1話 説明会
スマホからは、何か良いことがあったのか、クスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてくる
「人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀じゃなかったかな?」
これまたラノベあるあるなセリフを引っ張ってきたものだと思いながら、仕方がないので名乗る・・・筈がないよね?
普通相手から電話掛かってきたら、相手がまず名乗るよね?あれ?俺がおかしいわけじゃないよね?
「確かに!君の言うとおりだね、それじゃ僕から名乗ることにしようかな?僕の名前は・・・まだない?」
どこぞの猫の様なセリフを言いながら「うーん?」とか考え出したんだけど、これはもう一回通話を切ってもいいんじゃなかろうか?
「あ!待って待って!切らないでってば!!えっとね、名前はないんだけど、周囲からは災厄の神なんて呼ばれているよ、災厄の神なんて呼ぶのも面倒だと思うから、災ちゃんとでも呼んでくれていいよ?」
そっと通話を切ろうとしたら、慌ててそんなことを言ってきた。
ふむ・・・声から察するにまだ中学生にもなってないと思うのに、早くも中二病を患ってしまっているようだ?大人になってからあまりの黒歴史に悶え苦しむこと間違えないな
「はぁ、俺の名前は水上相馬です。それで、その災厄の神(笑)さんが俺に何用でしょうか?」
この状況で自称神様を名乗るぐらいだ、今の状況の説明と打開策くらいは知っているのだろう、正直面倒くさそうな予感しかしないから即座に通話を終わらせたいのだが?
「面倒くさいなんて酷い言い草だなぁ、今の君の状況を説明してあげようと電話をしてあげたのにー?そのままの状態で放置しちゃってもいいんだよ?」
クスクスと本当に楽しげな様子なので、放置っていうのはまぁ冗談なのだろう
さて、電話中に直接正対してる訳でもないのに、ちょくちょく口に出してないセリフまで拾ってくることから、自称神様っていうのも多少は信じていいのかもしれない?
神様じゃなくても、それ相応に普通から外れてる存在なのは確かなんだろう、とりあえず放置は困るので話を進めることにしようかね?
「それは大変失礼を致しました、災厄の神様につきましてはお機嫌麗しく、この度は危機一発な状況を救って頂き誠にありがとうございます。つきましては、お手数をお掛けして申し訳ございませんが、現状の説明を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「ハハッ、心にも思ってないことを息をするかの様に言葉にするんだね?まぁ、僕的にはそういうところ、嫌いじゃないけどね?」
とりあえず適当にそれらしい言葉を並べてみたんだが、どうやら気に入ってもらえたようでよかった。
「とりあえず何から聞きたい?今は機嫌が良いからね、なんでも聞いてくれていいよ?特別サービスだ」
ほむ、できれば1〜10まで全部説明した上で、可能な限り迅速に地面に下ろして欲しいのだけれど、とりあえず一番不思議に思っていることは・・・
「何が目的で俺を助けたんですか?自称でも神様を名乗るぐらいですから、相応の理由があってのことですよね?」
神様は気まぐれだ、そういうこともあるだろうが、物事には何にでも理由がついてまわる。選択肢を選ぶ時、たまたまそちらを選んだから理由はないと言う人もいるだろうが、選ぶからには何かしら要因があり、そして理由があるはずだ。それは過去の出来事だったり、好みだったり、はたまた未来への希望だったり、それは人だろうと自称神様だろうと変わらないだろう。
そんなことを考えながら質問をすると、アッサリと答えが返ってきた
「君に頼みたいことがあるんだ、その為に君を助けた」
「頼み事、ですか?」
うん、俺の面倒事感知センサーが警報を鳴らしている。むしろ、これで面倒事じゃなければ神様を信仰しちゃうまである。
何よりスマホから聞こえてくる声は、最初と変わらずずっと楽しそうにしているのが、そこそこ恐怖を感じるレベルだ
「そんなに怖がらなくても、取って食べたりなんてしないから安心して?お願いごとっていうのはね?僕の代理人として、この国の代表者として、すべての神様が作った隔離世界で、他の代理人と競争をして欲しいんだよ」
言葉としては理解できるが、何をさせられるかの部分には全く触れていない件について深くツッコミたいところなんだけども、災厄の神の代理人?日本の代表者?災ちゃん説明ぷりーず!
「はいはい、まずは電話越しの説明じゃアレだし、ちょっとこっちに呼ぶけどいいかな?」
うん、なんの返事も返してないし、そもそも返事をする暇すらなく即決で移動?したんだけど、拒否権はないんですね?そうですか
よし、ここで想像するのは真っ白い、何もない部屋?空間だろう?俺も神様を名乗るぐらいなのだからテンプレを期待したんだが、残念ながら違ったようだ
「なんで宇宙なんだよおおおおおおおおおおお!!!」
うん、叫んでスッキリしたのは言うまでもないだろう。全力で声を出したのはいつぶりだろう?普通に住んでたらカラオケボックスですら全力で叫ぶと迷惑になるからな、思わず山彦風に両手で口の周りを囲って、メガホン風にして叫んでしまったよ、スッキリしたんだよ?
