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「さて、落ち着いたところで君の姿を決めよう!設定は既に始まっているよ。ああ、それと俺はあんまりチート過ぎるのは好きじゃないから、何事も適度にね」



 しんみりした私の気持ちを払拭するように、神様は私を掴んだまま笑顔で、その場でぐるりと回って見せる。

 神様がとても嬉しそうな顔をしているから、それまでの悲しい気持ちも少し静かになった。



「そうそう、俺の世界には魔物がいるよ。強い魔物も、弱い魔物もね」



 話したくて堪らないって顔をしながら神様は私に微笑むけれど、読み手(世界を巡る)という役割を託された私としては、私を掴んだままの神様の手を必死にパンパン叩いて注意を向ける。



「まって!神様まって!」


「んん?どうしたんだい?俺の世界の説明をしようとしたんだけど」



 お楽しみを中止されたような、少し不機嫌そうな顔の神様。

 だけど完全なネタバレは勘弁してほしい。



「あらすじを知っていても私は楽しめるタイプだけど、知らない方がもっと楽しめる。だからあんまりネタバレ言わないで」


「ああ、そうか……なるほど。これは俺がうっかりしていたよ。早く感想を知りたくて焦ったみたいだ」



 てへへ、と照れ笑いするイケメン神様は、その後何だか不穏な言葉を口にした。



「んー、だけど俺としては感想を早く知りたいし、赤ん坊スタートからの君を見たい訳じゃないから……初回は大人の姿で始めさせて貰うね」


「…………ん?初回?」


「ははは、俺の世界は広大だからね。全てじゃなくても一度の人生で見て回れる量じゃないだろうから、何度も生きて(読んで)もらうよ?」



 なんだか、神様が、予想していなかった事を言い出した。

 一回生きれば終わりじゃないの?

 予想外の衝撃に、ちょっとだけ口が悪くなる。



「は!?」


「子供時代なんて案外狭いエリアでの生活になるし、見聞を広めましょう的な考え持つとかって裕福な生活レベルの人の考えでしょ。それって一般人からしてみたら充分チートじゃないかな。チートを付ければガンガン世界を回れるだろうけれど、俺としては普通に生きた時に、俺の世界をどう感じるかが知りたいんだ。地球ベースの知識や、それこそラノベ読んでゲームもしてきた君は、ある意味もう既に十分チートでもあるだろうし」


「いやいやいや、そこじゃない!チート云々じゃなくって、何度も生きて貰うって……なに!?」



 神様の手の中で両手をばたつかせて騒ぐ私。

 何度も生きるだなんて聞いてないよ!



「ええ、そこなの?だって、できれば物語(世界)は隅々まで読んで(巡って)欲しいと思うでしょ?そしたらさぁ、そこそこ量は読み(世界は巡り)ました言われても、一回の人生で、どれだけ読めたの(世界を巡った)かって話になるでしょ。全部ってなったら、何度も生きて貰わないと無理だよきっと」


「はいー!?マジで……?え、もしや死に戻り……」



 神様、さらっと怖い事言う……と自分の体を抱きしめながら体を震わせる。



「いや、普通にお亡くなりあそばされたらリスタートはここ。死んでー、ここ来て―、感想を俺に伝えてー、はい、また行っておいでシステム。俺に世界全ての感想を伝えきるまでエンドレス」


「エンドレス!なんだそのシステム!!しかも結局、何回も死ぬ!」


「え、もしかして、嫌……?」



 ガーンとショックを受けたような神様の顔に、ナイナイと首を振る。


 優しい神様だーって思っていたけれど、なかなかハードなご提案をする物騒さに口調も態度も改める気はなくなってきた。

 神様の両手からえいや、しゅぽんと抜け出して、不満を表すようにふわふわと左右に揺れてみる。

 ついでにお化けの姿で両手も広げて、はーやれやれ、とアピール。



「やー、だってそれって、どんなブラック企業ですか。何回も死ぬのも嫌ですが、そこはまぁ……譲ったとしてもですよ?死ぬ度に人づきあいリセットって事ですよね?次の人生以降では、もう前の人生で出会った人と会えないんでしょ?そんなの無茶苦茶悲しいじゃないですか!こちらは記憶残ってるのに。え、なに、しかも生活情報とかは知っているのに知らないふりして、えーなにこれーしらなーいってやれって?しかも休憩なし?感想言ったら即行ってらっしゃい?」



 ケッとでも言うように不満もあらわに言えば、神様はなんだそんな事か、な顔してあっさりスルーしてくる。

 いやいや、体験するのはこの私!重要な事ですってば!



