セレVSアイラ
魔法祭のスケジュールは全部で四日。普段は戦争と関係の薄い貴族たちにとっては、決闘部門が大目玉となっている。決闘部門には多くの学校関係者、騎士団の人間も見に来るため、会場はかなりの賑わいを見せる。
決闘部門に出場するディークは、控室で優雅に寛いでいた。ティーカップを片手に、読書に勤しむディークを咎めるような人間はいない。
予選を余裕で勝ち抜いたディークは、フレットと二人きりの控室で自分の番を待っている。
魔法祭は年齢、学年に関係なく出場権があり、上級生と接触する数少ない機会である。下級生にとっては、力を持つ貴族とお近づきになるチャンスでもあり、祭り開始前から積極的に動く者もいる。
「フレット、セレに気を配っておけ。大丈夫だとは思うが、邪魔が入ってはいけない」
「了解です」
ディークのクラスメイトであるアイラ一派とセレも当然のように本戦へと駒を進めた。その中でも一番の注目は、アイラであった。
唯一の平民でありながら多彩な魔法を操り戦場を自由自在にコントロールする技術。そして尽きない魔力。精霊の力を借りるアイラは魔法の数が多く、詠唱も唱えずに行使する。多くの人間は、その手数の多さと威力の高さに翻弄され手も足も出なかった。
(セレとアイラはぶつかるな。俺の次の相手はあの王子様か)
「坊ちゃん。あと二勝で優勝ですね!」
「ああ。俺は通路でセレとアイラの試合を観戦する。お前は客席から全体を見ていてくれ」
「分かりました」
そろそろだな。と、時計を確認したディークは控え室を出て魔法訓練場に足を向ける。学院内は閑散としており、会場に近づくにつれてざわめきが感じ取れる。
「どれだけ善戦できるか。特訓だけでは、あの女には勝てない。セレが無理をしなければ良いが」
魔法訓練場の入り口までやってきたディークは、まだセレとアイラの戦いが始まっていないのを確認すると、通路の壁に寄りかかってセレが通りかかるのを待つ。そして、数分も待たぬ間にセレがやってきた。
「ディーク様……」
「セレ。お前の全力をぶつけてこい。お前なら大丈夫だ」
「はい! これまで鍛錬に付き合っていただきありがとうございます。全力で勝利を手にしてみせます」
自信と覚悟に満ちたセレはそれだけ言い残すと、会場の中へと踏み出していった。
(アイラの力量がどれほどのものか。見定めさせてもらおう)
セレと同じタイミングで反対の入り口から登場したアイラに、ディークは鋭い視線を向ける。目を少し逸らせば、観客席の中に王子様の姿も見受けられる。
決勝への切符をかけた戦いだというのに、会場は思ったほど上がっていない。妙な静けさの中に風の音だけが響く。
「セレスティアさん。本気でやらせてもらいます!」
「ええ。私もよ。この勝負に勝って、ウィル殿下を返してもらいます」
二人は互いを正面に捉え構えをとる。二人の勝負の行く末を見守る観客は、固唾を飲んでいる。
そして、訓練場の中に高い笛の音が響く。場外にいる審判の合図で試合が開始された。
「はぁっ!」
始まりの合図と共にセレが先に仕掛けた。無詠唱魔法を放ちながらアイラへと突貫する。片手には剣を携え、隙だらけのアイラを襲う。
セレの放つ魔法を弾きながら、アイラはセレから距離を取る。
「精霊さん、お願い!」
アイラが叫ぶと、周囲の空間から魔法が出現する。
精霊の姿が見えない人間からすれば、アイラが無詠唱で魔法を発動したように見えるだろう。アイラの周囲を漂う精霊たちは、それぞれが意思を持ってセレを攻撃する。
「くっ……」
突如放たれる数多の魔法を迎撃、あるいは回避するセレはアイラに近づけない。アイラ単体との勝負であればセレが余裕で勝利していただろうが、精霊がついているアイラに勝てる人間はほぼいない。
「空より現れ彼方の地へ――」
精霊の魔法から逃げるセレはそのまま詠唱を開始する。
「並行詠唱だと!?」
すると、観客席にいた誰かが声を上げた。それはこの会場にいた誰もが思っていたことであり、見ている者たちの顔には驚愕が張り付いている。
「しかもあれだけの攻撃を躱しながら……」
「平民の少女は無詠唱でバンバン魔法撃っているし、なんてレベルの高い戦いなんだ!」
次第に観客席の興奮も増していき、二人の戦いに多くの者が釘付けになっていた。
「吹き荒れろ、暴風!」
場内を駆け回るセレは詠唱を完成させ、魔法で風を巻き起こす。さらに、そこに無詠唱で発動した魔法を叩き込み、地面を爆発させる。風によって巻き上げられた砂埃が会場中の視界を覆い隠す。
セレは燃料を投下するかのごとく、火魔法を暴風の中へと放ち、地面をボコボコに破壊し尽くす。
「目眩しなんて、無駄なんだから!」
「ぅあっ!」
吹き荒れる砂塵に、アイラは数発の石礫を放った。その一つがセレの肩を掠める。
観客席からは何も見えない中、二人の声だけが状況を知る手立てとなる。
「轟け、水竜の咬合の如く! 瀑布!」
砂塵舞う暴風に痺れを切らしたアイラは、セレの魔法を打ち消すための魔法を放つ。会場の真上から滝のように水が降り注ぐ。たちまち濁流となった水は場内を溢れんばかりの力で蹂躙する。
「ぐぅ……ぷはっ!」
水は四つある出入り口から流れ出していく。その勢いに押されたセレは壁際まで追い詰められながらも抗う。
「いい加減に、諦めてください!」
「私は、負けられない!」
ずぶ濡れになったセレだが、まだ諦めていない。アイラの実力を知ってなお、闘志に燃える表情を崩しはしない。
「なら、次で終わりにして――」
「揺らげ、火炎!」
なりふり構わないセレは、無駄口を叩くアイラに向けて魔法を放つ。だが、それも簡単
に防がれてしまった。




