買い物と好きなライター
夕方近くになり、高崎さんの今日のスケジュールを無事に終え、編集部を後にする。
疲れているはずだが高崎さんの表情は明るくてなんだかほっとした。
「広瀬君、お疲れさま」
「いや高崎さんこそ、今日も凄く頑張ってたね。あすみたんと高崎さんの素が上手くかみ合ってすごくよかった」
「っ! う、うん、ありがとう。でもまた助けてもらって……」
「いや、ちょっと背中押しただけだから」
「ふふっ、もう一度ありがとう」
富田さんの車の後部座席に高崎さんと並んで座り、今日はこれで帰宅、のはずだった。
「明日はりそヒロの打ち上げパーティだから、君も楽しみでしょ」
「あーそっか……あの、それって私服でいいんですか? 俺、制服以外の正装持ってなくて……」
高崎さんとの聖地巡礼の時も服装には苦労したので少し気になる。
「服装はそこまで気にしなくて大丈夫だけど、正装は一着くらいは持っていた方がいいかもね。この後って時間ある?」
「えっ、ええ……」
「なら買いに行きましょう。結奈ちゃんとコーディネートしてあげる」
隣を見れば高崎さんの頷く顔が見える。
ということで、俺たちはショッピングモールへと向かい、いくつかメンズ服の専門店を周ることになった。
疲れているだろう高崎さんに申し訳なく思ったが、なんか生き生きとした表情で迷惑そうでもない。
買い物好きなのかもしれないな。
そんなことを思いつつ車に揺られ、駐車場に入る。
土曜日ということもあり、混雑していたが運よく空きがあり待たずに止めることが出来た。
たくさんの人で混雑するモール内を俺たちは進む。
「ここ入ってみようか?」
「ええ……あのさっきの話ですけど、マネージャーの仕事を疎かにはしないので……」
「わかってるよ。引き受けた以上君が手を抜くはずないし、私は応援してる」
車の中で俺は富田さんにもアニメシナリオライターを目指すことを打ち明けていた。
反対されないことにほっとしながら、シャツやジャケットがずらっと並ぶお店にやってくる。
こういうお店があることは知っているが、アニメのグッズやラノベ買いに忙しく久しく自分の服を買っていなかった。陽菜にもその辺苦言を呈されているしな。
「広瀬君、シャツはこれでその上にこのジャケットはどうかな?」
「えっと……」
高崎さんがいくつかの服を真剣な顔で見比べ、俺により合いそうなものを提案してくれる。
なんかテキパキしている感じだ。
俺はといえばブルーのストライプのシャツにネイビー色のジャケットを受け取るとまずは値段に目が行ってしまう。
んっ、シャツはセールなのか半額、ジャケットも20パーセントも割り引かれていて、二つ足してもアニメの円盤1巻分くらいとは、お得感がすごい。
「お金なら気にしなくていいよ。必要経費だし」
「いや、そう毎回甘えるわけには……このくらいなら」
「なら、今回は少しだけバイト代から引かせてもらうわね」
「その少しだけが気になるんですけど……柄もよさそう。ありがとう高崎さん、これにする」
「はいっ。すごく似合うと思うよ」
高崎さんの自然な笑顔がみれて嬉しい。
何だか車を降りてから、富田さんを見る顔がなんだかぶすっとしていたから、ちょっと気になっていたんだけど、勘違いだったか。
「それじゃあ会計してくるわ」
「……お願いします」
「あっ、それと君は勘がいいから気づいてるでしょうけど……結奈ちゃんの機嫌悪いのは私がいるせいよ」
「……えっ?」
それはいったいどういう意味だと一瞬考える。
「っ!?」
富田さんの言葉を聞いて、高崎さんはポカポカポカと慌てた様に富田さんを叩いていた。
この2人近頃こんなふうにときたま仲睦まじい様子を見せるんだよな。
「じゃあ明日は夕方に迎えに行くから準備しておいてね」
「はいっ、お疲れ様でした。それとありがとうございます。高崎さんまた明日」
「広瀬君、今日もありがとう」
家の側で下ろしてもらい富田さんの車が遠ざかるまで見送る。
辺りはすっかりと薄暗くなっていた。
ちょうどスマホを出した時メロデイが鳴る。
駒形さんだ。何ともいいタイミング。
「もしもし、広瀬もちょうど仕事終わったころかなと思って、あたし今帰って来たの」
「お疲れ様。大丈夫、淋しくない?」
「ちょっとそれ、淋しいって言ったら飛んできてくれそうな言い草じゃない」
「そりゃあまあね」
「大丈夫よ。何かあったら頼るし」
「あ、あのさあ、俺、アニメのシナリオライターの勉強してみようと思うんだ」
「へえ……アニメのシナリオか。なるほどね、そこ行くわけね」
「うん……」
「ならあたしのマネージャーもして、色々体験するのはプラスになるわね。シナリオライターさんの知り合いもいるし、話を聞くだけでも勉強になるでしょ」
「た、たしかに……」
「おさサイでもりそヒロでもその回を担当したライターさんエンドロールに流れてるでしょ。好きな話書いてる人が居たらあとで教えなさいね。知ってる人かもしれないし」
「う、うん。ちょっと見てみるありがとう」
考えてみればアニメは好きだけど、声優さんのことは詳しい俺ではなかった。
当然ライターさんのことも良く知りもしない。
シナリオの勉強と言っても何をどうしたらいいかわからなかったが、そうか好きなライターさんの作品を見ることから始めるか。
「ただいま」
「おかえりお兄ちゃん」
そんな決意をして玄関に入ると、食欲を刺激するいい匂いがした。
お久しぶりです。
こっちは半年ぶりくらいの投稿……すいませぬ。
どうしようかなと悩みながら書きました。少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです。
あと2話下書きがあるので、数日中に投稿していきます。
新作も書き始めてます。
『親の再婚相手の連れ子はフラれたばかりの美少女でした~一つ屋根の下で初恋を忘れさせてくれない~』
きっと声優以上にめんどくさい2人になっていくと思うので、よかったら読んでみてください。
下にリンクを貼っておきます。




