表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/64

僕は君を、あいしているって、言いたい


 熊さんの車が見えなくって。

 熊さんがいなくなって。

 吉川さんは、家の中をひと回りした。


 家も中から、熊さんのものがなくなった。

 2階の、熊さんの部屋は、何もなくなった。

 玄関に置いてあった、背の高い脚立も消えた。


 吉川さんは脚立を思い出す。

 ――いつもあんなに邪魔だと思っていたのに――

 

 それから、吉川さんは、吉川邸の小さな庭の縁側に座って……。

 ……庭を見ながら、しばらくぼんやりしていた。

 吉川さんは、立ち上がって、居間にあったタバコとライターをとって、ポケットにいれた。

 松本さんが、忘れていったタバコとライターだった。


 それから熊さんが残していった、10年もののウィスキーを手にとって、キッチンでグラスを手に取る。

 右手にボトル、左手にグラス。


 それから縁側に戻って、ボトルとグラスを、床に置く。

 ポケットからタバコとライターをだして、タバコをくわえた。

 タバコに火をつける。

 吉川さんがタバコを吸う。

 ゆっくりと、タバコの煙が、空に向かって、あがっていく。

 吉川さんは、煙の行き先をみる。

 


 ユラユラユラ、と揺れながら。

 空気の中に溶け込んでいく。

 


 すると、煙の先に、人が見えた。

 熊さんが勝手に、庭に植えた木が邪魔して、誰かわかない。

 吉川さんは、熊さんが、忘れ物でもして戻って来たかと思う。

 

 

 「何?何か忘れ物したの?」


 

 「忘れ物は……。したかと言えば、しました。言わなきゃならない事。言えなくて……」

 吉川さんは、声に驚く。

 熊さんの声じゃなかったからだ。

 松本さんの声だった。

 「忘れ物……ではないけど……。忘れ物に近い感覚かも……」


 吉川さんは思う。

(もう会うこともないと思っていたのにと)


 それで聞く。

 「あ、何でここにいるの? 今日告白するんじゃなかったの?」

 「う――――ん。今日は告白をしますよ」

 「じゃ、これからなの? これからアプリの女に会うんだぁ」

 「もう、会いました」

 「じゃぁ、もう告白はしたんじゃんかぁ。それでどうなったの?」


 松本さんは、今日の出来事を報告した。

 「まだ、今日は告白してないですよ。アプリの方には、告白しないし。アプリの方は、告白とかじゃなくて、終わりにしました」

 「え? 終わりにしたの? なに? ああ、フラれたの?」

 「フラれてないです。フッてもないし。ただこれで会うのは終わりにしようって、言っただけです」

 

 吉川さんは、ガッカリした。

 吉川さんは。松本さんが上手く行けばいいと思っていた。

 だって、松本さんが、吉川さんは好きだからだ。好きな人には幸せになって欲しい。

 「そうなんだァ。じゃ、誰に告るん?」


 松本さんは話を変えた。

 「あのですね。謎々が解けたんです」


 それで……。

 吉川さんは、くわえたタバコを庭に落とした。

 吉川さんの顔が、一気に真っ赤になった。

 そして「あぁ……」と息を漏らした。

 

 松本さんが吉川さんを見つめる。

 「友だちじゃなきゃいいんだろう?」

 「……うん、そう」

 「知り合いでもなくて、友だちでもないなら、ラインや電話番号も教えてくれるんだろう?」

 「……うん」

 「恋人になろう」

 

 耳まで真っ赤になって、吉川さんが返事をする。

 「……うん」

 「そしてラインも交換して欲しい」


 そして吉川さんと、松本さんはラインを交換した。


 今日の松本さんは強引だった。

 そして、何時になく、吉川さんは、素直だった。

 

 松本さんが言う。

 「婚活アプリも消して。僕の目の前で、消して。僕も今消すから」

 吉川さんは、婚活アプリを、松本さんの目の前で消した。


 松本さんが訴える。

 「電話番号も、教えて。じゃないと不安だから。ラインは携帯が壊れたら、なくなるから……」

 

 吉川さんが、松本さんの携帯を手に取る。

 電話アプリを開いて、番号を打った。

 吉川さんの携帯がなった。

 吉川さんが、自分の携帯電話を手に持って、通話開始ボタンをタップした。

 それから、松本さんに、松本さんの携帯を返した。

 


 松本さんは、吉川さんと通話中の自分の携帯を渡された。吉川さんが、家の中に引っ込んでしまう。松本さんは縁側に1人置き去りにされた。

 


 携帯電話を見ながら松本さんが言う。

 「なに? どうしろって言うの?」

 意味が飲み込めない。

 

 

 仕方なく、松本さんは携帯を耳に当てた。吉川さんの声が、松本さんの携帯からした。松本さんは、携帯に耳を押し当てて聞く。


 

