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日記

七宝ちゃんの名古屋日記!

作者: 七宝

 日記と言いましたが、ちょっとズルしてます。実はこの日記の内容は2日間の内容なのですが、それをあたかも1日であるかのように書き連ねています。


 でもまぁ、面白いんで読んでってください。のんびり楽しめる平和な日記です。

 今日はお仕事。オフィスに2時間半ほど早く着いたので1人で踊りながら待っていると、しばらくして先輩(アニキ)が来た。


七宝(しっぽ)さん、1杯行きますか!」


「いいっすね!」


 そんな会話を交わし、私たちはオフィスを出た。好きな標識の話なんかをしながらしばらく歩いた。

 ちなみに私は最高速度の標識だ。シンプルで分かりやすくて大変よろしい。先輩は「無い」とのことだった。お前から話振ってきたんだろ。なんなんだお前、怖すぎるだろ。


 そんなこんなで喫茶店到着。ふと駐輪場に目をやると⋯⋯


  挿絵(By みてみん)


 アヒルのクラクション!?




 名古屋と言えばモーニング。モーニングといえば名古屋。名古屋の喫茶店は平日でも激混みである。


 例によってここも混んでいたが、なんとか奥の方の席に座ることが出来た。

 アニキはコーヒー。モーニングは小倉トースト。私はホットミルクティーで、モーニングはフレンチトースト。


 この混みのせいか、かなり待ち時間があったので、私たちはおしぼりで折り紙対決をして遊んだ。


 10分経っても来ない。うんこがしたくなってきた。


「アニキ、ここって洋式ですか?」


 多数派だと思うが、私は和式より洋式派である。和式は嫌いだが、どうしてもの時はする。ズボンやパンツが汚れそうで怖いので、和式の時、私はいつも下は全部脱いでいた。

 朝からそんなことをするのは嫌なので、今日は名古屋のことに詳しいアニキにあらかじめ確認をするのだ。


「洋式ですよ」


 アニキは歳上で先輩で、4ヶ月以上一緒にいるのにもかかわらず、なぜか敬語だ。


「行ってきます!」


 私はウキウキで席を立った。けっこう古い感じの喫茶店だったので、正直2割くらいしか期待していなかったのだ。まさか洋式に出会えるとは。


 トイレに着くと、誰かが入っていた。さっきのウキウキのせいでちょっと尻が緩んでしまったが、まだ数分は我慢出来そうだ。


 ここで「なぜオフィスで踊っている間にうんこをしなかったのか」という疑問が出てくるが、あそこは和式なのだ。だから極力避けたいのだ。


 頭の中でちょうど50匹目のヒツジを数えたところで水を流す音が聞こえた。


 中からはガリガリにやせ細った、青白い顔をした老人が出てきた。こちらをまじまじと見ながら、手を洗わずに去っていった。恐らく霊だろう。


 しかし、今の私は霊など気にしている暇はない。一刻も早くうんこをせねば!


 個室に入ると、そこには段差のあるタイプの和式トイレがあった。


 殺す!!!!!!!


 便器を見た瞬間、私は心の中で叫んだ。アニキにはいつも世話になっているが、さすがにこの仕打ちは許せない。死刑でも生ぬるいと思った。


 壁を見てみると、プラスチックの便座が引っ掛けてあるのに気がついた。和式便器の上に置いて、その上に座ってするというものだ。段差があるタイプだからこそ出来ることだろう。


 私は迷わずそれを使用した。スーツで和式を使うのは嫌すぎるからだ。


 パカッとハマってくれるかと思ったら全然ハマらない、どころかありえないくらいグラグラだった。

 いつまでもこうしていても仕方がないので、私はその不安定な仮初(かりそめ)の便座に腰を下ろした。


 ヒンヤリ。


 段差がちっちゃ過ぎて逆にしにくい! 落ち着かない! 縁石(えんせき)と同じくらいの段差なんだけど!


 でもま、良いですわ。今更引っ込まんし。ぶりぶりぶり。


 紙⋯⋯紙⋯⋯


 ない。


 周りを見渡すと、紙は真後ろにあった。そうか、普通に和式を使ったらそっちが前だもんな。


 真後ろかぁ⋯⋯


 ギリギリ⋯⋯届⋯⋯く!!!!!


