第1話 序章
平和だ。これ以上ないくらいに。スゲー天気いいし、風気持ちいし。登校中の高校生の元気な声も聞こえてくる。 まあ夏休み前だしな。あと数週間と思えば学校だってまあそこまで嫌でも嫌だ行きたくない。普通にさぼりたい。どんなに良い事が待っているとしても目の前の憂鬱には勝てないんだよなぁ。
「おはよ、どうした君下。朝から随分陰気じゃないか、元気だせよ」
そういって肩を軽く叩いてくるのは俺の幼馴染の鳴上宗谷だ。
特徴としては顔がいい、スタイルがいい、頭がいいという不条理の塊みたいなやつだ。
なんの障害もなく真っすぐ育ったのだろう性格もスゲーいい。勿論モテる。
「まあな。鳴上と違って悩み事が尽きねーからな」
「おいおい、俺だってそんなに楽に生きてるわけじゃないんだけどな」
そういって鳴上は肩をすくめ、微笑を浮かべる。
何やらしても様になって腹立たしいです。
鳴上とりとめのない会話をしながら自分たちのクラスに足を運ぶ。宿題やっただとか、モンハンの新作の話だとか。そんななかで一つ、聞きなれない話題が出た。
「そういえばさ、最近うちの生徒が行方不明になってるらしいね」
「まじ? 事件の予感だなぁ」
「既に五人以上神隠しにあってるらしいよ」
「おーやばいなー」
「反応薄いな、他人事だと思ってるだろ」
「いやまあな。なんとなくわかんだよ、俺はこういうの回避できるタイプだから」
「また適当だな君下は」
鳴上はまた爽やかに笑う。周りの女生徒の目がもう…
まぁ、気を付けなよ。そう言って鳴上は自分の席に行く。気付けばもうチャイムが鳴っていた。
「じゃあ今日も、元気よくいこっか!」
一限の現国の女教師、芽吹先生が教卓に立つ。
なんでも去年大学を卒業したばかりの若い先生で、生徒とも近い距離で明るく接するので非常に人気のある先生だ。顔も可愛いし、愛嬌のある大きな目に、綺麗な幅の二重、その瞳は綺麗な黒色だ。タイツに包まれているその足もスラっとキレイでついつい目が行ってしまう。薄めの茶髪を雑に束ねただけのポニーテールも様になっている。
「芽吹ちゃん先生おはよー、今日も可愛いね、あ、そういえば今日俺弁当にお高いイクラ入ってるんだけど昼飯どっすか?」
クラスメイトの須藤健吾が今日もダルがらみしている。
須藤はクラスでも一等明るくてユーモアのある人間だ。バスケ部で鳴上とも仲がいい。伸ばした髪はアイロンでセットしているのだろう、適度に整えられていて不潔感はない。当然クラス内でのカーストは高い。その証拠に教室内は笑いに包まれている。
「須藤ばかだなぁ」
「おい芽吹ちゃんこまってんだろうが」
「ちょっと須藤やめなよ~」
仲の良いクラスだと思う。
そりゃ勿論、目に見えに序列のようなものはあるが、いじめだとかそのたぐいのものは見たことがない。
俺も中間的なポジションで気ままに過ごさせてもらっている。
「ごめんね須藤君。私、身長180後半のイケメンで年収1000万越えの人じゃないとご飯一緒できない病気なの」
芽吹先生が冗談めかしてウインクなんかして答える。
えぇーそりゃねぇよーとほほーとか何とか言って今日もいつも通りに授業が進んでいく。 10年後とかにはこの日常もかけがえのない青春の思い出になるのだろうか。
ふと外に目をやる。
今朝は月がまだ空に残っているようでほのかにその輪郭が見えた。
なんか、何時もより色が濃いようなきがするな……ま、気のせいか。寝よう。
芽吹先生は寝てても注意してこないし個人的にはいい先生だと思う。
開けた窓から風が吹く。カーテンがたなびく様が風流だなぁとか適当なこと考えながら腕を組み机に突っ伏す。
瞼を下す。暗闇につつまれると次第に心地よくなってきた。
今も芽吹先生が生徒の冗談をうまくかわしながら授業を進めている。教師も大変だなぁ。とかそんなことを考えている内に、徐々に睡魔に導かれ、眠りについた。