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ホルム・ソアーロ第二王子

 ディークたちが街で襲撃を受けてから二日。学院では平和な日常が流れていた。

 襲われた二人は学院から事情聴取を受けたが、無駄な混乱を防ぐために生徒たちには情報が伏せられた。

 周囲の権力ある者の耳には入っていたが、多くの生徒たちはそんなこと知らずに、今まで通りアイラと接している。

 ディークは元より人間関係が広くないため、フレットとセレに心配される程度に留まった。

 ディークは授業終わりの放課後。自室でコーヒーを楽しみながらフレットとの会話に興じていた。

「坊ちゃん。本当に国の方に報告しなくていいんですか?」

「ダメだ。セレを落とす前に国に連れ戻されたんじゃ堪ったものではない。それに、今回狙われたのはアイラであって俺じゃない。あいつを助けようとしなければ巻き込まれなかった」

「とんだ疫病神ですね」

 フレットは呆れた様子でディークを見る。フレットはディークが重傷を負ったことを知らない。アイラが奇跡の力でディークを助けたことを知らない。

「いいんだよ。それよりも俺はセレと話がしたい。休みの間はずっと我慢していたからな」

「昼休み、一緒にご飯食べたじゃないですか」

「足りないんだよ」

 ディークは言いながら立ち上がると、自室を出てセレの部屋へと足を向ける。フレットがそれを止めるはずもなく、ディークの後ろを姿勢正しくついていく。

「坊ちゃんは魔法祭に出ます?」

「出るよ。セレにいいところを見せなければならないからな」

 フレットが口に出したのは、魔法学院で年に一度開催される行事の一つだ。生徒同士が普段学習していることの成果を披露する場所。国の騎士隊の人間も見に来るため、爵位を継がない生徒たちにとっては重要なイベントになっている。

 魔法祭はその名の通り魔法を使って行われる。芸術部門・決闘部門の二つがあり、目玉は決闘部門。多くの生徒が参加する。

 決闘部門は一対一での戦闘で、予選本選とあり、優勝するには多くの戦いを制する必要がある。連戦できる持久力、魔法の技術の高さ。その両方が求められ、毎年強者がこの大会の優勝を狙って研鑚を積んでいる。

 優勝者には毎年特別な魔道具が与えられるのも魅力の一つとなっている。

「俺が強ければセレだって少しは意識するだろう」

「強い男が好みだといいですね」

「強い男を嫌う女などいないだろう。悪いが俺には地位も権力も金もある。容姿だって悪くない。生まれた時から俺にはなんでも与えられた。そして強さまでも手中にあるとなれば、無敵だろう?」

「いっそ清々しいですね」

「謙遜する皇族など嫌だろう。上に立つのなら堂々と、強く気高くなければならない。まあ、俺の場合は皇帝にはならないがな」

「坊ちゃんの場合は謙遜抜きでなんでも持ってますからね」

 ニヤリと楽しげな表情を浮かべるディークに、フレットは納得してしまう。子供っぽい性格なのが玉に瑕だが、それもまた愛嬌だろう。

 前世からなんでも持っていたディークにとっては持っていることがデフォルトなのだ。そんな男が未だ手に入れることのできない女性。それがセレである。負けず嫌いのディークが熱くなるのも仕方がないのかもしれない。

(魔法祭か。物語では何事もなく終わっていたはずだ。確かアイラと王子の仲が進展して。この時点でセレは婚約破棄を言い渡されていたが、今はそうなっていない……)

 ディークはいかにして王子様からセレを奪い取るかを考える。物語上で奪えるタイミングを逃してしまったため、ここからはアドリブが必要になる。

「ディークレオス殿下。少々よろしいですか?」

 思考に耽るディークに、正面から誰かが話しかけた。ぼんやりとしていたディークはすぐに意識を切り替え、話しかけてきた人物に焦点を合わせる。

「誰だ?」

「初めまして。僕はホルム・ソアーロ。この国の第二王子です。ウィル兄さんがお世話になっています」

 胸に手を当てお辞儀をした少年は、ディークの目を真っ直ぐ見つめながら丁寧な挨拶を見舞った。

「そうか。生憎だが俺は忙しい。後にしてくれ」

「そう仰らずに」

 ディークは軽い調子でホルムを躱そうとするが、ホルムは引き下がらない。

「俺はセレに会いに行くのだ。邪魔をするな」

「そのセレスティア嬢のことで、お話があるんですよ」

「……何?」

 ホルムを避けて先へ行こうとするディークの足が止まった。ホルムは楽しげに、底の見えない笑顔を浮かべながらディークの顔を伺っている。

「ディークレオス様に損はさせません。ほんの少し、僕とお茶でも交えながら親睦を深めていただければ」

 試しているような、意図の透けない嫌な顔をするホルムに、ディークは数秒考えてから「いいだろう」と、ホルムの誘いに乗った。

 ディークたちはホルムの案内によって、学院の端にある植物園のような場所にやってきた。温室の中には鋳物のテーブルセットがあり、近くには噴水もある。マイナスイオンと花々の香りを感じする場所で、二人は丸テーブルを挟むように腰掛けた。

