閑話
『ありがとう。まだ目を覚まさないだろうけど、ディークは大丈夫だよ。起きたら、ちゃんと話しかけてあげてね』
「はぁ、はい。ありがとうございます」
治療を終えたセレは額の汗を拭ってディークの体を抱える。
「僕が運びますよ。その腕じゃ大変でしょうから」
「ありがとうございます。ホルム殿下」
セレからディークを受け取ろうとしたホルムだったが、体格差にふらつき、セレが肩を貸す。
「手伝います」
「不甲斐ない」
「いえ、他にも死傷者がたくさんいます。ホルム殿下はこの場を収めてください。ディーク様は私も運びます」
「ええ」
ホルムは顔を上げ戦場を見渡す。触腕の一撃によって吹き飛ばされた魔法部隊のうち半数が無傷だ。ホルムは無事な者に早馬を走らせ、死傷者を一箇所に集める。
「荷車が来たら、可能な限り運ぶ! 無事な人は応急処置に当たれ!」
迅速な指示のもと、部隊は撤退へと動いていく。功労者であるディークは気を失っているが、誰もが安堵していた。死から解放され、脅威が去ったことに仲間同士で喜び合う。
(ディーク様……ありがとうございます)
戦場の一端でセレは心の中で礼を告げる。そして同時に、精霊に言われたことを思い返しながらしっかりと考えていた。
それからしばらくして、部隊は完全に撤収された。アイラだったものは氷漬けにされ頑丈な封印が施された。大罪人アイラの名は世界中に轟き、その恐ろしさから多くの者を震え上がらせた。
アイラの求めた名声は、違う形で成し遂げられた。それと同じくして、ディークの名も世界に広まることとなる。ディークがそれに気づくのは、まだ先の話になるかもしれないが。




