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面倒な聖女

 爆発事件の後処理を済ませたディークとアイラ。二人が学院に戻れたのは日付を跨ぐギリギリの時間だった。

「クソ……あんなに時間を取られるなんて聞いてないぞ」

「疲れました……」

 ぐったりとする二人は、学院へと向かう夜道を衛兵の出す簡素な馬車に揺られながら進んでいた。クッションもスプリングもない荷馬車のようなそれは乗り心地最悪で、二人は顔を顰めている。

「そうだ。お前にこれをやろう」

「え……」

 ディークは思い出したようにポケットから赤い櫛を取り出した。穴の空いた制服から白無地のシャツに着替えたディークは、素っ気なく櫛を手渡す。

 驚き戸惑うアイラはおずおず櫛を受け取ると、怪訝な視線をディークに向けた。

「なんで?」

「欲しそうにしていただろ」

「で、でもディークレオス様は私のこと好きじゃないって――はっ! まさか、あれは照れ隠し!?」

「違う。今日のこれはデートなのだろう? ならば、贈り物の一つくらい出来なければ俺の甲斐性が疑われかねん。これでも一国の皇子なんでな」

「そうですか……嬉しいです!」

 櫛を大事そうに抱えるアイラは、ひまわりの如く明るい笑顔でそう口にした。熱っぽい目線で見つめてくるアイラを、ディークはなんともない視線で受け流す。

「今日は助けていただきありがとうございました」

 改めて礼を言うアイラは深々と頭を下げる。

「お前はなるべく王子様に守ってもらえ。俺では力不足だろう」

「いえ、ウィル様には迷惑をかけられません!」

「俺なら迷惑をかけても良いと?」

「いやぁ、将来的に結婚するならこれも愛らしいうちに入らないかなーって……」

 上目遣いでディークの顔色を伺うアイラは、キラキラと子犬のように瞳を輝かせる。

「本当に俺を狙っているのか?」

「はい! 一目惚れです。初めて見た時から、かっこいいなって思ってました」

「そうか。でも悪いな。俺はセレを愛している」

「……そうですか。でも関係ないです! なぜならセレスティアさんはウィル様の婚約者なので!」

 めげないアイラは快活に笑う。純情そうに見えて意外に強か。侮れない相手にディークは苦笑いを浮かべる。

(面倒な奴に目をつけられたな)

 ディークはアイラから目を離し外の景色に顔を向ける。夜の帳が落ち外灯も疎らについている。夜風に吹かれるディークは気づかない。視界の外にあるアイラが冷酷な表情を浮かべていることに。


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