アニメ放送後
先週のアニメ放送は、特別番組放送の為に深夜帯の放送時間が削られたこともあり、今日は2週間ぶりのりそヒロ放映。
深夜枠なので1時30分開始となかなかヘビーだ。
リアタイで視聴したいこともあり、夕食後、一度仮眠を取って準備万端整える。
陽菜が作ってくれていたサンドイッチに手を伸ばし画面へと集中させた。
そろそろ1期も佳境に入ってきた。
手のリハビリを努力と主人公の献身的な励ましで克服したあすみたんは、一枚絵のイラストに挑みそれをコンクールに出展しようと日々を送っている。
前半《A》パートでは主人公のしゅう君が頑張りすぎのあすみを心配して気分転換も兼ねて外へと連れ出し、彼女に励ましの一言を送る。
そして後半《B》パート、美術部で1人居残り、キャンバスに仕上げのひと塗りをして作品を完成させるシーン。
「出来た……最後まで、動いてくれた」
絵筆を置き、自分自身で描いたそれを眺め、ぽつりと彼女は言う。
肩を震わせて、惜しげもなく涙を流した後……
主人公に電話してあすみたんらしい素直じゃない感謝の言葉を送って、この回はあすみたんの泣き笑顔でラストを迎えた。
エンディングの入り方もこれまでとは違い、事故後からの過酷なリハビリ。
負けないと覚悟を決め、主人公に宣言する場面。
スタッフさんもこの回が特別だとそれとなく伝えてくるその演出が粋で、なにより、あすみたんのそのぽつりと言った台詞が突き刺さってきて、視聴者である俺も感情移入してしまい、自然と涙を流してしまった。
原作でもここまでで一番感動した。
早く映像としてみたいと思ってはいたが――
ここまでか、ここまですごいのか!
涙をぬぐって、そのままPCでりそヒロのファンサイトへと飛ぶ。
『あすみたん、すごかった……』
『神崎さん、どれだけ泣かすんだよ!』
『1期の中で一番の感動シーン』
SNSもチェックしてみると、どこもかしこも絶賛の嵐だった。
『神崎さんまだ新人だぞ。それであの演技力半端ねー』
『神崎結奈、すげぇ美少女だった』
『公開イベント見に行ってない奴は損してるぞ!』
『くぅ、もっとメディアに露出しねぇかなぁ……』
中でもあすみたん役である神崎さんを褒め称えているものが多くみられた。
「ファン多いんだな、高崎さん……」
やり取りを重ねながら、普段は見ない声優さんの情報も最近は見るようになっていた。
そんな人が隣の席にいるなんて、ちょっと信じられなくなる。
そして、今日の放送で再度、神崎さんの、高崎さんのその凄さを知った。
美少女か。
確かにその通りだ。
自分だけが素の彼女をしっていてなんだか不思議な感じがすると同時に、少し胸がざわつく。
だがその理由をちゃんと考えることは出来なかった。
翌日は、早めの時間にセットし直したあすみたん目覚ましで久しぶりに起床する。
昨日のりそヒロアニメを見たためか、いつもよりもさらに落ち着かなくて早く家を出た。
考えてみれば、高崎さんとノートでのやり取りを始めてから、初めてのアニメ放送だったんだ。
今、ノートは彼女が持っている。
放送時間が遅かったから、ノートにアニメの内容のことを書いているとは限らないけれど、期待している自分がいた。
その期待通りなのか――
校舎に入ると、下駄箱前で高崎さんがやたらときょどっているのを発見した。
「おはよう、高崎さん」
「っ!」
そういえば彼女もノートを持っているときは、早く登校していたんだ。
挨拶をしても返事がない高崎さんにもだいぶ慣れ微笑ましくさえ感じる。
だが、少し顔を赤く染めた高崎さんは逃げるように階段を上がって行ってしまった。
そこまで避けるのかと思いながら、下駄箱を開けると一気に眠気が吹っ飛んだ。
そこには例のノートが仕舞い込まれていて、思わず周りを見回してしまう。
いつも机の中に入れているのに、今日は不意を衝く様に下駄箱。
少しでも早く読んでほしいということだろうか?
普段なら放課後まで待って家へと帰り、その内容に目を通すのだが、
「ダメだ、気になって仕方ない」
昨日のあの放送の後だ。
彼女はあすみたんの声優さん。
なにを書いているのか気にならないのならばあすみたんファン失格だろ。
何人かの生徒とすれ違いながら、やってきたのは高崎さんが熱演していたあの視聴覚室だ。
しっかりとドアを閉めて、俺はゆっくりとそのページを捲った。
「ええっ!」
記してある内容をこの目にし、思わず声を上げていた。