 ディークの背後にはフレットが控え、座る二人の前に紅茶と菓子が用意される。ホルムの従者は手際良く机の上を整えると、足早に去っていった。

「それで、話とはなんだ? 人払いを済ませた場所に連れてくるとはな」

「ええ。今から話すことは僕たちだけの秘密です。ディークレオス様、僕と同盟を結びませんか?」

 早速本題を聞き出そうとするディークに、ホルムは焦る調子もなく淡々と告げる。

「同盟?」

「はい。今から僕の計画を話します。この計画については他言無用です。たとえ僕と同盟を結ばなかったとして、一切外に漏らすことは許されません」

「ほお? もし漏らせば?」

「僕が命令するしないに関わらず、あなたの命が確実に狙われる」

「つまり、今からお前が話す情報は、命を多少でも賭ける価値があるということだな?」

「はい。絶対に満足のいくお話を、お聞かせしましょう」

 自信に満ちた表情ホルムは、まるでディークが肯くと確信を抱いているような調子で言葉を繋げる。

「同盟の件はもちろん話を聞いてからで構いません。どうしますか?」

「まあ、漏らさなければいいだけだろう? なら聞くだけ損はないな」

「ふふ、ディークレオス様が話の分かる方でよかった。ありがとうございます」

 改めて礼をしたホルムは一呼吸おいて紅茶に口をつける。まったりとした空気が温室の中に漂うが、すぐにホルムは気を引き締める。

「僕はこの国の王にならなければなりません。そして、そのためには兄を陥れる必要があります」

「継承争いか」

「はい。そこで、僕は兄の力を削ぐために、セレスティア公爵令嬢との婚約を破棄させたいのです」

「なるほどな。そこで俺に白羽の矢が立ったわけだ」

「はい」

 簡潔に計画の大筋を述べるホルムに、ディークは怪しい笑みを向ける。腹の底を探るような視線に、ホルムも返す視線でディークの心意を見抜こうとする。

「それで、具体的にはどうするつもりなんだ?」

「詳細に関しては、同盟を結んだ後に。僕たちの思惑はここまでです。どうでしょうか? ディークレオス様と利害が一致しているでしょう?」

 問うホルムにディークは無言を返す。頭の中ではホルムが企てるであろう計画を予想している。

「その計画とやらは、セレの身に危険は及ばないんだろうな?」

「もちろんです。僕たちも公爵家を敵には回せません。ですが、セレスティア嬢がディークレオス殿下と婚姻されれば、我が国にとっても悪いことではありません。国同士の友好を深めるためにも、より良い国を作るためにも、それが最善ですから」

「そうか」

「それに、セレスティア嬢を傷つければ帝国の皇子が黙っていないでしょう。僕は兄より先に帝国を相手にするほど強くないので」

「それもそうだな。セレスティアの身に何かあれば、すぐさま帝国の全権を手に入れて元凶を滅ぼしに来るだろう」

 ディークは挑発するような邪悪な笑みを浮かべながら圧をかける。第三皇子といえど、武と魔法の才に長けた強者の圧力。ホルムは首筋に冷や汗を浮かべながら苦笑いで返すほかない。

「では、同盟成立ですね」

「ああ。と言っても、俺がやることはほとんどないのだろう?」

「はは、そうですね」

 二人は立ち上がると丸テーブル越しに握手を交わした。ここに、王位を狙うホルムとセレを狙うディークによる同盟が締結された。証人はフレットと、いつの間にか戻っていたホルムの従者。

「じゃあ、俺は本来の用事に戻るとしよう」

「ああ。セレスティア嬢なら第二魔法訓練場ですよ。魔法祭に向けて鍛錬を積んでいるようです」

 立ち去るディークの背中に、ホルムは声を投げた。初めからディークの目的を分かっていたホルムにディークは口角を歪めながら、

「助かる。では、また」

 と、言葉だけを返して温室を後にした。


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