、そっとスネ子から腕を引き抜いた。
それからあたりを確認した。
昨日着ていた、上着とシャツは、床に転がっていた。
しかし、ズボンは履いていた。
おろしたての硬いジーンズだったのが、幸いしたのだろう。山岡ちゃんに同窓会で会うために、ジーンズショップで、万札を2枚も叩いた、ジーンズのお陰だった。
平川くんは、ジーンズに感謝した。
――ズボンを脱がずに済んだ――
――ありがとう――
平川くんは、心底ホッとした。
それから、床に足をおろして、音をたてないように、シャツと上着を着た。
テーブルの上に置かれていた、平川君の携帯と鍵、そして財布を、ズボンや上着のポケットに突っ込んだ。
平川くんがスネ子の様子をうかがう。
スネ子は、昨日飲みすぎたのか、全く起きる気配はない。
スネ子の様子を確かめつつ、平川くんは素早く部屋を出た。
オートロックだったから、勝手に鍵がかった。
建物の外に出ると、見知らぬ町並みだった。
平川くんは、携帯で自分の位置を確認した。
「町田かぁ。俺今町田にいるのかぁ。帰ろう……。駅まで遠いなぁ。家につくのに、1時間かかるなぁ」
平川くんは、携帯の地図を頼りに、駅に向かった。
すると、携帯に電話がかかってきた。
画面を見て、平川くんは、立ち尽くした。スネ子だった。電話に出ないと、ラインメッセージが入る。
「メガネ忘れていったけどぉ」
スネ子からのメッセージに、メガネがない事に気がつく。
「メガネ? あわぅ。メガネ? ない。ない。ああ、忘れたんだぁ」
携帯画面を見ながら、平川くんは思う。
――メガネはいらない――
ラインに書き込んだ。
「メガネはいらない。捨ててくれ」
スネ子から、即レスがある。
「え――。でもまだ新しいよね? もったいなくない?」
平川くんが固辞する。
「いらない。捨ててくれ」
スネ子は、持って来る気満々だ。
「今何処にいるの? 持って行ってあげるよ」
平川くんは、またも固辞する。
「いや、いらない。もう良いから、捨ててくれ」
スネ子は頑張る。
「今日が駄目なら、後で会おうよぉ」
平川くんはスタンプを送った。
「さよなら」
スネ子がスタンプを返してきた。
「またね」
スネ子のまたねが、平川くんの脳の中でこだました。
――またね。またね。またね――
平川くんの背筋に、また電流が流れた。
――ヤバい、ヤバすぎる――
それから平川くんは昨日の夜を思い出す。
――俺、大丈夫だよな。何もしていないよな――
――酔っていたとはいえ、スネ子なんかと寝たとなったら、俺のバカさは、世界一だと思う――
そして山岡ちゃんを思い出した。
――山岡ちゃん。俺シクッたみたい――
トボトボと、平川くんは駅に向かった。




