パーティ会場での出会い
りそヒロの打ち上げパーティはホテルのイベント会場を貸切って行われていた。
ビュッフェ形式の料理やりそヒロ2期を祝いしゅうとあすみのキャライラストが描かれたケーキも登場してスマホに収めることに忙しい。
高崎さんは赤のパーティードレスを着ていた。
会場内でもひときわ目立っていて、似合いすぎているというのもあるが、いつもよりも肌も露出していて、ドキドキしてしまう。
「ほら、こういう時男の子ならまず褒めなくちゃ」
「いたっ、背中叩かないでください。わかってますよ……に、似合ってるよ。高崎さん」
「っ! ありがとう、広瀬君……」
会場にはこんなにスタッフさんが居たのかというくらい多くの人が集まっていた。
開始時刻になると、高崎さんが挨拶の為に壇上へと上がる。
途中で転びそうになったりと少し危なっかしい様子だったが、いざマイクの前に立ち深呼吸すれば神崎結奈になった。
「黒糖あすみ役を演じた神崎結奈です。収録の際はいつもスタッフさんやマネージャーさん、関係者の皆さんにご迷惑をおかけしていたと思います。それでも何とか一期の最後までやってこれたのは周りの皆さんのおかげです。2期ももうすぐ始まります。またあすみを演じられることが出来てとっても嬉しいです。良い作品に出来るように精いっぱい頑張ります! そ、それと、りそヒロ映画化したいですっ!」
立派なスピーチを間近で聞かされた俺は体が震えだすほど嬉しくなった。
富田さんも同じようで、目が合うと口元が緩んでしまう。
高崎さんのことだ。一生懸命練習した姿が目に浮かぶ。
頭を下げる高崎さんに向かって拍手が鳴り響く。
その大きさにびっくりしたのか、恥ずかしそうに俯き顔を真っ赤に染めてゆっくりとこっちにやってくる。
「ど、どうだったかな?」
「最高だった」
「そうね。よかったわ……さっ、2人とも存分に食べて楽しみなさい」
「「はいっ!」」
ライターさん調べに忙しく、お昼を抜いてきたこともあって料理を片っ端からお皿に盛って高崎さんの隣で食べていた。
「そういえばここにライターさんも来てるよね?」
「うん……そっか、広瀬君誰か話を聞きたい人、いる?」
「実は……」
「神崎さん、2期も変わらずよろしく」
「よ、よろしくお願いします。また至らないところは教えてください」
先を話そうとしたところで高崎さんの周りは他のスタッフさんや声優さんがやってくる。
どの人にも年齢関係なく一生懸命に何度も頭を下げている。
そこには彼女の性格の良さが際立って、だからこそ彼女の側にはひっきりなしに人が集まって来ているのかもしれない。
俺の話を聞いてもらう余裕はなさそうだと思ったのだけど……。
「1期お疲れ様でした。神崎さんの演じるあすみをイメージして2期のオリジナルがあれば少しでもいいものを描きますね」
「ありがとうございます。あ、あの、今日は小山さんも来ていますか?」
(えっ……?)
高崎さんから出た名前に思わず心の中で声が出る。
小山サキさん、りそヒロやおさサイのシナリオを担当し、昨夜寝る前にもその人が担当した話をみて感動すら覚えた。好きなライターさんを上げるなら間違いなく小山さんだ。
「さっき見かけはしたよ。彼女人混みが苦手だから、どこか端の方にいるんじゃないかな」
挨拶を一通り終えるまで待って、高崎さんに尋ねる。
「小山さん、知ってるの?」
「うん……ライターの人で何度か話をしたことあるから。広瀬君に会う前の私が唯一話せたのはサキさんだけで……も、もしかして広瀬君が話を聞きたい人って……」
「うん、りそヒロやおさサイのあのオリジナル回書いた人だから。話してみたいんだ」
「そっか。でもサキさんは……うんうん、広瀬君が話をしたいって言うなら……捜してみよっか」
しばらく探しては見たものの、小山さんはなかなか見つからず、俺も高崎さんも諦めかけていったんパーティー会場に出た。
そこで高崎さんは俺の袖を引く。
「あっ、広瀬君、あの子が小山サキさん」
「……」
その子は会場の外にあるソファに腰掛け本を読んでいた。
そんな彼女に高崎さんは遠慮がちに声を掛ける。
「サキさん、こんばんは……」
「…………結奈」
ゆっくりと小山サキさんの顔が上がる。
ウエーブの掛かったショートヘア。そのクリっとした目が高崎さんから俺へと移った。
「そちらは……?」
「広瀬潤君です。実はクラスメイトで私のマネージャーをしてもらっていて、それで……」
「富田さん以外にもマネージャー……あら、あなた……」
俺の顔をじっと見たかと思ったら、立ち上がって近づいてくる。
「な、なにか……?」
「ふーん、あなたが結奈のマネージャー、そう……」
「俺、あなたに色々聞きたいことが……」
「わたしに? それならまた機会を改めて会いましょう」
「そうは言っても、そんな会う機会なんて……」
「広瀬君、サキさんは……」
「結奈、しっー!」
高崎さんに口止めすると、彼女は会場から遠ざかって行く。
これが俺と小山サキとの出会いだった。
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