 ギリギリ届いたけど、切れない。仕方がないのでロールごと取って使った。でも和式だから尻と水面との距離が近すぎて上手く出来ない! 仕方がないので中腰になって拭いた。席に戻ったらアニキをぶっ殺してやろうと思った。


 手を洗って席に戻ると、アニキの向こう側の4人がけの席のグループが変わっていた。

 ちょうど目線の先に女性がいるのだが、この人がめちゃくちゃ美人! とんでもないレベルの美人だった!


 アニキとは互い違いに座っていたので、すぐに目が合ってしまった。すると、女性が微笑んだ。


 はうっ!


 ハートを射止められてしまった。この人誰? 女優? 綺麗すぎない? なんなのこの人。


「で、私が死んだらさぁ〜」


 でもこの人、連れと「死」の話ばっかしてるんだよね。マジでなんなのこの人。


 4回目の「死」が聞こえてきた頃に飲み物とモーニングが届いた。


 ミルクティー、フレンチトースト(シナモンシュガー&ホイップ)、刻んだトマトが乗ったサラダ、茶碗蒸し、豆とあられのちっちゃいお菓子、これで450円よ。みんな名古屋おいで。


 食べてる時も何回も「死」の美女と目が合った。その度に彼女は笑顔を見せてくれた。やっぱり女優なのか? じゃなきゃ目が合う度にニッコリなんてしてくれないよね? 誰だったんだろう。


 本当はアニキをぶっ殺してやろうと思っていたのだが、さすがに絶世の美女の目の前で人を殺害するのは気が引けたのでやめた。


 会社への帰り道は好きな歌手の話をしながら帰った。ちなみにアニキは歌手をほとんど知らないらしい。浜崎あゆみも華原朋美も知らないと言っていた。


 ここからはただ仕事で歩き回ってただけなんで、昼ごはんまでスキップします。


 先輩と2人ですき家に来た。今月何回目なんだって感じだが、好きなので仕方がない。


 アニキはニンニクなんちゃら牛丼の特盛、豚汁たまごセットだった。ニンニクて⋯⋯我々営業回りしてるんですけどね⋯⋯


 私は牛丼特盛豚汁サラダセット。正直私はおかずは少ない方がいいのだが、人の金なので特盛にさせていただいた。


 最近気がついたことなのだが、牛丼にはあのビンク色の甘辛い植物がものすごく合う。びっくりするくらい合う。どこの店舗にも各テーブルに置いてあるので自由に使ってくれ。


 例によって紅しょうがの入れ物を上から掴み、自分のところに持ってくる。手に冷たさを感じたので見てみると、濡れていた。


 くんくん。


 無臭。怖かった。普通、紅しょうがの入れ物を触った時に手が濡れた場合、その水分は紅しょうがの汁でなくてはならない。

 しかし今回はその限りではなかった。これが何を意味するか、それは⋯⋯


 水と深く関係しているものといえば何を思い浮かべるだろうか。ポッチャマ? ゼニガメ? カイオーガ? いや、違う。霊だ。


 この紅しょうが()れについていた水分は十中八九、霊によるものだろう。

 私には思い当たる節があった。朝の喫茶店で私の前にトイレに入っていた霊である。


 恐らく彼はあのトイレで最期を迎え、地縛霊となった。しかし、ちょうどその場にアニキに対して強い怨みを持った私がいたため、私に取り憑くことが出来たのだろう。


 そして、私に憑依していた霊も紅しょうがを入れたくて先に容器に触っていた。だから水分がついていた。そうとしか考えられないのである。知らんけど。


 食べ終わって外に出ると、アニキの口から良い匂いがした。ニンニクだ。私は好きだからいいけど、お客さんビックリするぞ。


 なんかそうめんの匂いがする。麺の方。こんな時期に⋯⋯余ったんかなぁ。

 あ、分かった! 神様がそうめん食べてたんだ。この雨はその茹で汁なんだな!


 と思ったけど今日1回も雨降ってないわ。なんなんだろ、このそうめん臭。


 あ、いきなりスイカの味がした! なんも食べてないのにスイカの味が口いっぱいに!


