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アイラの正体

「ああ、来た来た」

 アイラの声に合わせるようにセレも森の奥を見る。魔法の影響を受けずに残っている森の隙間から走ってくる人影が一つ。

「セレェェェェエ!!!!」

 抜剣したディークは一直線に二人の元へやってくる。呪いの疲労を感じさせない堅強な足取りで、殺気に満ちた瞳はアイラを凝視している。

「ディークレオス! 動くな! セレスティアの命は私が握っている!」

「ディーク様!」

「セレ、待っていろ。この女を倒してすぐ助ける」

 互いを正面に置く二人は二十歩ほどの距離で睨み合う。

「これを見てもまだそんなことが言える?」

「うぁ……っ!?」

 セレの髪を鷲掴みにしたアイラは、強引に自分の前へとセレを引き摺り出す。右腕を庇うようにして痛みに呻くセレを見たディークは、一瞬で頭に血が昇るのを感じた。酷い仕打ちを受けた痛々しいセレを目の当たりにしてディークは怒る。

「お前は……」

 二の句が告げないディークは剣を握る拳に力がこもっている。カタカタと震える手は衝動を抑えているようで、今にも斬りかかりそうなほどディークの胸中は燃えている。

「左腕も砕いちゃおうかなあ」

 ニヤニヤと挑発するような笑みを浮かべるアイラはセレの左腕を掴もうと手を伸ばした。だが、その手がセレに触れる直前。一刃の風が阻むように通り抜けた。咄嗟に手を引っ込めたアイラの指先を掠めた風の刃は小さな切り傷を付け後方に消えていく。

『僕がいるのを忘れてもらっちゃ困るよぉ』

「精霊……あんたも私のコレクションに加えてあげる。ディークレオス諸共ね」

『うぇー、コレクションだってよ。悪趣味だね。他者を従えることでしか自分を肯定できないんでしょ? だから態度だって無駄に大きい。本当は怖いんでしょう? 僕たちが言う通りにならないことが』

「うるさい!」

 ディークの肩に乗った精霊はおちょくるようにうすら笑いを浮かべる。怒りを露わにするアイラは魔法を放つが、それも精霊によって相殺されてしまう。

「ああああっ! クソがっ! 大地よ、飲み込め!」

 アイラが叫ぶと、ディークの周辺、十数メートルの地面が隆起し、包み込むようにディークたちに覆い被さる。津波のように襲いくる土砂は逃げる隙間を埋める。

「潰れてしまえ!」

 ディークと精霊を丸呑みにした地面は泥団子でも作るかのように固められ大きな土塊となる。

「やった」

「甘いねぇ! 君にできて僕たちにできないことなんてないんだよ!」

「なっ!?」

 アイラの背後から精霊の声がかかり、咄嗟に振り返ったアイラにディークの剣が迫る。袈裟斬りの一撃はアイラの首を捉えている。そのまま勢いよく振り下ろされるが、

「あっぶないじゃない!」

 魔法か。一瞬でディークから距離をとったアイラは忌々しげに精霊を睨む。

「転移の魔法が君の専売特許だと思ったら大間違いだよぉ」

 土塊に潰される寸前、ディークごと転移した精霊は嘲笑うように告げる。食堂から逃げられた意趣返しか、アイラの攻撃を簡単に回避してみせる。

『ディーク、まだいける?』

「あたり前だ」

 転移を行なったディークは額に汗を浮かべているが、まだふらつくほどではなく、気丈に剣を構え立っている。距離の短い転移であればそれほど魔力を消費しないとはいえ、連発できるような代物でもない。ディークの身を案じる精霊は次なる一手を考える。

(でもぉ、あの攻撃を受けてもセレを離さないなんて、余程の執着心だねぇ)

(本当に、面倒な奴だ)

 未だ人質になっているセレは息を切らしながらディークたちの戦いを見守っている。

(ホルムたちが来る前には、こちらにセレを抱えておきたい)

(何しでかすか分からないしねぇ)

「私の世界で、私の思い通りにならない存在なんていないのよ!」

 アイラの魔法が二人を襲う。雷による挟撃、二本の矢が高速で飛来するが、二人の体には届かない。

「一つ気になってることがあってな!」

 魔法を剣で弾くディークは魔法の炸裂音に負けないように声を張り上げる。

「ずっと言ってるようだが、私の世界っていうのはなんの話だ! 神にでもなったつもりか!」

「私は神なのよ! この世界を想像した神! この体も、王子様も取り巻きも、セレスティアだって私が作り出したの!」

『こいつは何を言ってるの?』

 嘲るように呟く精霊だが、セレも似たような反応で、痛い人を見るかのような視線を向けている。

「なのに、知らないキャラクターが出て来たと思ったら! こんな結末になってるし! なんなのよ! この世界は私の意思で生まれたのよ!?」

(ディークと同じ転生者ってやつじゃない?)

(そんな予感はしていたが、ただの転生者じゃないぞ、こいつは)

 アイラの発言からディークはずっと抱えていた疑問を口にする。答え合わせをするかのように。しかし、ディークはほぼ確信を得ていた。そんなことあるはずがないと口に出さないでいたが、

「アイラ、お前は、ブルキングか?」

「なんでその名前を!?」

 驚愕するアイラの攻撃が止む。ディークを警戒するように睨みつけ、正体を暴こうと目を凝らしている。

「まさか、ディークレオスも……」

「作者自ら転生しているとは、思いたくなかった」

 ブルキングとは、ディークが初めてのめり込んだ小説の作者名である。セレを生み出し、殺した人間。ディークにとっては憎い相手である。それが、またしてもセレを窮地に立たせ酷い仕打ちをしている。

 だが、今のディークには報復するための手段がある。法律に縛られ、行き場のない怒りと悔しさをぶつける先がある。前世で果たせなかった復讐を、新たな世界で。

(この感情が醜いということは分かっている。それでも、俺はこいつを許せない)

(人間ってすごく面倒な生き物だよね。この世に善も悪もないのに、変なことで悩む)

(ああ、俺もそう思う。だから、こいつは殺す)

 ディークは決意に満ちた瞳を光らせる。憎しみをぶつけるべく、剣を手に走り出した。


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