 吉川さんが電話越しに言う。

 「謎々の答えに、気付いてくれてありがとう」

 


 松本さんは、その言葉に、いつもの松本さんに戻されてしまう。さっきまでは気合いを入れて、めちゃ頑張っていたのだ。

 

 松本さんが携帯に向かって、もじもじしながら言う。

 

 「分かり辛いっていうんだよぅ。友だちと知り合いならライン教えないって……。もうさぁ、謎々なんて止めてくれよ。本当に、気が付かないところだったんだから。知り合いや友だちじゃなくて、恋人になるなら、ラインでや電話番号を、教えるって事だったんだろう?」

 

 吉川さんが電話越しに言う。

 「うん、そう。私は松本さんと、友だちなんてなれないもの。だって友だちじゃ、全然足らないの。松本さんが、大好きだから!」


 松本さんは吉川さんの言葉に興奮した。

 松本さんが縁側から、家の中に入っていく。

 もう電話では、駄目だった。

 松本さんは、吉川さんの実物に会いたかった。


 

 吉川さんを探す。

 キッチン、廊下、そして風呂場。

 それから、階段を上がって行く。

 

  階段を上がる。

 そして、松本さんは熊さんの部屋を見る。

 「なにもない……」

 すると、松本さんの背中側から、吉川さんの声がした。

 「熊さんは、今日、出て行ったよ」


 

 松本さんが、振り返る。

 「吉川さん、急にいなくならないでよ」

 松本さんが、オロオロしながら、吉川さんを抱きしめる。


 

 吉川さんが顔を真っ赤にして言う。

 「面と向かってだと、恥ずかしくってェ」

 

 松本さんは、今、心底ホッとしていた。

 「気付けて良かったよぅ。マジ、ヤバかったぁ。凄い謎々だった。僕は、てっきり高収入で高学歴の男と、吉川さんが付き合いたいんだと思っていたから……。僕なんかじゃ、吉川さんは、付き合ってくれないと思っていたから……。それでも僕は吉川さんが好きで、吉川さんの周りを、婚活アプリの相談を理由にして、グルグルして……」


 吉川さんがニッと笑った。

 「私は、松本さんは、癒し系が好きかと思っていたから。私なんかタイプじゃないと思っていたから」


 

 松本さんが言う。

 「僕には、吉川さんが、癒し系だよ」


 

 それから松本さんは思い出したように言う。

 「暴漢から救った日の約束を、吉川さんは覚えてる? 僕のお願いを聞いてくれるって。僕、熊さんの部屋に越して来ていい? 」

 吉川さんが言う。

 「覚えているよ。何時でも良いよ。引っ越してきて」


 「もう僕は、吉川さんと1秒だって離れていたくない。だって吉川さんは、危なすぎる」

 吉川さんが言い淀みながら、言う。

 「危ないかァ。そうかな? でも……、松本さんが側にいてくれたら、私も嬉しい。私、松本さんといると……。すごく安心するみたい」

 松本さんが言う。

 「知っているよ。吉川さんが、いつも片意地張っているの」

 

 吉川さんがニヤッて笑った。

 「知っていたの?」

 松本さんは、ニヤッて笑われて、オロオロする。

 「それは、そのぉ……ぅ」

 

 吉川さんが、何時になく真剣な顔して言う。

 「私はね。松本さんが、頼りになることを知っているよ」

 

 吉川さんの言葉に、松本さんは脳を揺さぶられた。

 それで、抱いている吉川さんを、更にギュッと抱きしめた。

 抱きしめられて、吉川さんが、おもむろに言う。

 

「あいしてる」

 松本さんも言う。

「僕もあいしてる」

 松本さんが吉川さんの目を見つめる。

 


 「僕はずっと言いたかったんだ」

 

 

 松本さんは一呼吸する。

 そして言う。

 


 「僕は吉川さんをあいしてる」


 

 そして2人微笑み合う。

 松本さんが言う。

「やっと言えた。吉川さんをあいしてる。吉川さんがいない場所で、僕は幸せになれないんだ。もう僕を追い払わないで」

 吉川さんが頷いて言う。

「追い払ったりしないよ。私は、ずっと松本さんを待っていたんだから」


 

 ――君のいる場所が、僕のいる場所――

 ――僕は君を、あいしてる――


 

 ――僕はずっと言いたかった言葉を言う――

「僕は、吉川さんをあいしてる」

 

 吉川さんが、松本さんの腕の中で、小さく「うん」って言った。

 


 ――僕は君に、愛を送りたい――

 ――友だちにはなれないと言った君を、僕は今日、恋人にした――

 


 ――僕は言う――

 「あいしてる」


 ――君が僕のしあわせ――

 

 

 ――――――――――第1章・fin――――――――――――


 2章に続く。

 

明日から2部です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