目標を言葉に
週末を迎え、俺たちは大型書店内にいた。
ここは以前、聖地巡礼の際訪れた場所。
どうやらこの書店、りそヒロの原作ラノベの売り上げがトップらしい。
だからか、声優雑誌に特集が組まれたこともあってその宣伝に訪れてのだ。
そこでのイベントを終えた高崎さんは、尽力してくれた関係者に一人一人丁寧に挨拶している。
それは彼女の人柄が現れた微笑ましい光景だが、次の雑誌取材の開始時間が迫っていた。
「すいません、またよろしくお願いします」
富田さんもそれを察し、彼女の前に飛び出して切り上げるため平謝り。
そんな感じでまずは無事に今日の最初のスケジュールを終える。
外に出ると日差しと柔らかい風が出迎えた。
「じゃあ車移動しておくから。2人は先に編集部行ってて。今日は大丈夫だと思うけど……広瀬君、ちゃんと見張っててよ。あとこれ」
「は、はい……」
富田さんからまだ温かさの残る紙袋を受け取り、高崎さんを注視する。
この一帯は原作内でもよく出てくるし、アニメ内でもそれを細かくよくつかわれていた場所。
目を離すと高崎さんがどっかに行ってしまうかもという想いからの釘差しだった。
なんか以前に訪れた時は、その後の仕事がなかったこともあるのだが、富田さんが目を離したすきに居なくなっていてたい焼きを食べていたとか。
だからこそさっきぱっと行って買ってきたのかもな。
「広瀬君、あの坂また行きたいね」
「う、うん。行きたいね。あっ、でもまだ仕事終わってないから……また時間があるときここに……」
「そ、そうだね」
「お、おう」
目を輝かせている彼女に引っ張られるように、こっちも抑えているりそヒロ熱が表に出そうになる。
なんだか恥ずかしくなって互いに俯いてしまう。
「そ、それ……?」
「あっ、うん……たぶんあそこのたい焼き。ちゃんと水分も補給しておいてね」
「はい。これ、こしあんかな……?」
「えっ、そういえばあのお店両方あったな。あすみが好きなのこしあんだもんね……急いで買っただろうしどうかな……? あっ、白玉入りのもあるよ」
「そ、それ、今日から発売したやつ。そっちを先に」
「ていうか、時間ない。ちょっと走るよ」
「っ?! ふぁ、ふぁい」
たい焼きに齧り付いた彼女はうんうんと肯定の意思を伝えてくる。
人混みも多いので、はぐれると思い彼女の手を咄嗟に掴んでしまった。
ところどころポンコツに見える部分もある。
だがそれは、高崎さんの武器ともいえる個性でもあるんだ。
そんな様子を仕事の移動中などにこうやって身近でみられるのはなんとも微笑ましい。
信号待ちで足止めされているところでスマホにメッセージが届いていたことに気づく。
『オーディションの件だけど、もうちょっとイメージ固めておきたいのよね。また時間があるときでいいから相手役やりなさい。もちろんバイト代出すわよ』
『コンクールに提出する作品仕上がったよ。どうかな……? ちょっとイラストにも挑戦してみようかなって思ってる。何枚かラフ描いてみたから感想聞かせてくれると嬉しい、かな。それから……今晩は、私がビーフシチュー作るから、またお邪魔するね』
駒形さんと香織からの要件だった。
駒形さんの方は家族のことでの相談じゃなくてちょっとほっとする。
俺相手で練習になるのかはわからない。
だが少しでも応援に繋がるのなら、時間を作るか。
香織の方はメッセージに慣れていないためか、改行されてなくてらしさが表れていてくすりとする。
イラストって、あすみたんみたいだな。
「……広瀬君、青だよ。早く、遅れちゃう」
ちらりとスマホ画面を覗き込んでいた高崎さんは俺の手を引き駆け出した。
さっきまでのポンコツぶりはどこへやら……。
頬を緩め悪戯っぽく笑うその横顔を見て、まだまだ人気は高まるだろうと確信する。
そんな彼女のマネージャー業はまだ始まったばかりだ。
これからも応援するし、刺激も大いに受けるだろう。
そう、俺が何か挑戦したいと思ったのはそのおかげなんだ。
「……た、高崎さん」
「っ!?」
ここ1週間、自分がやってみたいことは色々考えていた。
そんな中で、りそヒロやおさサイのアニメを見返しているうち、シナリオに少しずつ興味を持ち始めたんだ。
原作回でもなるほどと思えるほど広げているところもあったし、完全オリジナル回もあって……。
声優さんが命を吹き込む台本、そこに書かれた台詞がもしかしたら誰かの心に響くかもしれない。
そういう方面で俺も誰かを応援できるかも……。
そう思ってしまったんだ。
決意したのは、つい昨日。
高崎さんにはまず初めに伝えたくてそのタイミングを見計らっていたけど……。
「俺、アニメのシナリオを勉強してみるよ」
一生懸命なその背中に促されるように、自然と言葉となって出てきた。
一瞬目を見開いた彼女は、すぐに口元を緩め……目が合うとその想いをちゃんと返してくれる。
「……そ、それなら私は、広瀬君の理想のヒロインを目指すね」
出会った頃のコミュ障はもうそこにはない。
噛み合ってない様に聞こえるやり取りだけど俺たちにはそうじゃない。
今の台詞はりそヒロ内で……でもなんだかそれは、あすみの台詞ではなく高崎さんこその自然な台詞、そんな気がした。
だけど、俺にとってはそれが1番の応援になるんだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
キリのいいところでとりあえずの完結とさせていただきます。
感想などの反応を楽しみにしながら、定期的に更新することが出来ました。
本当に感謝しています。
連載期間は半年と長いわけではないと思いますが、(その前の3ヶ月くらいはストック作りなどしていたので実質もっと)毎話苦しかったですが、それでも楽しく描くことが出来たかなと思います。
4章の構想もあるにはありますが、書くとしても不定期になってしまうと思います。
後日、短いエピソードは投稿予定です!
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