最終決戦(1)
「あんたらにできることは、私にもできるんだよ!」
ディークの剣がアイラへと迫るが、アイラはテレポートでディークから距離をとる。しかし、精霊の魔法がアイラを逃すはずもなく、強烈な追撃にアイラは苦悶の表情を浮かべる。
「しつっこいなあ!」
痺れを切らしたアイラは極大な水塊を顕現させると、迫るディークへと叩きつけた。自分を巻き込む諸刃の攻撃だが、アイラは軽く水を浴びただけですぐ逃げてしまう。空中に浮かぶアイラは見下したように笑みを浮かべている。
(くそ、近づけん)
剣一本で対抗するディークはジリ貧な状況に歯噛みする。
「ディークレオス! なんでそこまでセレスティアにこだわるの!? 私でいいじゃない! 可愛いし力だって申し分ないはずでしょ!?」
上空から降る声を受けるディークは呆れた反応を見せる。
「まだ言うか……」
「私は本気だよ。自分では作り出せなかったものをディークレオスは持っている。どんなイケメンを作っても、私の心は満たされなかった。それが現実なものになっても、虚像からは何も感じない!」
「悪いが、俺はセレスティアを愛している」
「なんで!? セレスティアを作ったのは私なんだよ! つまり、ほぼ私なんだよ!」
「それは違う。お前はこの世界の何者でもない」
「くそくそくそくそ!」
ディークを求めるアイラだが、ディークの心が揺らぐことはなく呆気なく振られしてまう。
「なんなんだよお前は! 大体、二次元のキャラに恋するとかキモイんだよ! どうせ前世は引きこもりでキモデブな陰キャだったんだろ!? それがなんだよ。恵まれた環境に生まれたからって調子に乗りやがって!」
怒ったアイラの周囲が乱れる。
(ダメだ、アイラの魔力が暴走してこっちの魔法が弾かれちゃうよぉ)
精霊の放つ刃は、アイラの手前一メートル辺りで掻き消された。他の魔法も試してみるが、同じように歪んだ空気に阻まれ霧散する。精霊が攻撃を止めたところで、ディークは口を開く。
「確かに、俺は恵まれた環境に生まれたのかもしれない。だがな、全てを手に入れることが幸せだと思っているのなら、大間違いだ!」
「何を、」
「お前はこの世界に来て全てを手に入れたじゃないか。ウィルという権力、数多の男、強さだって持っている。精霊の血を引き、あまつさえ世界を支配する力すら持っている。だが、今のお前は幸せに感じていないのだろう?」
「うるさい! 私はディークレオスさえ手に入れば……。お前の魂を追い出して、ディークレオスを手に入れる!」
「お前がやっていることはただの自己満足だ! 自分で作り出した世界でお人形遊びをしている子供だ! 物語の主人公になったつもりで、物語に自己投影して悦に浸っている変態だ!」
「なっ!? 私は商業作家だぞ! みんなに認められて小説を書いてるんだ! 馬鹿にするな!」
羞恥か怒りか。顔を真っ赤にするアイラは暴走する魔力をそのままに、力任せの魔法を放つ。短文詠唱から繰り出される十数本の火矢は、曲線的な軌道で翻弄するように二人へ迫る。
(転移は無理かな……)
避けた火矢はまるで生きているかのように標的を追いかける。ディークは回避を諦め、精霊に迎撃を任せる。
(飛んで叩き斬る。風で合わせろ)
(了解!)
(三秒だ。二、一)
心の中でタイミングを合わせるディークは、グッと足を踏み込むと力一杯跳躍する。そこに精霊が起こした風が加わり、ディークは上空へ打ち上げられる。風の加速を得たディークは一瞬でアイラの上を取った。
「はっ、馬鹿ディーク! こっちに人質がいるんだよ──」
「やっと油断したねぇ。残念だけど、セレちゃんはもうこっちにいるよぉ」
「なんっ!?」
下からかかる声にアイラは振り向く。手元にいたはずのセレは精霊と共に地面へと降り、アイラはギョッとしてディークの存在を一瞬忘れてしまった。
「終わりだ」
「──っ!?」
ディークの剣が袈裟斬りに振り下ろされ、アイラの体に致命傷を与える。胸元から脇腹まで走る剣線。
「あああああああ!?」
アイラは痛みに悶え、叫びながら地面へと叩きつけられた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
夥しい量の血を流すアイラは痛みを堪えるように蹲り、体はガクガクと震えている。
「死に、たくな……」
張り裂けんばかりの声は次第に弱くなっていき、アイラは意識を失った。流血量も半端なものではなく、今から蘇生しても間に合わないだろう。
「ぐっ……」
『ディーク! 大丈夫!?』
「ディーク様!」
アイラを討ち取ったディークは着地と同時にその場で崩れ落ちた。辛うじて受け身は取ったが、顔面蒼白で呼吸も浅い。
『消耗が激しい。僕はディークの中に戻るから、セレちゃん頼んだよ』
「は、はい!」
セレは無事な左腕を使ってディークに肩を貸す。痛みに顔を歪めるセレだが気合で堪える。
「セレ、無理するな。お前の方が重症なんだ」
立ち上がったディークはフラつきながらも自分の体を支えるセレから離れた。