「あー、なるほどね。いいよ、なら死んだ後、生き返る時には君の記憶をリセットしよう」


「なんだろう!優しさのようでいて、なんか鬼畜な発言に聞こえる!」



 顔を両手で覆い天を仰ぐ。

 あ、ここってもう天国みたいなもの?天を仰いだ所でこれ以上望みはないってこと?



「あとは、そうだな。性格は変わってしまっているかもしれないけれど、生まれ変わりで良ければ、今まで出会った人と多少は巡り合えるようにしようか。縁が深くなった人とか。でもそれだけだと、やはり狭い世界の付き合いになるだけだから、新しい人とも知り合っていくって事で。……ええと、あと何だっけ、休憩?良いよ、ここに来たタイミングで、君が疲れたなって思ったら少し休んでいくと良い。……確かに魂の疲弊があったらヤバいしね」



 大丈夫大丈夫、と安心できない言葉を口にしながら、神様は何やら喋っていくが、最後の呟きがとても小さくなった事を私は聞き逃さなかった。



「最後!なんて言いました?小声で言うって事はなんかやましい事でしょう!私にそういうのは通じませんよ!」


「いやいや!ちょっと考え事を口にしただけ!」



 神様が必死に手を振って何でもないよアピールするけれど、今まで読んだマンガや小説ではこの時に案外重要な事を言っている場合が多いから、思わずふよふよと神様に詰め寄ってしまう。



 ぬおお、神様が最後にぽそっと呟いていたのが気になる。

 だけど、神様だし変な嘘は吐かないだろう。

 何より魂の私を見つけて拾って、助けてくれたっぽいし、ある意味人生のやり直しをさせてくれるのだから優しい神様である事には違いない。多分。……多分。


 でもでも神様の思うとおりに勝手に色々決められるよりか、折角の異世界人生ならば自分で楽しみたい。

 なら、私からの要望を早めに言った方が良いんじゃないかと心が焦る。



「あの!できれば容姿は、ほんの少しだけ奇麗さんな、村人的な?感じにしてください。性別も決められるなら男ではなく、体のつくりも慣れ親しんだ女で」



 自分主導でさっさと決めた方が安全な気がして、寝物語で考えた姿を想像しながら神様に要望する。



「顔は、そう……とりあえず整っていれば……ちゅ、中性的で笑うと奇麗だね的な」


「おお?案外乗り気になってきたね?いいよいいよ。俺の世界でエラーにならない程度で、君の思うとおりの姿になれるように、俺の神力を少し分け与えよう」



 私の焦りを前のめりな姿勢と思ってくれたのか、神様は私をもう一度捕まえて、えいやと私の頭のてっぺんにキスをする。

 ぽよんぽよんなお肌のお化け姿の私は、キスがえっろ!と思えるはずもなく、なんだか頭から熱い何かをぶっかけられた感じに戸惑う。



「熱い!」


「君はさっきから、何だか文句が多くなってきたぞ。我慢なさい。さ、自分の姿を想像してみて。服や靴は村人生活レベルの物を用意してあげよう」



 頭がまだ熱いけど、むむむとこんな姿がいいなーと想像する。

 すると魔法少女のように、お化けな姿からしゅるんといきなり大変身。

 だけどその姿に神様が、ジト目になる。

 神様は背が高めだし、何より王道長髪美形なイケメンのままで、釣り目なその視線で見下ろされると心が騒めく。



「ねえ、さっき君、中性的って言ってたよね?顔もとりあえず整っていればって、言っていたよね。……ねえ、どこが?このゆるふわな暗めの茶色の髪に?目鼻立ちもそこそこ整っていて?フェイスラインはシャープだけど、胸は出るとこそこそこ出ていて?目を潤ませてきゅるん、とでも言えばホイホイ男が寄ってきそうなこの姿の、どーこーがー中性的なのかなあ?思いっきり美少女系じゃん」


