永遠に女の子
熊さんと華ちゃんに、北海道に行かれてしまって。
吉川さんは、一人で過ごす時間が辛すぎて、産休中の山岡ちゃんのマンションに、しばらく泊まらせて貰うことにした。
それに、店帰りに、暴漢に襲われたのも、まだショックだった。
傷心の吉川さんが、山岡さんのマンションに行くと、赤ちゃんがいなかった。
「赤ちゃんは何処に行ったの?」
「旦那の家に、3日ほど行ったきりだよ」
「3日も? 母親不在で、赤ちゃんだけ、旦那の家に行ったの?」
「そうなんだよ。私さぁ。もう、駄目かも知れない」
「え? この話の流れからすると、結婚生活って事?」
「うん、そうなんだ」
予想を越えた話に、吉川さんは動揺した。
「え?そんな、なんで? 子供が産まれたばかりじゃない?」
山岡ちゃんは思い詰めた様に言う。
「旦那は、マザコンだと思う。たぶん」
「マザコンって、何でそう思うの?」
「旦那の行動が妙なんだよ。子供だけ、実家に連れて帰って、しばらくすると、私の所に子供を置きに来るけど。旦那はさぁ、すぐ実家にトンボ帰りするんだよ。多分私は、子供を作るのに、利用されたんだと思う」
「それで、どうするの? 別れるの? すんなり親権くれるかなぁ?」
山岡ちゃんが今後の方針を言う。
「だからさ、このままで行こうかと思っているんだ」
「そりゃまた何で?」
山岡ちゃんがキッパリという。
「別居婚が続けられるからだよ。別居して。子供も育てられて。仕事も続けられるなら。もうこのままで良いかと思って。私は仕事がすごく大事だから」
山岡ちゃんは、夫との件は、すでに割り切ってしまった様子だった。
吉川さんもそれには納得した。
「山岡ちゃんは、バリキャリだからね。高校時代は優等生で、大学は一流大だし。芯も強いし、ブレないし」
それでも、吉川さんが心配して聞く。
「でも、旦那さんとは、もう愛はない関係なんだよね? それなのに夫婦を続けても良いの?」
山岡ちゃんが答える。
「旦那とは、子育てする仲間だと思えば良いと思って。もう旦那とセックスは出来ないと思う。男として嫌い。エッチするのは無理だぁ。どう思う?」
吉川さんには、高度な質問だった。
「あ、あ、ぁ、ぁ……。難しい事言うね。私には難問過ぎて、判断できないよ」
山岡ちゃんは、疲れた顔で言う。
「だよね。一般的じゃないよね」
「夫婦の形は、色々だから。お互いに同意しているなら、良いんじゃないかな」
「私が望む形に、同意してはくれないと思う。今度は、跡取りが欲しいって言っているから」
「二人目問題かぁ。エッチしないと子供が出来ないもんね」
山岡ちゃんが話題を変える。
「しかし、華ちゃんと2週間も、あの熊さんが旅行かぁ。仕事中毒の人なのに。すごいな」
「そうでしょう?」
山岡ちゃんが吉川さんを気遣う。
「なんかそう言うの辛いね。大丈夫?」
「何が?」
山岡ちゃんが話の確信に触れた。
「華ちゃんと旅行に行く事で、ショックを受けるんだもの。まだ熊さんが、好きなんでしょう?」
吉川さんは正直な気持ちを言う。
「好きは終わったみたい。ただ、付き合っていた時の扱いに、差をつけられてイヤになっただけ」
「そうなんだ。何? 何? 心はすっかり松本さんなの?」
吉川さんが困った顔をする。
しかし山岡ちゃんは聞くのをやめない。
「ねぇ、松本さんとはあれからどうなったの?」
「そろそろ松本さんは、アプリの女の子と付き合うだろうから。私との関わりも終わりだよ」
アプリと吉川さんに、何の因果関係があるのかと、山岡ちゃんは思う。
「どうして?」
「そもそも、松本さんの婚活アプリが上手く行かないから、私が相談に乗ってあげているだけで。松本さんに彼女が出来たら、ミッション終了だもん」
「そう言う関係だったの?」
「そそ」
「私は、山本さんの好きなタイプじゃないからさ。平川だって、私が女に見えないって言うし。たまにそう言う扱い受けるから。私って男の仲間になりやすいポ」
山岡ちゃんが慰めてくれる。
「吉川ちゃんは、ちゃんと可愛い女の子だよ!」
吉川さんが聞く。
「ありがとう。でも、私はもうすぐ30だけど、女の子でいいの?」
山岡ちゃんが答えた。
「ダメかな?」
吉川さんがニンマリ笑って言う。
「ダメじゃないね」
「うん、だよね。私たち永遠に女の子だよ」
2人笑う。
その次の日に、赤ちゃんは、山岡ちゃんの元に戻って来た。




