糾弾
「セレスティア、こっちに来い!」
「ウィル様……はい、ただいま」
授業終わり。王子様に呼ばれたセレは取り巻きを連れる王子様の後ろをついて教室を出ていく。
「フレック。バレないように行け。何かあればセレを守れ」
「了解〜」
言われたフレックは暗殺者のように気配を消し、六人の後をつけて行った。教室に残ったディークは後の展開に思考を巡らせる。
(俺の介入によって物語は少しずつずれ始めている。まだ大きな変化とは言えないが、セレがやらかす前に解決してやる。セレをあの馬鹿王子から解放するんだ)
思案顔のイケメンに、教室にいる女生徒から熱い視線が向けられるが、ディークは全く気にも留めない。ディークには、セレ以外の女子など眼中にないようだ。
「セレスティア。アイラに謝罪しろ!」
「ウィル様……しかし、」
「しかしじゃないだろう。彼女が平民だからと言って虐げていい理由にはならない! それに、嫉妬なんて醜いぞ!」
「それは……殿下は王族なのですよ!? ご自身の立場をよくお考えに――」
「口答えをするな!」
学院にある裏庭に連れ出されたセレは、取り巻きたちに囲まれ、逃げ場を失い糾弾を受けていた。怒りに震えるウィルはセレの頬に平手打ちを放ち、
「はーい、そこまでー」
突如割って入ってきた少年、フレットによってウィルの手はセレに届かなかった。
「邪魔をするのですか? これは婚約関係にあるウィル殿下たちの問題。部外者は邪魔しないでいただきたい」
もう一人の取り巻き、魔法師団長の息子がフレットを睨みつけながら言い放つ。
「うちの坊ちゃんから言われててねぇ。このお嬢さん、皇妃になる予定だからさ、傷つけられちゃ困るんだよねぇ」
「皇妃? そいつは俺の婚約者だ。貴様らには関係ないだろ!」
「でも捨てるんでしょ?」
フレットは射殺すような鋭く冷たい視線でウィルを睨みつけた。体の小ささにそぐわない威圧感に、取り巻きは咄嗟にウィルを守ように立つ。
「それにさぁ、こんな死角になるようなところに女の子追い込んで、恥ずかしくないの? 後ね、結婚する気ないんだったらさっさと告げてあげなよ。セレスティア様が可哀想だ」
冷酷な決断をウィルに選択させようとするフレットの背後で、涙を噛み殺すセレがいた。俯きがちの肩がワナワナと震えている。
「フレット、何をしている?」
「坊ちゃん……」
裏庭で固まっている集団に声がかけられた。聴き慣れた、とまではいかなものの、耳について離れない威厳を感じさせる声音に、セレは顔を上げる。
「ディーク様……」
「またセレスティアを虐めているのか? フレット、先程の言葉遣いはなんだ? 婚約破棄した方がいい? セレスティアの気持ちを少しは考えてやれ」
「すみません。出過ぎた真似を」
「いや。セレスティアを守ってくれたことは感謝している」
ディークはセレの前まで行くと強引にその手を引いていく。
「セレスティア、行くぞ」
「あ、あの……」
「フレットの無礼を謝罪させてくれ」
セレの制止も聞かずにディークはアイラたちの前を立ち去る。腕を引かれるセレは力任せに振り解くこともできずされるがまま。
「セレスティア。フレットが失礼なことを言ったこと、深く詫びる」
「い、いえ。気にしておりませんので」
セレを談話室へと連れてきたディークは、またしても二人きりの状況を作り出した。
「その目が潤んでいるのが見えた。俺の目は誤魔化せないぞ」
「そんなこと……」
言いかけたセレの頬にディークは手を添える。
「セレスティアがあの王子を愛しているのは理解している。だが、俺は王子がお前に危害を加えようとしたときは何度でも邪魔をしてやる」
「……ウィル殿下は、あの女に騙されているだけです。殿下の気持ちは、必ず取り返してみせます。なので、ディーク様のお気持ちにはお応えできません」
「ふっ、わかっている。今はな」
最後の言葉を殊更強調してディークは手を離した。セレの氷像のような顔には強い覚悟が見られる。
ディークは談話室にセレを残して立ち上がる。外に出る際、扉を開ける前に顔だけセレの方を振り返り、
「これから俺という人間を知らせてやる。他の男など目に入らぬほどにな」
それだけ言い残して談話室を後にした。部屋の外にはフレットが待機している。
「フレット、食堂にでも行くか」
「いいですよ〜」
フレットを連れたディークは広い廊下を歩いていく。
「しかし、お前は性格が悪いな」
「今更ですよ」
「婚約破棄などよく口にしたな。セレが泣いていたらお前を殴り飛ばしていたぞ」
「坊ちゃんの姿が見えたので。あのタイミングなら、坊ちゃんの好感度も上がるかなーって思って」
「そういうのを計算しているから性格が悪いと言っているんだ」
「とか言って、しっかり利用してくるあたり、坊ちゃんも性格悪いですよ」
「俺は皇子だからな」
廊下で仲睦まじく話す二人に、すれ違う女生徒たちから熱い視線が向けられる。それを全く歯牙にも掛けない二人は、悪い笑みを浮かべながら食堂へと向かった。




