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アイラ・リューシェンカーとのデート

(最近はセレとアイラの接触がほぼない。ウィルもこちらのことなど気にしていないようだし、物語の死亡ルートは回避できているか?)

「坊ちゃん、今日の予定は?」

 学院の授業が休みの日。暇を持て余したディークは自室で本を読んでいた。お茶菓子を用意するフレットは、退屈そうにしているディークに問うた。

「何もないな。セレも自分の邸宅に帰ってしまったし、セレ以外で俺を相手にしようなどという者は、この学園にはいない」

 ディークは読みかけの本を閉じ、フレットが出した菓子に手をつける。湯気がゆらりと昇るティーカップにそろそろと口をつけ、ディークは再び思案顔をする。

(セレが糾弾されなければ断罪イベントは発生しない。このまま“あの出来事“を回避すればセレの身は安泰だ。問題はどうやって婚約破棄をさせるかだ。このままいくとウィルとの婚約破棄が為されない……うーん)

 ディークはセレと王子様の婚約解消の手立てを考えるが、いい案は浮かばずいっそ強引に連れ去ってしまおうかと無体な思考を働かせる。

「坊ちゃん、誰か来たみたいです」

 ディークがセレ奪取計画ん耽っているとフレットが扉の方に視線を向けた。直後、控えめに扉が叩かれフレットが返事をする。

「失礼します。ディーク様とお話がしたくて……」

「お前は……!?」

 ディークとフレットの視界に学院の制服を着たアイラの姿が映った。

(なんでこいつが俺の部屋に?)

「坊ちゃんは今休暇を取られている。事前に話も通さずに無礼だとは思わないのか、平民」

 フレットが語気を強めて威嚇する。だが、アイラは怯えた様子もなく飄々と切り返す。

「ここは学院の中。身分の差はあれど、今は同じ学院の生徒。それと私はディーク様とお話がしたくて来たの」

「なっ!? お前――」

「やめろ、フレット」

 挑発されたフレットはアイラを追い返そうと手を上げた。咄嗟にディークが制止しなければ倒されていただろう。フレットが。

(現時点でアイラは相当な力をつけているはずだ。精霊に愛された女、面倒だ。フレットが手を出せば俺の立場が不利になりかねない)

 ディークに止められたフレットは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、アイラを一睨みしてからディークを守るように立ち塞がった。

「俺と話がしたいと言ったな。何の用だ?」

「ディーク様とも仲良くしたいと思いまして」

 入り口で立ち止まっていたアイラは、フレットという邪魔がいなくなると躊躇うこともなく部屋に入りディークへとお辞儀をした。

「いきなりの訪問は謝罪します。しかし、私がディーク様と仲良くなりたいというのは本心です」

「ほお? で、仲良くなるとは具体的に何をするんだ?」

 ディークは試すような視線をアイラに向ける。だが、アイラは朗らかな笑みを浮かべ、生娘のように頬を赤く染める。

「その、デートしませんか?」

「デート?」

「お前! 平民風情が坊ちゃんと逢瀬ができると思っているのか!?」

 突拍子もないことを言い出したアイラにまたしてもフレットが怒る。

(意図が読めない。そもそも俺がこの学院に留学すること自、イレギュラーだから仕方にと言えば仕方ないのだが)

 ディークはアイラの考えを読もうとするが、ニコニコと微笑みディークを見つめるアイラの顔は少女そのものだ。

「俺はお前のことを知らない。いきなりデートと言われても対応出来かねる」

「では、友達から始めましょう!」

「なぜそこまで俺にこだわる?」

 諦めの悪いアイラにディークは視線と共に疑問を投げかける。読めないのなら直接聞き出すまで。

「ディーク様はクラスでも浮いてしまっています。私はみんなと仲良くしたいんです!」

(物語通りのお人好しだな)

 ディークのことを真剣に見つめているアイラは、本心から心配しているようだった。嘘を見抜くのが得意なディークは、アイラへの警戒を解いた。

「俺から馴れ合うつもりはない。勝手にしろ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

 顔一面に花のような笑顔を浮かべたアイラは、遠慮する様子もなくディークの目の前に歩み寄った。

 フレットが番犬のように威嚇するが、アイラは眼中にないといった様子でディークだけを見つめている。熱の籠もった視線を受けたディークだが、冷たい視線を返してやる。

「それじゃあ早速行きましょう!」

「は?」

「ディーク様は留学期間が終わったらいなくなってしまうでしょ? だからなるべくたくさん一緒にいたいじゃないですか!」

「急に現れて坊ちゃんを連れ回すだと! いい加減にしろよお前!」

「お付きの人は黙ってて」

 アイラの喉から底冷えするような声が放たれ、睨まれたフレットは警戒心を剥き出しに身を引いた。

(フレットが引いた? それに耳の毛が逆立っている……)

 一触即発の空気を出すフレットと、先程の冷たい雰囲気などどこかへやってしまったアイラ。けろりとしているアイラは、ディークの手を取り立ち上がらせる。

「善は急げ、ですよ!」

「おい! 待て平民!」

(これは何の展開だ!? 何がどうなっている!)

 戸惑うディークは考えることに必死で抵抗する余裕がない。

「精霊さん、あの人の足止めをお願い」

 アイラが、二人には見えない何かへと話しかけると、フレットは不思議な存在によって、部屋に閉じ込められてしまった。アイラは魔法を唱えると、颯爽とディークを連れ去ってしまう。

「アイラ・リューシェンカー。ちょっと止まれ」

 学院を飛び出した二人は、街の一角で立ち止まった。繁華街が先に見える大通りで、ディークはアイラの手を払う。

「なぜ街に出た。フレットも一緒じゃダメなのか?」

「二人きりがいいんです……」

 純情な乙女のようなセリフを、少し恥じらいを見せながら呟いたアイラは、ディークから顔を逸らした。

「お前の本心がわからない。俺はお前に好かれるようなことをした覚えがない」

「一目惚れです……」

「お前にはウィル王子がいるだろう。それに他にもたくさん」

「それは……」

 問われたアイラは言葉を詰まらせ言い訳を咄嗟に考える。

「と、友達は多いに越したことはないかと。ウィル王子はたしかにかっこいいですけど、婚約者さんがいますから」

「ふーん」

 ディークは聞いておきながら興味なさげに反応を示す。アイラはディークの顔を上目遣いで見つめ機嫌を伺っている。

「とにかく! 街に来てしまったんですし、今は楽しみましょう!」

 アイラは気まずい雰囲気を吹き飛ばすように言うと、さりげなくディークの手を握ろうとする。だが、ディークはサッと回避し「一人で歩ける」と冷たくあしらい先に歩いていってしまう。

「……? 好感度の問題? 知らないキャラだからかなぁ?」

 アイラの小さな呟きは、先を行くディークの耳には届かない。


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