「いらっしゃい、改めて初めましてだね?僕が災厄の神の災ちゃんだよ♪」
うん、声の印象通りで見た目は完全に小学校高学年の美少年だ。黒目黒髪なので、日本人だと言われても違和感は殆どないだろう。ニコニコと何がそんなに嬉しいんだと聞きたくなるほど笑顔を浮かべたその表情とは裏腹に、俺がその美少年を見た第一印象は“怖い”だ
そう、見た目からは恐怖を感じる要素は皆無なのに、正面に現れた瞬間に、思わず2歩分距離を取ってしまった程だ
小さい頃に空手を習ってはいたが、喧嘩なんかした事もなかったので、軽く腰が引けてしまっていたが、膝を曲げて重心を落とし、直ぐ逃げられるように構えている俺がいる
「さっきも言ったけど、別に取って食べたりはしないから、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ?」
正直俺は喋る余裕なんて欠片も残っていない、何故こんなにも恐怖を感じているのかわからないが、必死に逃げ出そうとする身体を理性で押しとどめているぐらいなのだ。
「あらま、これじゃゆっくり会話なんてできそうにないねぇ?残念だけど、一方的に説明だけ済ましちゃおうかな?」
災厄の神は、ここにきて初めて表情を曇らせて残念そうにしている?
とりあえず説明はしてくれるみたいだ、その間になんとかして心を落ち着かせるように、深く呼吸をしながら話を聞くことにする
「まずは僕の代理人ってところからだね?これについては簡単さ、僕たち神々で次の主神を掛けてゲームをすることになったんだけど、神様同士で争うと大変なことになっちゃうから代理人を立てて、競争をさせることになったんだ。」
淡々と、でもまるでこれから新しいオモチャを買って貰える子供のように嬉しそうに、楽しそうに、無邪気に話続ける災厄の神
「ゲームの内容は代理人には隔離世界・・・君には神製のダンジョンって言った方が分かり易いかな?・・・に行ってもらって最深部まで最も早く到着し、主神の証を手に入れた者が勝利となる」
「ダンジョンの詳しい説明は禁止されているから許してね?次に国の代表者についてかな?これも簡単だね、もし代表者が死んだ国に住む全ての人間には死んでもらう」
代表者が死んだ国の住民が死ぬ?つまりダンジョンの中には死の危険があって、その状況で最深部まで辿り着けと?一人で?誰の助けも無く?
「ああ!その説明もしなきゃいけないね」
そう言って、災厄の神は幾つかの説明を加えた
・代理人にはMMORPGのキャラメイクみたいに、ある程度の能力が与えられるとのこと
・現実世界の国同士で同盟を組んで、ダンジョン内でパーティーを組むことができるそうだ
・ダンジョン内で手に入れた物は、現実世界に送ることもできるし、ダンジョン内で使用できる通貨に換金もできる
・自分の国の国力が、そのまま代表者の能力にプラス補正とされるらしい
・自国の者ならば、1人だけサポーターを付けることができる。このサポーターは俗にいうVRMMOの様にログインとログアウトをすることで、現実世界とダンジョンを行き来することができる
・サポーターはダンジョンで死ぬと、現実世界に強制送還され、2度とダンジョンにサポーターを送ることはできなくなるんだそうだ
・ダンジョンと現実世界で連絡を取れるのは1時間限りで、CTは240時間
・毎日ノルマが存在して、そのノルマを達成できない時は現実世界にペナルティが発生する
・ダンジョンを攻略すると現実世界に帰ることができる
・俺が代表者になることを拒むと、死亡したのと同様の扱いになるそうだ
他にも色々と制約や規則があるらしいが、それは説明できないんだそうだ?追加情報として、電車の中の人達がどこに行ったのかも説明はしてくれなかった。
とりあえず拒否権がないのは分かった。うん、できれば大変拒否したいのだがまだ死にたくないし、何よりちょっとワクワクしている自分がいる。
自分の背中にたくさんの人の命が掛かっているのに、正直そこまでプレッシャーは感じていない。
ここまでクズだったのかなぁっと自分に絶望しつつ、災厄の神への恐怖にもだいぶ慣れてきたので、一つ質問してみることにする。ちなみに腰が引けているのはご愛敬だよ?
「聞いてもいいですか?もし、他の代理人がダンジョンを攻略した場合、その他の生き残っている代理人はどうなるんですか?」
「それについては色々と条件みたいなので変わるんだけど、例えば同盟同士なら一緒に帰還できるよ?ただ敵対関係や無関係の代表者はそのままダンジョンと一緒に消えちゃうかな?当然、その国も死んでもらうよ」
ほむ、同盟機能が結構重要なんだけど、細かいシステムについては説明は無いらしいから今のところどうしようもないかな
「さて、他に聞きたいことはあるかな?無ければ、そろそろ出発してもらおうかなって思ってるんだけど?」
後々フォローも入るらしいし、現状で思いつくことも大してない、正直言うと俺にダンジョンの攻略なんてできるのかは分からないし、国の代表なんて言われてもピンとこない。
それでもここで断るって選択肢はないらしいので、まぁやってみましょうかね?
「うん、決意も固まったところだし、それではー一名様、ご案なーい!頑張ってね?期待してるよ?」
気がつけば、目の前には知らない天井があった。
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ダンジョン攻略0日目 隔離世界生存者196人 日本のペナルティ0%
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拙い文章で読みづらいところも多かったかと思いますが、生暖かい目で見守ってやってください、お願いします。
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