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最終決戦(3)

(腕の装甲が剥がれた!)

 バゴン! と岩を腕から剥がし、木の幹でできた内部が露わになる。三つ編みのように絡まった腕は鞭のように撓り、アイラはそれを地面に叩きつける。土埃を上げながら、腕は地面をドリルのように掘削し地中へと潜っていく。凄まじい地響きが魔法部隊がいる方向へと近づいてくる。

「全員退け!」

 ホルムの掛け声で魔法使いたちが飛び退る。同時に地面から植物が飛び出した。魔法部隊の半数以上が逃げ遅れ、弾き飛ばされ轢き潰された。悲鳴を上げながら逃げ惑う魔法部隊に追い討ちをかけるように触手が暴れる。

「動けるやつは魔法を止めるな!」

 折れた剣を構えるディークは再びアイラへと突っ込んでいく。ホルムもディークの心配をする余裕がなくなり、魔法部隊を纏め上げようと指示を飛ばす。

 魔法が止まったことでアイラは再び体を岩で覆っていく。頑健な鎧を見に纏ったアイラはまるで笑っているかのように顔を歪める。

「イィィィィィグッッ!!」

 地面から引き抜いた腕の所々に岩が生え、それを荊の鞭のようにディークへと叩きつけるアイラ。不用意に近寄れないディークはなんとか捌きながら懐へ潜り込む算段を立てる。

(至近距離で魔法をぶつければ、装甲は剥がせるか)

(そんなことしたらディークが死ぬよ! 魔力だってまだ回復しきってないし)

(一発打ち込めれば十分。魔力がなくなったくらいじゃ死なん)

(根性論じゃ無理だよ! たとえアイラを倒せたとしてもディークが……)

(やるしかないだろう。魔法部隊の援護も期待できない、ここで決めるしかない)

(でも──)

 ディークは精霊の忠告を無視してアイラへと迫る。強引に活路を作るディークに撓る腕が何度も叩きつけられ、服が破れ裂傷を刻んでいく。

(セレの魔法が完成する。その一撃で決める!)

「ゴァァァアァ!」

 しぶといディークに苛立つアイラだが、理性を欠いた攻撃が致命傷を与えることはなく、ディークは躱しながら魔法を構築する。

「我が盟に従い顕現せよ──」

「ブルゥゥゥッ!」

 煩わしそうにするアイラは両腕を地面に叩きつけた。振動でバランスを崩すディークへ追い討ちをかけるように地面が隆起する。剣山のように現れた岩がディークを貫こうと迫るが、既のところでディークは退避、往なして接近する隙を伺う。魔法の詠唱を途切れさせることなく、死線が幾度となく交錯する中で、ディークは最大限の集中をしていた。

(アイラの消耗も激しい。このまま押し切る!)

 植物の腕がディークに叩きつけられる。何度か打ち合った剣は既にボロボロで、岩に削られた肉体、おそらく骨には罅が入っている。だが、まだ動けるディークは気合で隙を穿つ。

「捉えた!」

 ディークは攻撃が緩んだ一瞬を突き懐へと飛び込んだ。

「蒼き光となりて空間を支配せよ。シュトルムプロジオン!」

 アイラの肉体で最も頑丈な、岩に守られた胸部に触れたディークはゼロ距離で魔法を発動した。バチバチと音を立て、高電圧の雷がアイラへ打ち込まれ、耐えきれなくなった岩が爆発する。強烈な爆発にアイラの巨体がのけぞり、土煙を上げる。視界が悪くなる煙の中から、同じように吹き飛ばされたディークが現れる。

「セレ、撃て!」

「空を裂き大地に轟け! 雷槍!」

 魔力も底をつき体も限界に達していたディークは投げ出されるままに身を任せ精一杯叫んだ。

 セレの魔法が土煙を晴らしながらアイラの胸部へと突き刺さる。弱点が露わになった植物の肉体に炎の槍が突き刺さり内側から燃やし尽くしていく。

「ゴァアァア!?」

 アイラの断末魔が響き渡り、追撃するように魔法部隊の攻撃が降る。次第に弱っていくアイラだったが、その瞳に宿る憎しみだけは衰えず、

「ディィィィグゥゥレオズゥゥゥゥゥゥウウッッ!」

 助けを求めるようにディークへと手を伸ばすアイラ。まだ延焼していない植物が動けぬディークを捉え、その体へ尖ったイバラを突き立てた。

「うぐぁっ!」

 三本の触手はディークの体を貫通し地面へと縫い付ける。血を吐くディークを見届けたアイラは、とうとう勢いを失い息絶えた。

「ディークレオス様!?」

「ディーク様!」

 ホルムとセレが慌てて駆け寄る。体に刺さっている触手を断ち切ると、セレはディークの息があることを確認する。

「誰か! 治療ができる人は!?」

「ダメです。学院にしか……」

 ディークの容体を確かめたセレは物凄い剣幕でホルムに迫る。しかし、部隊を引き連れてきた中に高度な治療ができる者はおらず、

「簡易な応急処置であればできる人が少なからず……」

「ですが! このままではディーク様が死んでしまいます!」

 未だディークの腹には触手が刺さっている。迂闊に引き抜けば出血多量ですぐに息絶えるだろう。

『セレスティアちゃん!』

 刻一刻と近づく死に焦る二人。その二人の間にパッと煌めきながら精霊が現れた。

『ディークの生命維持が危うくなって弾き出された! セレスティアちゃん、君が治療をするんだ』

「精霊様、私にはできません! 私に、力があれば……」

 俯き自身の無力を嘆くセレに、精霊は冷たい声音で話しかける。

『君はディークに認められた女性だ。弱音を吐くことは許さない』

「で、ですが……」

『ディークは君を愛している。たとえ世界を跨いだとしても、ディークは君を一途に思っている。今までその思いを伝えてきた。返事すらせずに、返事をしっかりと伝えずに君はディークを死なせるの?』

 精霊の言葉にハッとしたセレは腕の中で意識を失っているディークに視線を落とす。

(生真面目な君なら、こう言えばきっと、やってくれるよ)

 言葉の調子とは裏腹に、精霊はほぼ決まりきったセレの答えを待った。数秒にも満たない時間、黙考したセレは意を決したように精霊と目を合わせる。

「やります」

『よく言った。みんな、力を貸して!』

 ニヤリと笑ってみせた精霊はセレから視線を外して周りに浮遊している精霊たちに声をかけた。アイラが死にその束縛から解き放たれた精霊たちは、救ってくれた二人の元により集まる。

『僕たちが力を貸す。大丈夫、絶対にディークは生き返らせるから』

「はい」

『ホルム君、抜くの手伝って』

「はい!」

 ホルムと精霊はディークの腹に刺さっている触手に手をかける。セレと他の精霊は既に準備を整え、ホルムと精霊は一息に触手を引き抜く。

 血が吹き出しセレの顔を汚すが、そんなもの気にする余裕もなく、セレはディークの体に魔法をかけていく。精霊たちの力を借り、傷口が淡く光り、やがてその光はディークの体を包み込んでいった。

「帰ってきてください、ディーク様……」

 ディークの体にあった穴がみるみるうちに塞がれていき、傍で見守っていたホルムは驚愕に目を見張る。 

「すごい。この傷がこんなに一瞬で」

『さすがだね。精霊の力だけじゃない。セレスティアちゃんのおかげだ』

 傷が完璧に塞がったディークの体へと精霊は戻っていく。


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