相談
『ど、ど、どうしよう! 雑誌のインタビューなんてポンコツな私じゃとてもじゃないけど無理だよ!』
家に帰り、開いた高崎さんからのノートの返事。
まず目に飛び込んできたのは、そんな魂が込められたような文字だった。
どうやら今度は雑誌のインタビューを受けることになってしまったらしい。
事務所側にどうするか確認された際、出来ないという意思を伝えることが出来ず、結果承諾とみなされたという。ある意味高崎さんらしいといえばらしい。
ラストには涙目になった猫がなんとかしたいにゃん。
そう訴えかけていた。
相変わらず猫のイラストは物凄い上手く可愛い。
ここまでの関係があるからこそ、俺を頼って相談してくれたのだろう。
今日の高崎さんはしきりにそのことを相談したくて、あたふたしていたと思えば合点がいく。
「インタビューか……」
ノートと一緒に渡されたアニメ雑誌を捲ってみる。
話題になっているアニメの特集とその主演声優さんに質問していく形でページは掲載されていた。
もちろんそれだけではないが、高崎さんが読んでほしいと思ったのはその部分のはず……
質問は作品のことはもちろん、私生活、趣味などにも触れ、今後の抱負など多岐にわたっている。
しかもこれ、ただのインタビューじゃねえ……
時間にしたらおよそ30分くらいだろうか。
そんな長時間、高崎さんが1人でこれを出来るとは現時点で思えない。
きちんとした台本を用意しても、聞かれることをすべて予想するのは難しそうだ。
予期せぬ質問が必ず出るだろう。
ふと、さきほど話していた富田さんの顔がなぜか浮かんだ。
あの人は当然このこと知っていたはず。
これ、試されてたりはしないよな?
ノートの内容を見る限り、高崎さんは俺が打診されたことを知ってはいないようだが。
「ああ……色々考えなきゃいけないことが多すぎる」
気を抜くと頭の中がごちゃごちゃになりそうだった。
時折唸りながら考え、高崎さんに質問する形でもいくつか練習を兼ねた質問を書き記していく。
まずは必ず聞かれるであろう物を洗い出し、それだけでも形にと思ったのだが、普段の高崎さんの様子が頭に浮かんでくる。
そしてそれがこれだけでは成功はないと教えてくれた。
そうか。高崎さん本人も気づいてるんだ。
だからこそ、もっと頑張ろうとしての学校の様子だったのかもしれない。
「これは……この前のイベントとかの比じゃないくらい大変だぞ……」
これと言ってよい考えが浮かばない。
このままではいけないと思い、気分転換にあすみアプリを開こうとスマホを見ると、妹からメッセージがあることに気が付いた。
『ご飯研いでおいて』
そんな短く不愛想な連絡事項。
どうやらだいぶ考え込んでいたようで、窓の外を見るとすっかり日が暮れている。
「あっやべっ、洗濯物……陽菜にまた怒られる」
急いで下に降りて、米を研ぎ、洗濯物を取り込み、お風呂掃除も済ませる。
そんな家事をこなしたところで陽菜が帰ってきた。
「ただいま……」
「お、おう。おかえり……」
「なに息切らしてるの?」
「いや……あっ、そうだ。冷蔵庫にお土産があるぞ」
「めずらしいじゃん。お兄ちゃんが買ったの……」
陽菜は持っていた荷物を床に置き冷蔵庫からケーキの入った箱を出した。
「あれ……楽器持って帰って来たのか?」
「えっ……まあ、ほら、新入生も入って来たし少しでも練習しないとだからね」
「そうか……」
どこか歯切れの悪い答えと共に陽菜の顔は不機嫌さを纏った気がした。
部活のことに関して妹が結構ナイーブな面があることを俺は知っている。
だからあまり話題に出すこともしないのだが、つい聞いてしまうことがこんなふうにあるんだ。
「うええっ! このお店女の子の間で有名なとこだよ」
そう、あまりそのことを話したがらない妹。
それはいつものことのはずなのに……
まるで何かを誤魔化すように、ケーキを見入る陽菜に違和感を覚えずにはいられなかった。
何かあったのか……?




