湯河原旅行に行ってみた
朝早くに、松本さんが、吉川邸に、車で迎えに来た。
松本さんは、まず高速に乗って、東京を抜けると、神奈川で高速を降りた。
国道1号線を、南に向かって走らせた。
吉川さんが、眩しそうに海を見る。
「海が綺麗だね」
「そうですね。1号線沿いは海がずっと見えるんで、ここは外せないなって思ったんです。途中、小田原で、炭火で干物を焼く店に寄りましょう」
「え、そんなのあるの?」
松本さんが笑顔になる。
「ええ、あります。行きましょう」
吉川さんが話題を変える。
「その後、アプリの女の子とは、どうなったの?」
松本さんが、ちょっと顔をしかめた。
「1人目に会った女の子は、2度目でお断りされました」
吉川さんが気の毒そうに松本さん見た。
「何と言って、断られたの?」
「男に見えないそうです」
吉川さんが憂い顔で松本さんを見た。
松本さんが、事務的に言う。
「2人目は1度会って、ブロックされました」
「何をしたの?」
「分かんないです……」
「うーん」
松本さんが更に、報告を続ける。
「それから今の子が、既に……、2度、会ったんで……。次に会った時は、告白ですかね」
「そうなんだぁ。3度会ったら告白するって、ネットには書いてあるよねぇ。それって本当なの?」
「僕もそう思って同僚に聞いたんです。どうも、そうみたいですよ」
「へぇー、じゃ、私も次会ったら告られるんだなぁ。きっと」
松本さんの声が、ちょっと高くなる。
「吉川さんも、3度目会うの決まったんですか?」
「そうだよ。是非会いたいって言われてさぁ」
「告られたら、付き合うんですか?」
「そうしようかなって、思っているよ」
「相手の男性の、何処が良かったんです?」
「うーん。顔や体も、全く好みじゃないけど。男として好きまで行かないけど。好きな部分あるし。そのうち好きに成れるかなって感じ。年収も高いし、転勤もないし。優しくて、温厚な人だから、良いかなって」
松本さんが不満顔で聞く。
「吉川さんは、好きじゃない男でも。年収が良くて、温厚な人なら、付き合えるんですか?」
「まぁ。この年だしさぁ。贅沢が言えないじゃん? それに、1000人もイイねされても、好みの男がいなかったんだよ。きっともういないんだよ。そんな男はさぁ。幻想だと思う。だったら条件で妥協するしかないじゃん?」
松本さんは、結局最後は、吉川さんは、男を条件で選ぶのかと思う。
「そうですけど……」
吉川さんに、話を振られた。
「そっちはどうなの? アプリの女の子は、可愛い子なの? タイプなの?」
「ボチボチ好みです。中身が良いって言うか。笑顔が優しいって言うか」
「あ――――。私はそれがないからなぁ。癒し系かぁ。その子のこと好きなんだぁ?」
相手の子は、悪くはないと、松本さんは思う。
多分、好みのタイプだ。
「ええ、まぁ。たぶん……」
吉川さんが言う。
「良いなぁ。その女の子は、24歳だっけ?」
「そうです」
「そうだよね。やっぱり若い女の子が、男は好きなんだよね?」
「たぶん」
「優しいの?」
「恐らく……」
「そっぁ……。私にはないものばかりだわ」
松本さんは、これ以上、自分の話をしたくなかった。
だから話を切り替えた。
「そろそろ寺に着きますよ」
吉川さんは、全く行き先を分かっていない。
「え? 寺によるの?」
流石に松本さんが焦れて言う。
「もう、言ったでしょう? 鎌倉で寺によって、近くの甘味屋で甘いもの食べるって。いつも話を聞いてないんだからぁ。だからラインを教えてくださいよ。吉川さんのラインを知っていれば、行き先とかラインに流したのに」
吉川さんは仏頂面をした。
「やだよ。教えない。謎々が解けないんだからさぁ」
「謎々ですか? 僕はあれから考えてみたんですが、解けないんです」
「まぁ。謎々だけど。もうすぐ松本くんは、他の女の彼氏になるんだよ。その子に悪いじゃん。私たちの関係も、この旅行が終わったら、終わりだよ」
松本さんが、押し黙った。
押し黙ったまま、駐車場に車は止められた。
押し黙った松本さんは、もう喋ることを忘れてしまったくらいに、喋らない。
二人は、車を降りて、看板を頼りに寺へ向かった。




