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ありがと

『イベントは自分も本当に楽しかったです。

 こうしてやり取りが出来ることになって嬉しいです。


 もろもろの件了解です。

 こちらこそ、改めてよろしくお願いします』




 高崎さんへの返事を書きだしてから小一時間が経過した。

 緊張からだろうか、どこかかしこまった文に自然となってしまい……

 読み返してみれば、その内容は感謝と挨拶だけのどこか定型文のように見えてしまう。

 このままだとなんとも味気ない。

 何とかならないかと考える。


 上手く書けない……

 こんな時どうしたらいい?

 感謝の気持ちを、高崎さんを勇気づける何かを――


 俺はあすみたんに救われた。

 それは神崎さんの、高崎さんの声があればこそ……そうだよな。


 そこに行きついたとき、俺が描けるものはそれしかなかった。



 そこからは――



 あすみたんイラストを何度も鉛筆で薄く書いては消しを繰り返し、ようやく納得できるものになった。


「うん、意地張ってるのと恥ずかしい感じは出てるか……」


 余計な線は消したが、ページにはやたらとしわが寄り、なにかそれが異様に痛くも感じるが、もう後の祭りだ。

 最後に吹き出しを作って、高崎さんを励ますメッセージをと思いペンを動かす。

 その言葉はわりとすぐ出てきた。

 というより、それをセットで伝えたくてあすみたんイラストを描いたんだ。

 やはり高崎さんがあすみたん好きであるとわかった以上、励ますならこれっきゃない。


「出来た……」


 満足したものが描けたときには日はすっかり沈み、手が真っ黒に汚れていた。


「ぐわあ、はずいな……こ、これ、どうやって渡せばいいんだ……」


 学校内で対面とかハードル高すぎよな。

 それだと高崎さんにも迷惑がかかるかもしれない。


『ノートは、明日なんとか机の中に入れておくから』


 あれこれ考えた末に、高崎さんにそんな短文のメッセージを送ったのは、明日の自分がそう動く様にあらかじめ縛り付けるって狙いもあった。

 少しは頑張れ、俺。


 室内の明かりをつけ、洗濯物を取り込み終わるときには妹が帰宅する。


 夕食時になるとだいぶ恥ずかしさは消え、それよりも、

 高崎さんの『りそヒロは私も大好きです』『あすみたんは私も大好きだよ」というあの文が何度も思い出され――

 抱えてしまっていた戸惑いは嘘みたいに消えた。

 だからか、俺は珍しく自然と鼻歌を口ずさむ。


「な、なに、お兄ちゃん……なんで笑顔……? キモイ」


 お茶碗に白米を大盛りによそりながら、妹は俺の顔を見て一瞬凍り付いた表情をする。


「気持ち悪い言うなよ……俺だって笑うことくらいあるわ」

「うわっ、なんか不気味……今日ってあすみたんの誕生日じゃないよね……えっ、キャラソン発売でも決まった?」

「いや……」

「ならなに? まさかあすみたん写真集発売決定とか!」

「えっ、それ絶対買うな。違うわ……ちょっといいことがあっただけだ」

「ええっ! まさか学校? お兄ちゃんでも、学校でいいことってあるんだ……」


そんな失礼を極める妹は生姜焼きをパシャっと写真に撮り、満足顔でご飯を食べ始める。


「いただきます」

「……久々に気持ちいいくらいの食欲……あっ、ちょっと、陽菜の分まで食べないでよね!」

「お、おおっ……なんだよ?」


 妹の訝しげな視線に思わず尋ねてしまう。


「別に……陽菜のわずかな心配、返せし。ほら、ちゃんと肉だけじゃなく野菜も食べる。食事はバランスよくね。あっ、陽菜今いいこと言った」

「へいへい」


 いつもより少しだけ賑やかな妹との夕食だった。




 翌日も日直と同じくらいの時間に家を出る。

 妹は部活も入っていない兄のその行動に首を傾げつつも、いそいそと朝練へと向かった。

 昨日とはまた違った緊張感がある。


 登校し、誰もいない教室に安堵しながら、鞄から取り出したノートをさっと彼女の机の引き出しに入れた。


 悪いことをしているわけでもないのに、廊下の気配を気にし――

 少し胸が熱くなるのを不思議に感じながら――

 隣の自分の席に腰掛け、俺は机に突っ伏した。



 高崎さんは、いつもより早く教室にやって来る。

 彼女が席に着いただけでちらちらと見てしまう。

 あの記した内容を見てどんな反応を示すのか気が気ではなかった。


 すでに、周りにはちらほらとクラスメイトが居たので、高崎さんはノートの存在を確認しただけで、すぐに開いたりはしなかった。


 家に帰ってからみるのかもしれない。

 そんなに急いで確認することなどないし。


 だが、その瞬間はすぐにやってきた。


 朝のホームルーム中、皆の目が教壇の担任に向く時を見計らっていたかのように――

 彼女は机の中で隠すように、俺が時間をかけて書いたその内容をその目にした。


「っ?!」


 高崎さんはなんだか驚いたように口元を隠し、その大きな瞳に涙をため小刻みに震えだす。

 またやってしまった。そんな考えが頭に過ったが――


 そうではなかった。


「……ふふっ」


 その口元から僅かに聴こえる吹き出しに俺は心底安堵する。


『ちゃんと隣にいるから、元気だしなさい』


 俺をどん底から立ち直らせてくれたあすみたんの台詞を少しアレンジしたものを、あの微笑みの表情から吹き出しにし――

 どれだけその台詞とあすみたんに救われたかを、目いっぱいそこに込めた。

 高崎さんになら通じるそんな想いだったが……

 どうやら、ノートに記したそれは失敗ではなかったようだ。


 彼女はこちらを向き、隠していた口元を晒した。

 その緩まった表情に、俺の視線はなぜか釘付けになってしまう。


 いつもなら逸らすはずなのに――


 普段教室で見せる彼女の無表情とは違い、柔らかく少し赤みが差しているその笑顔に――

 思わずドキッとしてしまったのかもしれない。


「……あ・り・が・と」


 その魅力的な口元が声を出さず、そう告げた気がした。


 嬉しそうにはにかむその表情に俺は言葉を失う。 


 その時、何とも言いようのない胸の高鳴りを確かに感じた。

ここまでお読みいただいて、ありがとうございます。

以上でエピソード2が終了で、次話からエピソード3になります。


ここまで読んで面白かった、続きも楽しみにしている、ガンバレ~と思ってくれた……

この作品をまだブックマークしていない読者様がいたら、

評価を☆☆☆☆☆を★★★★★に塗っていない読者様がいましたら、どうかポンコツな作者を応援していただければ、本当に嬉しいです!


励ましのご感想やレビューなどもお気軽にお書きくださいね。

1つ1つ丁寧にご返信させていただきます。


また朝から次話を投稿しようかなと思っています。

よければまたのぞいてみてください。ここまでお読みくださって本当にありがとうございます。

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