 でも皮に近いとこの味だなぁ。


「七宝さん、小腹空きません?」


「いえあ!」


 ということで我々はまた喫茶店に入った。今度はかの有名なコメダ珈琲だ。アニキの奢りなので食べたことないやつ頼みまくろう。


「海老カツパンとビーフシチューで!」


 と私が頼むと、アニキの目玉が飛び出していた。


「アメリカンで」


 アニキはアメリカンを頼んでいた。メニューにそんなのあった? ていうか小腹空いたんじゃなかったの? なんか食べ物頼めよ。


 隣のグループから「患者さん」「執刀」「先生」「主任」などの単語が聞こえた。先生と看護師かな。かっけー。


 向こうの客が「特効薬」がなんちゃらって言ってる。なんなのこの地域、やば。


 あ! あのジジイ1人で4人がけの席行った! 我々2人で2人がけなのに! ずるいぞおい! おい! なにが「いつもの」だ! 死ねぇーーー!! ハゲが!!!


 コーヒーが運ばれてきた。もう夕方なので豪華なオマケはついてこない。豆菓子だけだ。

 そういえば私飲み物頼んでなかったな。まぁ水あるしいいか。


 ビーフシチューと海老カツパンが来た。海老カツパンくそデカいんですけど。


「半分こしますか?」


「そうですね」


 アニキはこうなることを知っていて何も頼まなかったんだな。ビーフシチューもバゲットが2個ついていたので、アニキと1個ずつ食べた。めっちゃ仲良しだね。


 ビーフシチュー美味しそう。ていうかビーフシチュー外で食べるの初めてかも。これだけで1200円超えだもんなぁ。奢りじゃなきゃ絶対に頼まないよね。


 真ん中にポテトサラダがあったので、少しスプーンですくって、チーズつけて、ビーフシチューつけて、いただきまー⋯⋯あっつ!


 ベロが! ベロがあああ! 火傷しました。


 あ! アニキの肩にち○毛ついてる(´;ω;`)昼間からずっとつけてたのか。


 可哀想だから黙っとこ。


 火傷したけどビーフシチュー美味しかった! 海老カツパンも美味しかったよ! くそデカいから1人で食べようとは思わないけど! ちなみに食べ物だけで2000円超えてたよ! やべー!


 コメダから出てしばらく歩いたところで転びました。膝痛い。折れてはいないな。回転しながら歩くのはよくないか⋯⋯


 後ろを歩いているアニキと喋るために後ろ向いたり前確認したりを繰り返していたらクルクルになって転んだのだ。

 前向き→後ろ歩き→そのままの回転方向で前向きに戻る、という感じだ。後ろの人と話す時によくやると思う。


 あ!


「道でジャイアントスイングすな!」


「すみません」


 つい怒鳴ってしまった。でも邪魔だったんだよね。子どもと遊んでるところごめんね。

 というようなことがいろいろあって、20時に退勤した。アニキと別れ、10分ほど歩いて名古屋駅に戻る。


 ハロウィンなのにボインボインがいない。アーニャが1人いるだけだ。名古屋駅ではやらないのだろうか。(栄駅がすごかったらしい)


 岐阜方面の電車が来るホームで待っていると、鬼のフドウそっくりなおじさんに話しかけられた。


 北斗の拳に山のフドウという熊のような優しいおじさんが出てくるのだが、実はこの男、昔は相当な悪だったのだ。その頃彼は鬼のフドウと呼ばれており、あのラオウですら恐怖していたほどだった。


 そんな鬼のフドウが実在していた! 山と鬼で顔つきが違うのだが、この人は完全に鬼の顔だった。


「ここ大垣行きの電車ですよね。あの、大垣って何県ですか?」


 この辺の人じゃないんだな、と思った。


「岐阜ですよ」


 優しく答えてあげた。


「じゃあ僕お兄さんの後ろに並べばいいですね」


「いやそれは分かんないです」


「えっ」


「えっ」


 岐阜方面でいいのか?