「……くっ」


「いや、自分のなりたい姿ってのはさぁ、ある意味、性癖披露でもあると思うよ?だけどさー、中性的って言ったらその美少女的な姿にはむっさいおっさんの姿を取り入れて、そんで半分に割るくらいが妥当だよねぇぇ?いやいや、ゆずったとしてもよ?せめて少年か青年にも見えそうな顔立ちの姿にならないとさぁ。中性的って言葉の意味、分かる?」


「ぐあー!ちょっとだけぇ!可愛く奇麗になりたいって妄想しましたぁああ!!」



 素直に可愛くなりたいって言っておけば良かったと思えるほどの羞恥心が私を襲う。

 そんな私を神様はニヤニヤ見ているけれど、馬鹿にしたような目線でないのがせめてもの救いだ。



「君は案外いじめると面白いって分かったからヨシとしよう。寝物語の妄想姿になれて良かったね」



 神様は微笑みながら私の頭をなでるが、私の心の中なのか頭の中なのかを読まれた事に、あまりの恥ずかしさから両手で顔を覆い文字通り震えた。



「異世界に胸をときめかせて、前世の記憶を持ちながらも、わくわくしている今の状況の君のまま。先入観なしで俺の世界を生きるのが、一番素直な感想を聞けるかもしれないね……」



 そう言って神様は一歩下がって、私に向かって右手の平を向ける。

 何だ?何のポーズ?



「さて、では早速行ってもらおうか。初回は地球の記憶も持ったままの、そのままの君で行っておいで。俺は君がここに戻って来るのを楽しみに待っているからね」


「は?え、もう!?」



 神様、あなた何言ってるんスか。

 そんな言葉を出したかったのに、神様はどんどんとその手に力を集めてるっぽい。



「俺の世界の情報の無いままで俺の世界を読んで(生きて)、どんな風に感じるのかとても楽しみだよ」


「え、まってまって、流石にまだ不安が!あきらかに最低限な情報も足りないよ、ってか、いきなり過ぎませんか!?」


「ネタバレしたくないって言ったのは君じゃないか。それに、もし異世界転移していた場合ならこんなものでしょ。さあさあ、その姿でどんなところに転移したい?誰にも見られないようにするから大丈夫だよ。さあ世界と繋がった。早く決めないと俺が決めるよ?」


「……っも、もももも森で!奇麗な泉があって、苺とか生えてて、できれば小さな家があるような!」



 土壇場で想像した私が初めて降り立つ場所は、街中でも王宮の中でもなく、森。


 寝物語では本当に色々と夢想したのに、今この瞬間に思い出せるのは森の泉のそばでひっそりと暮らしながらも、ちょっとイケメンな人と出会ったりした未完の夢物語しか思い浮かばない!

 そんな私のセリフに、きっと私のやりたい事を思いついた神様が、ぶはっ!と大きく吹き出す。



「ベタだねー!ジャムとか作っちゃうの?モフモフさん達と戯れたり?」



 くっふっふ、と満面の笑みで手を振る神様。

 気が付けば私の体は大きなシャボン玉みたいなのに包まれていて、お化けの体の時とは違うふわりとした浮き方をする。

 そこで初めて、この場所を見た。




 見渡す限りに白く、ずっとむこうで雲のような霞が大きく大きく何重にも渦を巻き、螺旋になって上に伸びている。

 螺旋の先は、まさに輝ける天上。渦の先端は直視できないほどの輝きに細く吸い込まれていく。


 だけど神様と私がいた場所には、何にもない。誰もいない。

 慌てて下を向けば神様が笑みを浮かべて手を振っているけれど、他の神様が見当たらない事に胸がきゅっとなる。

 ふらふら組の神様がいるって言っていたけれど、本当に?

 神様は1人じゃないのね?大丈夫?


「かみさま……」


 きっとすごく不安そうな顔をしていたと思うけど、私の言葉はまるで瞬間移動をしたかのように途絶え、気が付いたら森に囲まれた、泉のほとりに突っ立っていた。







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