大罪人セレスティア
時は少し遡り、授業が終わった放課後の食堂。ディークは足早に教室から姿を消し、午後のティータイムを楽しむ生徒たちが会話に花を咲かせ、食堂はなかなかの賑わいを見せている。
その中の一人にセレの姿もあった。従者も連れずに一人で茶菓子を嗜む姿は、絵画のように様になっていて、食堂の中でも良い意味で浮いている。
「セレスティア!」
そんな静謐な空気に包まれたセレの聖域を、不躾な男の声が侵害する。
「ウィル殿下。お疲れ様です」
「アイラに対する数々の仕打ち。その証拠を持って、今日はお前を断罪しに来た」
詰め寄って来たウィルに対し、セレは冷静に、他人行儀な返事をした。そんなセレの変化を気にも留めないウィルは、自分の用件をさっさと伝えた。だが、身に覚えのない、とまでは言わないものの、改めて指摘されるようなことをした記憶がないセレは怪訝な表情を浮かべる。
「とぼけても無駄だ。証拠も用意してきたんだからな」
自信に満ちたウィルは、ディークに邪魔されないのを良いことに、声高に自分の存在をアピールする。これから始まる断罪の証人として周りを巻き込むように。
生徒たちは先ほどまでと打って変わって喧騒を抑えている。睨み合う二人を眺めながら(またか……)と、呆れた顔の者もいる。だが、誰もウィルの行動を咎めはしない。
「私が、アイラさんに何かしましたか?」
さっさと本題を話せと言いたげなセレは、ウィルの背後に控えているアイラに視線を向けながらとぼけて見せる。
「白々しい。アイラにきつく当たるのは当たり前。俺の横はふさわしくない、平民だとバカにしただろう!?」
「ウィル殿下は王族ですので、平民が立場を弁えるのは当然かと思います」
「そうやって身分を持ち出すのが俺は嫌いだ。学院の中でくらい、級友として仲良くできないのか」
嫌悪感を露わに、吐き捨てるウィルはセレに侮蔑の視線を向ける。そんな目で見られたセレは呆れ半分にため息を噛み殺して立ち上がる。
「ディーク様は皇族としての立場を理解し、それを全うしておりました。私たちは上に立つ者としてその意味と価値を守らなければならないのです。この学校に集まっているのは貴族の令息令嬢たち。後に王家へと仕える者たちです。彼らのためにも、貴方は威厳を保たねばならないのです」
怯む様子を見せないセレは強気な目でウィルを見据え、威厳を携え凛とした声で主張する。以前よりも自信と気迫に満ちたセレの姿に、ウィルはたじろぐ。
「そんなことは、王になってから示せば良い。それよりも! お前が犯した罪はそれだけじゃないぞ!」
ウィルは話をすり替えセレが犯したという罪を告白する。
「先日の魔物襲撃事件。アイラを狙い多くの生徒たちを危険に晒した事件。その首謀者はお前だ、セレスティア!」
「は?」
いきなり何を言い出すのか。セレは全く知りもしない、濡れ衣も甚だしいウィルの発言に疑問符を頭上に浮かべる。
だが、そんなセレの様子に反して、食堂の中にはざわめきが広がっていく。疑いと好奇の視線に晒されるセレは、ウィルの真意を確かめようと問いかけた。
「ウィル様。いくら私でもそんなことはしませんわ」
「口答えをするな。証拠は押さえているんだ。往生際が悪いぞ」
「証拠だなんて……私は本当にやっていな──」
「証人もいるぞ」
「え……?」
セレが言い終わるのを待たずして発せられたウィルの言葉は、食堂の空気を一瞬で張り詰めさせた。疑問と僅かな焦りを顔に滲ませるセレは、ウィルが呼び出した証人に目を向ける。衛士に連れてこられた男は、俯きがちに食堂の中を抜けてくる。全く見覚えのないやつれた男が後ろ手に縛られ、千鳥足でセレの目の前に跪いた。
「この方は、誰ですか?」
「魔物を召喚した男だ。お前の指示でやったと自白もしているぞ」
「そんなわけがっ……」
「まだ言い逃れする気か。見苦しいぞセレスティア。そんなに信じられないのなら、この男の口から直接言わせてやろう」
ウィルは俯く男の顎に手を添えクイっと持ち上げ、爽やかな面に僅かな怒気を孕ませながら男に質問する。
「セレスティアに命令されたんだな?」
「はい。セレスティア様から召喚石を渡され、魔物にアイラを襲わせるようにと指示されました」
ウィルの質問になんの抵抗もなく自白する男は、空を見つめる虚な瞳で淡々と述べる。まるでそこに自我が存在していないかのような男の様子に、セレが抗議の意を示した。だが、
「言いがかりをつける気か?」
「ですが! 明らかに彼の状態は正常では……」
「セレスティア、お前はいかしておけん。自らの手を汚さず、ここにいる生徒たちを危険に晒した罪、その命を持って償ってもらうぞ」
発言を許されない空気の中、セレは絶句する他ない。食堂内のざわめきはセレに対する疑念や憤りに支配され、今やセレの勝ち目は無くなってしまった。
「セレスティアを拘束しろ」
ウィルは縄を持った衛士に命令しセレを捕らえようと──




