第二話 国語教師 芽吹
不慣れなのでお見苦しいところが多いかとは思いますがご容赦ください
「最悪だ」
7限が終わり足早に帰路に就こうとしたのだが芽吹先生に雑用を頼まれてしまい気付けば時刻は20時。
断ればよかったな……いやでもあれは卑怯だろう。
チャイムと同時に教室を出た俺に、生徒にも人気で可愛くて、それでいてどこか品のある声がかかる。
「あ、君下君~ちょっとお願いしてもいいかな?」
芸術的な上目遣いだ。
「何ですか、芽吹先生。俺も忙しいのでそんなに時間は取れませんよ」
ちなみに全く忙しくない。
「忙しいって何か予定あるの? 部活とか?」
こてんと首をかしげるだけでもかなり様になっている。こんなんズルだろ。
「あー、いや、家庭の」「どうせ暇でしょ?」
食い気味に来やがった。
「決めつけはどうかと思いますよ、俺だって忙しくて家に全く帰らない両親の代わりに妹の世話してるかもしれないじゃないですか」
「あなたがあの優秀な君下玲ちゃんの世話を?」
「あ、いやその」
「そうなんだ~意外かも、後で玲ちゃんに聞いとくね」
「是非手伝わせてください、前から芽吹先生の手伝いがしたくて学校きてたとこあるんで」
妹にばらされたらまずい。てか何? 先生て生徒の兄弟関係も知ってんのか
よ。怖いんだけど。
ビビりながら芽吹先生を見る。目が合うとにこっと笑顔を見せてくれた。あまりにも魅力的な、まるで作り物のように綺麗な笑顔だった。その美しさに見とれていると——
「えぇ~ほんと! ありがと! 玲人君」
いつの間にか耳元に先生の唇が、耳元に。囁かれるように名前を呼ばれた。
てか、今下の名前⁉
「じゃ、この資料の通りにお願いね?」
最後にまた100点満点のウインクをして芽吹先生は去っていった。
俺は今どんな間抜けな顔をしているだろうか。先生の足音が廊下に響く。
仕事ができる人の特徴って奴だろうか、少し早めのそれを追い越すように——心臓が痛いほどに強く、早く脈打っていた。