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高崎さんが演じたい役

 じめじめとした梅雨が明け、やけに日差しが強く感じる季節を迎えていた。

 俺はと言えば高崎さんのマネージャーをこなしながらアニメシナリオライターの勉強をこなし忙しい日々を送っている。


 高崎さんもレッスンやアフレコ、イベント等で俺よりも忙しそうにしていた。


 そんな中でも放課後やレッスンの合間を見つけては、息抜きを兼ね俺たちは買い物や映画館、アニメ作品とのコラボカフェなどにも出かけている。


 今日はアフレコ後にあすみたんも作中で通っている大型書店に来ていた。


「広瀬君、こっちのコーナー……」

「んっ?」


 高崎さんに袖を引かれやってきたのは、話題作が陳列されているスペース。

 そこにこれでもかと平済みされていたのは、俺と高崎さんの間で最近盛り上がっている『SPY×SISTER』だった。


 行方不明の姉を探しだすため、幼いながらもスパイになった宮原みやはら理世りよ、通称りよたん。姉の情報を探るため、姉が最後に目撃された学園へと転校し、怪しまれないよう学校生活を送る傍ら困っている人が居たら放っておくことが出来ず人助けもして姉の行方を捜している。


 イラストレーターさんの絵にBGMが付いた作品PVも流れていて、今アニメ化が期待されている作品ナンバーワンなのが、この『SPY×SISTER』(略称スパシス)だった。


 高崎さんはと言えばそのPVを目にして、なんだか頬が赤くなっている。

 瞬間的に止めた方がとも思ったが、彼女の表情が真剣で止めようとしても止められない。


「お姉ちゃんを絶対に探し出す」


 繰り返し流れているその映像を観ながら、声の入っていないヒロインのその台詞をどんぴしゃのタイミングで口にした高崎さん。

 全く違和感のない、胸に刺さるような声を目の当たりにして俺は胸が熱くなる。


 柚木の頭の中でのりよたんの声と完璧に一致した。


「お、おい、今のって……」

「プロの人……?」


 周りにいた人もその完成度に気づいたのだろう。

 いっせいに高崎さんに視線を向ける。

 騒ぎになってはと俺は彼女の手を取り足早にその場から離れていく。


「ぽ、ぽんこつでごめんなさい」

「い、いいから走ろう!」

「は、はいっ!」


 騒ぎになってはと、目についたカフェにひとまず避難することに。

 店内は年配の2人組とカップル風の男女がいた。

 どちらも話に夢中なようで、俺と高崎さんには気を留めている様子もない。


 席に着いた途端に、高崎さんは表のおすすめメニューに出ていたふわふわパンケーキが気になるようで、パンケーキの欄を凝視しながら摂取カロリーと格闘しているような感じだ。


「ううっ、ふわふわ、生クリームと苺も多い……」

「食べきれなかったら、俺が引き受けるよ」

「それじゃあ、私は、こ、これを……あと紅茶にしようかな」

「おっけー」


 どうにでもなれとでもいうような顔で、ふわふわパンケーキを指す高崎さんは思わず口元を緩めてしまうほどに、凄く魅力的にに映る。


「広瀬君……ごめんなさい。また私……ううっ」


 ウエイトレスさんを呼び、注文を終えると高崎さんは凄く申し訳なさそうに俯く。

 どうやらさっきのことを気にしているようだ。


「えっと、俺すぐ気づいたけど止められなかったんだよね。生の台詞をいう高崎さんを、その、見たかったんだと思う……」

「えっ、そうなの……?」

「うん、りよたん役やりたいってこと何度も聞いていたしさ」

「っ! は、恥ずかしい……」


 高崎さんは俺の言葉を受け、顔を真っ赤に染める。


 そうなんだ、常日頃から聞いていたこともあり、原作のラノベを読めば、りよたんの台詞は俺の中では神崎結奈で完全に脳内再生されている。

 他の声優さんは考えられない。


「もう俺の中ではりよたんは神崎結奈以外ありえないんだよね……」

「そんなふうに言ってくれるだけで、恐縮です……り、りよたん可愛いし、あんまり人に言えない過去があって、でも前を向いてて弱さを見せなくて、そんな彼女に私……なってみたい!」


 興奮したようにその頬を赤くして、高崎さんは熱く語り、そして凄い魅力的な笑顔で宣言する。

 その熱意はこれでもかと凄く伝わってきて、聞いてるこっちが興奮してきてしまう。


 そんな中、富田さんからのメッセージが届いた。


『SPY×SISTERSのオーディション連絡来たわよ』


「「っ!?」」


 スマホに目を落とし、顔を上げれば同じことをしていただろう高崎さんと目が合う。

 彼女が何を思っているのかはなんとなく見当がつく。


「俺、全力で応援する」

「っ! ありがとうございます」


 なんだか恥ずかしくなって、視線を外す俺と高崎さんだった。

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