君は僕を追い払う
旅行を終える時が来た。
吉川さんの家の前で、松本さんが車を停めた。
車から降りた吉川さんが言う。
「ありがとう」
「何? 何にありがとうなの?」
吉川さんが言う。
「山岡ちゃんに優しくしてくれて。暴漢から助けてくれて。旅行まで連れて来てくれて。色々感謝しているんだ」
「うん」
「でも、この曖昧な関係も、今日で終わりにしようと思って。だって、私……、松本さんには幸せになって欲しいから」
「うん」
「アプリの女の子と幸せになって欲しいと思うんだ。それには、私の存在は良くないと思うよ」
「本当にそう思っているの?」
――僕の幸せって、君といることだよ――
「そうだよ。このままだと私は、アプリの女の子にとって、松本さんの浮気相手にしか見えないよ。私は浮気相手になりたくないよ」
「だったら友だちになればいいじゃないですか?」
――友達でいいから。僕は君と一緒にいたいのに――
――君が僕を追い払う――
「でも……。私たち、何もなかったみたいに、友達になれると思う? 私は……無理みたい。松本さんとは友達になれないな」
2人に間に少しの間、無言になる。
そして、吉川さんが、面目な顔で、話始める。
「アプリの、可愛い子と、幸せになってね」
松本さんは、吉川さんに聞いた。
「僕は幸せになれるかな?」
――僕は君のいない場所で、幸せになれるかな?――
「なれるよ。松本さんは良い人だから」
――君は僕を良い人って言うのに、君は僕を友達にさえしてくれないんだね――
「いつ女の子に告るの?」
「まだ決めてないよ。上手く行くかも分かんないし」
「上手く行くよ。早くしなよ。女の子が告白を待っているよ」
――君が僕に、早く告れって言うのは、君が僕と早く関係を終わりにしたいって事なのかな?――
――本当は、僕は、アプリの子には、告白したくないのに――
――君が告れって言うなら、僕は告るしかないのかな――
「分かった。そうするよ」
「うん」
――君は高学歴・高収入の優しい彼が欲しいんだ。年収が、アプリの男と比べて、平均スレスレで。顔と体だけがタイプの僕は、君にとって、いっときの遊びなんだろうな――
「吉川さんも上手くいくといいね。アプリの男の人とさ」
「そうだね。お互い幸せになれるといいね」
――僕も割り切って、この気持ちを終わりにしよう――
――きっと後腐れなく、僕との関係を解消したいから、君は僕にラインさえも教えてくれないんだ――
――なにもなかったみたいに、終わりにしよう――
――だってそれを君の望みだから――
松本さんは言う。
「じゃ、さよなら」
「うん、バイバイ」
吉川さんが僕に手を振った。
――もう、僕は君の周りを彷徨けないんだ――
松本さんは車のアクセルを踏む。
バックミラーの吉川さんがどんどん小さくなって行く。
松本さんがひとり言う。
「吉川さんが好きだ。吉川さんが好きだ。僕は君に、あいしてるって、言いたいんだ」
――僕は君に伝えたい。君のことが好きだって――
――本当は、戻って君を抱きしめたい――
松本さんは思う。
――でも――
――それを君が望んでいない――
――僕は君が望んでいない事はできない――
松本さんは、”それでも”と思う。
――気になっている事がある――
――君の謎々だ――
――あの答えは、なんだったんだろう?――