「どちらまで行かれるんですか?」


 私は優しい人間なので、相手が鬼のフドウだろうがラオウだろうがちゃんと解決してあげるのだ。


「一宮駅です」


「僕と一緒ですね」


「あー良かったぁ」


 面白い人だなぁ。


 おじさんは私の後ろに並んだ。鼻息がすごかった。なぜかバリエーションも豊富だった。


 しばらく待っていると、電車が来た。いつものことだが、満員電車は気が滅入る。


 一宮駅で降りると、おじさんが改めてお礼を言ってきた。何回も言わなくていいのに。しっかりした人なんだなぁ。


 と思ったところで右足の裏に違和感。何か刺さってる気がする。私はすぐに靴を脱ぎ、靴の中を確認した。


「んー⋯⋯」


 振り返ると、なぜかおじさんも一緒になって私の靴の中を見ていた。


「『痛っ』って聞こえたんで。トゲですかね?」


「あの、大丈夫ですから!」


「でも、恩返しが⋯⋯」


「いいですって! くさいから!」


「くさくないですって!」


 くさいんだよ! はよ帰れよ! なんなんだお前!


 とりあえず帰るだけ帰ってもらおう。


「あー! ありました! ありがとうございました!」


「あ、良かったです! それでは」


 おじさんは頭を下げて去っていった。おじさんが完全に見えなくなった頃に私はまた靴を脱ぎ、トゲを探した。


 畳みたいなのが入っていた。痛かった。


 1日中歩いていたのでお腹が減っていた私は、駅の近くのラーメン屋に行くことにした。


「胃、大学生やん」


 と思ったことだろう。そう、私はほとんど大学生みたいなものなのだ。元気元気のスーパー元気、マッスルマッスルモンポッポなのだ。


 ラーメン屋に入り、席に着く。初めての店だが、豚骨ラーメンが美味しいことで有名なので怖くはなかった。


 ただ、豚骨ラーメンもいいけど、メニュー表にあるつけ麺が目に入ってしまった。美味しそう。大盛り無料だって。こんな夜中に、5時間くらい前に海老カツパン食べたのに⋯⋯いいさ! このあと歩いて帰ればええんや!


 ということで大盛りにした。唐揚げも美味そうだったので頼んだ。


 店員さんが母と同じ名前だった。なんで分かったかというと、その店の人の名札が全員下の名前だったからだ。なんでだろね。


 唐揚げが先に来た。手羽先のタレの薄いバージョンみたいな液体がかかっており、匂いもいい。これは期待できるな⋯⋯あっ。


 衣キモっ。


 え、なにこれ。


 衣キモっ。


 今まで生きてきて初めての感想だった。油物を食べ過ぎて気持ち悪くなることはあったが、衣自体がキモいのは初めての経験だった。


 なにこの食感。サクッでもパリッでもベチョッでもない。なんだろう、「メショ」って感じ? なんか硬いふりしてるんだけど、1ミリも抵抗してこないというか、風味もキモい。なんなんだお前。


 つけ麺も来た。めっちゃ多い。食べれるかな。


 とりあえず唐揚げがキモいので先に片付けることにした。お腹が膨れてからキモいものを食べると最悪な事態になるかもしれないからだ。


 2個にしといて良かった。


 次につけ麺! こっちは期待出来そうだぞ! ツルツル熱盛の麺! 真っ白なつけ汁!


 あ、冷盛にすればよかった。ていうか今まで熱盛頼んだことないんだよな。熱いかな⋯⋯熱っ。汁だけちょっと飲もうかな。


 くんくん。


 犬!?


 くんくん。


 犬だ! 動物園みたいな匂いがする!


 大丈夫大丈夫、豚骨は店によっては犬とか猫とかの臭いするから。いや、まぁ豚の臭いなんだろうけどさ。


 問題は味よ! 匂いも大事だけど、やっぱ味よ!


 ズズー⋯⋯


 犬!!!


 おい! 犬じゃねーか! ここの店は客に犬食わせんのか!!!!!!


 ちょっと待ってよ、マジで犬じゃん。ここまで犬の味する食べ物初めてだよ。

 どうしよう、大盛りにしちゃったんだけど。マジで友達の家の犬小屋の臭いなんだけど。


 麺と食べたらどうだろう⋯⋯


 ずぞー⋯⋯


 熱っ!


 んでベッチャベチャ! 茹ですぎだわ!


 あっ犬来た。やっぱ犬いるわ。


 はぁ⋯⋯


 ずぞー! ずぞー! ずぞぞぞぞぞぞ!


 犬ー! 犬すぎーっ! 犬犬犬犬犬!!


 ずもももも、ずも、ずもももももも!


 犬⋯⋯犬⋯⋯犬ぅ⋯⋯


 4分の1くらいしか減ってない。


 それから泣きながら犬を食べて、歩いて帰りました。

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