高速と夜景と、アクセルと
2次会をした店の外に、吉川さんはいた。
すぐに山本くんも、吉川さんの隣にやってきた。
吉川さんが言う。
「うまくいくかなぁ?」
「さぁ、どうかな?」
吉川さんが、山岡ちゃんにメッセージを送る。
”用事が出来たから、先に帰るね”
吉川さんは、メッセージを送ると、山本くんに言う。
「はぁ、20時過ぎかぁ。なんかしょうもない同窓会になったね。同窓会では、何も食べてないし。同窓会の会費は、払い損になったしなぁ」
「そうだな」
「帰る?」
山本くんがサラって言う。
「うん、送っていくよ」
「え?良いよ。電車の線、違うじゃん?」
「俺、今日車だから」
吉川さんは、山本くんがビールを飲んでいたのを見ていた。
「あれ、ビールを飲んでいたよね?」
「ノンアル飲んでた」
そこで、吉川さんは疑問に思う。
「なんで今日は車で来たの?」
「どうしてだろうなぁ?」
「う――――ん」
”車で来た訳なんて”
”きっと吉川さんには分からない”
山本さんが言う。
「ここから5分くらいの場所に停めてあるから、一緒に行く? それとも俺だけ行って、車で戻ってこようか?」
「本当に送ってくれるの?」
「ああ、ついでに高速乗ろうよ」
「え? 高速?」
「夜景が綺麗だよ。新宿から乗って、首都高を少し回ろう。それから中央道に乗ろう」
「いいねぇ」
二人は駐車場に向かってあるき出した。
通りすがりにコンビニが見えた。
吉川さんが聞く。
「何かコンビニで飲み物とか買う?」
山本くんと吉川さんが、コンビニに入る。
吉川さんが菓子パンと紅茶を手にした。
籠を持っていた山本くんが言う。
「それ、俺の籠に入れろよ」
「え? でもぉ」
「面倒だろう? 一緒に払うから」
「そうなの?」
「うん、入れて」
籠に菓子パンと紅茶が入る。
吉川さんがレジ脇でお菓子を見つける。
山本くんが聞く。
「チョコステックが欲しいの?」
吉川さんが恥ずかしげに「うーん」と言った。
山本くんが言う。
「チョコステックも買おう」
山本くんが、篭にチョコステックを入れる。
吉川さんが嬉しげに小さく微笑む。
山本くんが会計した。
山本くんがレジ袋を持って、その隣を吉川さんが歩く。
美人の吉川さんは、男たちにチラ見されていく。
その様子に、山本くんが言う。
「いい気分だな」
吉川さんが言う。
「そうだね」
吉川さんは、単に気分が良かっただけだった。
二人のいい気分は、違ういい気分だったけど。
でも、二人共、ご機嫌には違いなかった。
二人は駐車場に着き、運転席に山本さんが、助手席に吉川さんが乗った。
車は、一般道を走り、直ぐに高速に上がった。
山本さんは、車を走らせる。
東京の夜景が、矢のように通り過ぎていく。
吉川さんが言う。
「夜景が綺麗だね」
山本さんは、横目で吉川さんを見て言う。
「ああ、綺麗だ」
二人の綺麗だと言った、対象物は、違っていたけど。
夜景は途切れること無く続き。
吉川さんが言う。
「最近、夜景とか見てなかった。見せてくれてありがとう」
山本さんが言う。
「うん、俺もだよ。見られてよかった」
”山本くんは、そのセリフに、吉川さんと、と言う言葉は加えなかった”
吉川さんが聞く。
「コーヒー飲む?」
山本くんが、運転しながら、横目で吉川さんを見る。
「ああ、でも……。運転してちゃ、ストローがさせないし……」
「任せて!」
吉川さんが、山本くんが買ったコーヒーのパックに、ストローをさす。
吉川さんが、ストローをさしたコーヒーパックを、運転している山本くんの口付近に差し出した。
山本くんは、吉川さんの手に持たれたコーヒーパックから、少し戸惑いながら、コーヒーを飲んだ。
山本くんはコーヒーを、数口飲んで言う。
「ありがとう。もう良いよ」
吉川さんはコーヒーパックを、山本くんから離す。
吉川さんが、聞く。
「お菓子食べる」
吉川さんが、チョコスティックを持っていた。
山本くんは、普段お菓子は食べない。
それでも、山本くんはチョコスティックを、チラッと見る。
「チョコスティック、美味そうだな。くれよ」
吉川さんが、山本くんの口に、チョコステックを運ぶ。
山本くんは、吉川さんに、チョコステックを口に入れてもらって、そして食べた。
吉川さんが聞く。
「美味しい?」
「すごく、美味しい」
山本くんは、好きじゃないお菓子が美味しかった。
吉川さんが喜ぶ。
「良かった」
山本くんは、助手席の吉川さんを、ぼんやりと感じながら言う。
「チョコステックを、久しぶりに食べたよ」
「そうなの?」
山本くんが言う。
「チョコステックって、美味かったんだな」
吉川さんが笑う。
「そうだよ、美味しいよ」
そして車は、20分ほどの首都高の回遊から、中央道へと進路を変える。
中央道を快適に走り、20分ほどで府中インターの出口が見えてくる。
府中インターで降りて、ランプウェイを通って、一般道に戻る。
それからしばらく一般道を走り、程なくして、車は吉川邸の前に着く。
吉川さんが車から降りて、運転席の山本くんと話をしていた。
すると玄関から、松本さんが出てきた。
松本さんが二人に声をかけた。
「送ってもらったの?」
吉川さんが言う。
「そう、たまたま山本くんが、同窓会の会場に車で来てたから」
松本さんが言う。
「呼んでくれたら、僕が迎えに行ったのに」
山本くんが言う。
「ついでだったんで……。じゃぁ、俺はそろそろ。またな、吉川ちゃん」
山本さんが、人の心を溶かすような笑顔で、にっこり笑う。
吉川さんが頷き、手を振った。
車はゆっくり走りだす。
松本さんは、吉川さんに、密着するほど、側に立った。
車を運転する山本くんは、バックミラーに目をやる。
そして、独り言を言った。
「手を、繋いでいる」
山本くんは、アクセルをふんだ。




